【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#13
第2話「カーシェア事件を調査せよ!」
2nd ミキ、単独調査に乗り出す。
#13
山田茜は常識的な人物に見える。カーシェアリングで借りた自動車を擦ってしまった時に、黙って塗装して知らん振りするとはとても思えない。
でも、わたしは調査員なのだ。まずは疑ってかからなければ。
「うーん、確かに、見たはずなんだけどな……」
利用前に車の確認をしたか、と質問すると、そう答えが返ってきた。
「山田さんが運転中に接触した可能性は」といいかけて、言葉を遮られた。
「それは信じて、絶対にないから。デミオは何度も乗っているから感覚も掴んでいるし。わたし、こう見えても、運転は好きだし自信あるの。もちろん、ゴールド免許よ」
財布からゴールド免許を取り出してわざわざ見せてくれた。
免許証の写真も素敵で、つい見とれてしまう。今よりも少し若くて、髪はボブだ。
「カーシェアリングサービスはよく利用されるのですか」
山田が頷く。
「会員になったのはもう1年以上前かしら。実はね、それまではマイカーを持っていたの。子供ができてからなにかと必要だったから」
子供の絵が貼られた部屋の壁に目が行く。
「でもね、シェアカーだと大幅に維持費を節約できることに気づいて。わたしはいま外で働いていないから、節約できるところはしようと思ったの」
山田は話を続ける。
「便利だから月に数回のペースで利用してたんだけど……まさか、こんなことに巻き込まれるなんて」
「ありがとうございました。もう十分、お話をお伺いできました」
「それにしても、こんなかわいらしい女性が来るなんて驚いたわ。あなた、ずっとこのお仕事されているの?」
「いいえ、実はまだ新米調査員なんです」
「何歳? ひとりで大変ね」
周藤の顔が浮かぶ。ひとりで調査をしているのは、あの人のせいなんだけど……。
「27歳です。大変でも、これがわたしの仕事ですから」
「がんばってね。ところで、マカロンは好き?」
迷いながら頷いた。
「ちょっと待っていてね」
山田がキッチンに行って、袋を手にして戻ってきた。まさか、ラデュレのマカロンをいただけるなんて!
「またいつでもご連絡くださいね」
結局、関係ない話までして長居してしまい、マンションを出たのは15時半だった。
エントランスを背にしてため息をつく。山田が嘘をついているとは考えづらかった。
(続く)
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。
周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
上山恵美(53):ミキの母親。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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