【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#15

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

2nd ミキ、単独調査に乗り出す。
#15

3人のうちの最初の利用者の男性も、この近くに住んでいるはずだ。
​​きっと会社の電話からかけても、もう出てはくれないだろう。まだ仕事用のPHSを支給されていないので、ダメもとで自分のスマートフォンから電話をしてみた。
出て。お願い。出て。
必死の願いもむなしく、留守電に切り替わる。
仕方なく、メッセージを残した。
〈度々申し訳ありません。インスペクションの上山です。どうかお話をお聞かせ願えないでしょうか。またご連絡差し上げます〉
折り返しの連絡がくることはあまり期待できない。深い溜息が漏れる。
3人のうちの誰かが嘘をついているのだろうか。もう人間不信になりそうだ。
どうすればいいだろうか……。
とりあえず、今日はもう帰るしかない。時刻を確認すると、20時17分だった。
マークXを駐車した駅前の駐車場に向かう最中に、着信音が鳴った。同じ会社の加納淳子だ。
未婚のアラフォー女性で、社内では芸能通として知られている。わたしの入社以来、何かと面倒を見てくれていた。
〈はい、もしもし、上山です〉
〈ミキちゃん、いま、仕事中?〉
加納の話す声の後ろに、ざわざわとしたにぎやかな音が聞こえる。きっと、居酒屋かどこかにいるのだろう。
〈いま外での調査が終わって、会社に戻るところです〉
〈どうなの? 今夜、予定ある?〉
まだ早い時間なのに、かなり酔っている様子だ。
〈えーと、特にありませんが〉
〈良かった。ちょっと飲んでるから、いますぐおいで〉
〈え、誰と飲んでいるんですか〉
答えるまでに、少し間が空いたのが気になった。
〈尚美ちゃん、知っているでしょ〉
庶務の吉田尚美は加納淳子と仲が良い。吉田のほうは、確かすでに結婚している。
〈じゃあ、とりあえず会社に戻ったらまた連絡しますね。道の混み具合によっては、少し時間がかかるかもしれませんが〉
〈周藤さんなんてもう会社にいないんだし、五反田について車返したら、そのまますぐ来なさいよ〉
たまには他の部署の人から情報を仕入れることも必要かもしれない。
マークXのアクセルを踏み込み、環状七号線を一気に南下し始めた。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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