【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#23

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

3rd ミキ、合コンでイケメンに出会う。
#23

​朝から気分が悪い。家から駅に向かうときも、こうして電車に乗っているときも、周囲が気になってしまう。誰かに見られている気がするのだ。電車を降りると早足になった。
周藤が出社したのを見て、すぐ駆け寄った。
「すみません、いろいろ報告があります」
わたしの表情を見て、ただならぬことが起きていることは察したようだ。
「なにがあったんだ?」
カーシェアリング会社から、調査を中止するように打診を受けた経緯を説明する。そして、スマートフォンの画面を見せた。周藤がそれを奪い取る。少し半笑いになった。
「お前、やっぱりもってる女だな。しょぼい事件だと思っていたら、おもしろい展開になってきた」
また他人事みたいなことを言い出した。ムッとして言い返す。
「全然おもしろくないです。むしろ、怖いんですけど……」
そんな会話をしていると、内線で呼び出された。
周藤とともに応接室に入ると、社長の松井と弁護士の河口純がわたしたちの到着を待っていた。2人とも、いつになく目つきが鋭い。特に純は怒っているように見える。
「周藤さん、頼みますよ」
純がいきなり口火を切る。周藤が首を傾げた。
「何を、ですか?」
「カーシェアリングの案件の調査、それに、上山ミキさんのことです」
一気に、応接室は緊張感に包まれた。
「まさか当初、こんなことになるとは思いませんでしたが、わたしはあなだからこのやっかいな事件をなんとかしてくれると思い、調査を依頼したんです」
松井社長もじっとこらえている様子だ。
「聞けば、調査はすべて、上山さん1人に任せたそうですね。カーシェアリング会社との大切な打ち合わせも彼女1人で行かせたとか」
周藤は何も言い返さずにじっと聞いている。
「ご存じのとおり、うちの代表にとっても上山ミキさんはとても特別な存在なんです。そうでなくとも、上司として、なぜしっかり彼女を守ってあげないのでしょうか?」
純の声はどんどん荒々しくなっている。なんだか、いたたまれない気持ちでいっぱいだ……。
「それは心得ています。ただ、保険調査員に危険はつきものです。もし、それが耐えられないなら、やめてもらうしかない」
なに、この展開。なんだか、周藤はわざとこんなことを言って、わたしを試しているような気もする。松井社長がなにかを言いかけたが、その前にわたしは「大丈夫です」と立ち上がった。
3人の視線がわたしに集まる。
「もう事件の調査は打ち切りになりましたし、わたしに危険が及ぶことはないと思います。ですから、どうか安心してください」
純が、「いや、そういう問題じゃない」と首を横に振った。
「河口先生、ずっと上司にくっついてばかりいたらわたしが成長できません。周藤はわたしにチャンスをくれたのです。もう少し、見守ってください」 ​

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]