【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#24

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

3rd ミキ、合コンでイケメンに出会う。
#24

​​金曜日の夜だというのに、重い足取りで帰路についた。
​お酒を飲みたい気分だったけど、親友の成田真由子を誘ったら断られた。今日は先約があるらしい。それに、もともと真由子とは明日に会う約束をしていたのだ。
今日、弁護士の河口純、社長の松井、周藤、わたしの話し合いはかなり気まずい空気のまま終了した。河口親子に心配をかけてしまったことも申し訳ないし、せっかくわたしを守るように会社に提言してくれたというのに、メンツを潰した格好になってしまった……。
結局、カーシェアリング事件は解決をみないまま、調査は打ち切りになった。
しかし、事件の真相、犯人が気になって仕方なかった。そして、わたしのスマートフォンに届いた謎のLINEメッセージも。
いったい、誰が送ってきたのだろうか。どういう意図なのだろうか。
電車に揺られながら、スマートフォンを取り出した。もう一度、送られてきたメッセージを確認する。
何度見ても気持ち悪い。
脅迫メッセージを送ってきた人物が、3人の中の最初の利用者の男性である可能性は否定できないと思う。わたしは自分のスマートフォンから電話をかけているのだ。なんてバカなことをしてしまったのだろう……。
最寄り駅に着いて、自宅に向かって歩き始めた。自意識過剰かもしれないけど、誰かに見られている気がする。家までの10分ほどの道のりがやけに長く感じ、早歩きになる。
21時前に、自宅に到着した。背後を気にしながら鍵を開け、家に滑り込んだ。
「ただいま」と大声を上げたが、母はいないようだ。
冷蔵庫に入っていたもので適当に胃袋を満たす。めずらしく食欲はない。
お風呂に入った後に、缶ビールを開けた。喉を鳴らすが、あまり美味しく感じない。
ソファに座って、スマートフォンに手を伸ばす。
〈週末何してるの? 美味しいものでも食べに行かない?〉
飲み会で出会ったタカヒロからメッセージが届いていた。
あれからほぼ毎日のように連絡が来ている。草食系が増えているといわれる時代に、驚くほど積極的だ。
明日の土曜は真由子と約束がある。
でも、明後日、日曜には特にまだ予定を入れていない。ヨガにでも行こうかなと思っていたが、久しぶりに男性とデートをしてみるのも悪くないかもしれない。
〈日曜日だったら、空いていますよ〉
〈マジで!? ランチで美味しいものでも食べに行こう。築地で寿司でもどう?〉
ランチだったらいいかなと思った。美味しいお寿司はもちろん食べたい。わたしの大好物だ。
〈築地のお寿司いいですね。そうしましょうか〉
お寿司にあっさり釣られるなんて、ダメかな。まあ、いいか。
今はあまりひとりきりでいたくない、というのもあるのかもしれない。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]