【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#26

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

3rd ミキ、合コンでイケメンに出会う。
#26

わたしと真由子は駐車場にヨタハチを停めてから、世界一おいしいといわれるパンケーキの店に向かった。
やはり、エントランスには行列ができていた。若いカップルがわたしたちを見て、横入りを訝るように睨んでいる。一時期よりは入りやすくなったけど、やっぱり、人気店だけにすんなりとはいかない。
ただ、17時以降は予約をできるのだ。スタッフがすぐに眺めの良い席に案内してくれた。
「みんな、なんでこんなにパンケーキが好きなのかな」
「だって、美味しいもん」
近況報告を兼ねて話し出す。
「ちょっと、長くなるんだけどさ……」
脅迫メッセージのことを真由子に伝える。LINEに送られてきたメッセージを見せた。
「本当に、大丈夫なの?」
「うん、調査は打ち切りになったから、たぶん、もう大丈夫なはず……」
真由子からスマートフォンを受け取り、テーブルに置いた。
「大丈夫じゃないでしょ。あんた、あの会社やめたほうがいいんじゃない?」
「いやだ。まだ絶対やめたくない」
真由子は呆れ顔だ。
「そのさ、元刑事はちゃんと守ってくれそうなの?」
「うん、たぶん……」としか言えなかった。
「やっぱりさ、守ってくれる彼氏が必要なんじゃない?」
それは確かにそうかもしれない。
「誰か、いい人はいないの?」
守ってくれそうな人。思い浮かんだのは、最近知り合ったイケメンのタカヒロだ。あれから毎晩のように「会いたい」とメールがくる。
もしかしたら本気で、わたしのことを好きなのかもしれない……。
「誰かいるの?」
「最近知り合った人と、明日、ごはん食べに行く」
「なにそれ、いいじゃん。どういう出会い?」
「本当に知り合ったばかりなの。向こうがけっこう積極的なんだけど、まだどうなるか、わからないかな」
「タイプなの? なにしてる人? 車は?」
「不動産系で、車はチェロキー」
真由子が嬉しそうに白い歯を見せた。
「明日の夜、絶対に報告してよ。あのさ、来月はバレンタインだよ。うちらは、もう若くないんだから、そろそろ焦らなきゃダメなの」
「真由子はどうなの?」
「わたしの心配はいいから。他はどうなの?」
真由子は、恋愛に関してはいつも上から目線だ。
わたしが毎年チョコをあげているのは、弁護士の河口親子だけだ。今年は、同僚の桜川にもあげようか。でも、彼女がいるらしい。あとは、誰だろう。周藤にもチョコをあげなければいけないのだろうか……。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]