【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#30

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

4th ミキ、拉致される!
#30

チェロキーが方南町駅の駐車場を超えて、倉庫のような場所に到着した。
2台の車が停まっている。仲間が待ち構えていたようだ。タカヒロがこちらを見つめて、車の施錠を解除した。
本当にどうすればいいのだろう。いま通報したり、ここから逃げ出したりしたところで、わたしの家や愛車など、さまざまな情報が相手グループに知られてしまっている。
頭をフル回転させても解決方法は見つからなかった。絶体絶命だ。
「こっちに来い」
とりあえず、ドアをゆっくりと開いた。でも、降りたくない。
足がすくむ。
急に、タイヤが激しく地面に擦れる音が聞こえた。車がもう1台やってきたようだ。
きっと、タカヒロたちの仲間だろう。わたしは拷問でもされるのだろうか。
振り向くと、闇の中に、マークXの黒い車体が輝いて見えた。​
周藤がタバコを咥えたまま降りてきた。
「なんだよ、てめえ」
タカヒロの仲間が叫んだが、周藤が動じるそぶりはない。
「お前らのおやじとは話がついたわ」
「おっさん、なに言ってんだ」
タカヒロが周藤との距離を詰める。しかし、その途中で着信があったようだ。
〈はい、いま、倉庫です。邪魔が入って……。え……、はい、はい……。わかりました〉
タカヒロが大きなため息を吐き出して、周藤を睨み付けた。
「なにもんなんだよ、あんた」
「ただのおっさんなんだけどな、この尻軽女の上司なんだ」
周藤がわたしに近づいてくる。まわりの男たちが身構えた。
「この女もただの保険調査員だ。許してやってくれ。悪いな」
周藤がわたしの腕を掴んだ。助かった……? けど、まだ動悸がおさまらない。
タカヒロの方に振り返った。どうしても確認しておきたいことがある。
「あの、LINEで脅してきたのって、あなたですか?」
タカヒロが、「なんだそりゃ?」と眉をしかめた。
とても、演技をしているようには見えない。恐る恐る、もう一度聞いてみる。
「調査をやめろとLINEでメッセージを送ってきたのは、みなさんではないのですね?」
タカヒロが笑い出した。
「俺たちがそんなことするかよ。むしろ、俺たちが言うなら、『調査をしてくれ』だろ」
確かにそうだ。犯人を知りたいはずの彼らが、調査を妨害するのはおかしい。だとすると、あのメッセージを送ってきたのは……。
「調査をやめてほしいのは、ベンツに傷をつけた犯人だろうが! わかったか、そんな最低なやつなんだよ、お前が守ろうとしたのは」
まさか、田中卓也が……。一体、どれだけ身勝手なんだろう。本当ならば、許せない。
​「おい、さっさと行くぞ」
周藤に腕を引っ張られ、わたしは、マークXの助手席に乗り込んだ。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]