【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#06

第3話「Twitter男を調査せよ!」

1st マークX、熊谷へ走る
#06

わたしと周藤は、朝6時半にビジネスホテルを出て、7時には中山の家の玄関が見通せる位置に車を停めた。今日はもう、昨日のような失敗は許されない。
睡眠不足で瞼は重い。目を何度も擦りながら監視する。
でも、結局、昼になっても中山が外出する様子はなかった。
TwitterもFacebookも動きはない。
そもそも、普段は午後になってから動き出すことのほうが多いのだ。昨日はレアケースで、振り回されたわたしたちは運が悪かったと言えるだろう。
監視を続けると、昼過ぎになってついに動きがあった。
若い女性が中山の家から出てきたのだ。
恋人だろうか。
彼女が玄関のドアを抑えていると、中山が現れた。
女性は不自由そうに動く中山を支えている。
中山はハスラーの助手席に乗り込んだ。女性は助手席側のドアを閉めると、運転席にまわりこむ。彼女が運転するらしい。
仲睦まじい様子が遠くからでも伝わってくる。
2人が乗るハスラーを、マークXで慎重に追いかける。
車がファミレスの駐車場に入った。撮影のチャンスだ。
中山が車を降りるところを、望遠レンズで狙う。
運転席の女が素早く車を降りて、助手席側に回り込むと、中山が立ち上がるのに肩をかしている。献身的なサポートだ。
ふたりとも表情はやわらかい。とても、不正受給のために演技をしているようには見えなかった。
中山が松葉杖をついて店に向かうのを、女性が後ろから見守りながらゆっくりとついていく。
周藤はなにも言わずに、その様子を見つめている。
ファミレスの後は、近くの病院に入って行った。
その後、2人は、スーパーに寄って買い物をしていた。女性はきっと、中山の交際相手だろう。
2人の様子を、望遠レンズで撮影する。やはり、性格のいい仲良しカップルにしか見えない。
「俺たちはとんだ思い違いをしていたのかもしれないな」
周藤がつぶやいた。
「自分が元気なことを、SNSでアピールする……何か理由があるのでしょうか?」
「今回の調査について、もう一度見直す必要がある。今日のところは引きあげるぞ」
周藤がタバコの煙をくゆらせながら言った。
「はい、わかりました」

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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