【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#14

第3話「Twitter男を調査せよ!」

3rd ミキと周藤、再び熊谷へ。
#14

調査対象者である中山智史の職場で、上司の金沢に話を聞くと、意外な状況が明らかになってきた。
​「金沢さん、ちょっとお訪ねしますが、中山さんがFacebookやTwitterでよくつぶやいているのはご存じですか?」
わたしは、カバンからiPadを取り出して見せた。
「ああ、そのことだったら、本人から説明を受けました。わたしはそういうものに詳しくないんですけどね。」
金沢がiPadを珍しそうに見つめている。
「あの、もしかして、これはお母様を安心させるためにやっているのですか?」
金沢はゆっくりと頷く。
「はい、そういうことのようです。中山らしい気遣いですね。お母さんはスマートフォンで、こういうのを病院でいつも見ているそうですよ」
「そういうことだったんですか……」
納得した。
「あいつも不運ですよね。お母様の病気が発覚して、献身的に病院に通って看病していた矢先に、自分が事故であんなことになってしまいましたからね。心配させまいと、いろいろ考えているようです」
「もしかして、お母様はかなり重い病気なのですか?」
金沢がわたしたちを見つめた後、気の毒そうに言った。
「あまり、長くないようです」
胸が苦しい。
「そうでしたか、本当にお気の毒です。ところで、中山さんの不自由な生活をサポートしている女性がいるようですが、交際相手ですか?」
周藤は次々に疑問をぶつけていく。
「彼女とは、今年結婚する予定だそうです。本当はお母様に孫を抱かせてやりたいと言っていましたが、難しそうですね……」
周藤が目を伏せた。
「せっかく来てくれたんですから、うちの商品食べてくださいよ。甘いものはお嫌いですか?」
金沢が、わたしたちの前の、手を付けられていないお菓子に気づいた。
「いいえ、実は大好きなんです。ちょっと遠慮していましたが、いただきます。どうもありがとうございます」
わたしは迷わず、いちご大福を取って、口に入れた。深刻な話だったので、手を付けられずにいたのだ。
「わたしもいただきます」
周藤も続いて、どら焼きを手に取った。周藤が甘いものを口に入れるところは初めて見る気がする。
「美味しい。作り手の心が味に出ていますね」
周藤が、なんだか似合わないことを言ったので、わたしはお茶を吹き出しそうになった。
わたしたちの様子を眺めていた金沢が、ニッコリと微笑んだ。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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