【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#18

第3話「Twitter男を調査せよ!」

3rd ミキと周藤、再び熊谷へ。
#18

わたしと周藤は、調査対象者である中山智史の自宅に乗り込んでいた。
​彼が不正受給をしている可能性は低いと感じつつも、真相を追究する手を休めるわけにはいかない。
周藤が母親の話を持ち出すと、中山が慌てて話し始めた。
「あの、母はなにも関係ありませんので、そっとしておいてもらえませんか? もしかして、母に話を聞きにいくつもりなんでしょうか」
狼狽する中山を見て、さすがに気の毒になってきた。
「いいえ、そんなつもりはありません。実は、さきほど、中山さんの上司である金沢さまにお話をお伺いしました」
「え、工場長に」
周藤がゆっくりと頷く。
「はい、中山さんがとてもお母さま思いの優しい方だと聞きました。お母さまを安心させるために、あのような情報を発信していたのでしょうか?」
「おっしゃるとおりです。自分の母は、本当に心配性でして……。いま、どうしても心配をかけたくない事情があるんです。それで、あんなことをしていました」
中山はバツの悪そうな顔をしている。
「なぜ、保険会社の担当者に、そういう事情を伝えなかったんですか?」
わたしは、疑問を口にした。
「だって、母のことは関係ありませんし。それに、まさか、保険会社の方があの投稿を見ていたなんて、思いもしませんでした。お恥ずかしいです」
中山は顔を赤らめて言った後、ため息をついた。
「いまは誰でも簡単にネットで情報発信できますし、誰でもその情報にアクセスできますからね。怖い時代ではありますよね」
わたしはしみじみと答えていた。
「たしかにあれを見たら、保険会社の方も誤解しますよね。なんだか、申し訳ないことをしてしまいました」
中山が肩を落としている。
「疑念が晴れたら、保険会社の担当者もきっと安心するでしょうね」
わたしと周藤は、調査を終えて、マークXで熊谷を後にした。
ここから五反田までは遠いけど、調査の帰路にはめずらしく、晴れやかな気分で帰ることができそうだ。
「なんだか、心あたたまる案件でしたね」
わたしは周藤に目をやった。
「あとは一応、病院への確認が必要だ。ただ、まあ、世の中悪いやつばかりじゃない」
周藤は、タバコの煙を、開けた窓の向こうに吐き出した。
「毎回、こういう調査だったらいいですが、そんなわけにはいきませんね」
「そういうことだ」
わたしは、マークXの助手席で大きく伸びをした。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:mizusawaさん

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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