【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#19

第3話「Twitter男を調査せよ!」

4th バレンタインに何かが起きる!?
#19

今日は、女子社員も男子社員も、朝から、なんだかそわそわしている気がする。
今年はバレンタインデーもホワイトデーも土曜日だ。
みんな、本命は、可能であれば土曜日に渡すのだろうけど、会社では、前日の13日に渡すようだ。
松井社長のデスクはチョコで埋め尽くされていた。わたしも、メッセージを書いたふせんを貼って「Galler」の「クラシックアソート」を置いた。
周藤は朝から外出していて帰ってこないようだ。
デスクの上に置いておくのも微妙だ。なんとなく、誰かに見られたくない。
先に、同期の桜川に渡そう。こちらは見られても問題ない。桜川には彼女がいるし、そういう意味で、変な目で見られることはないだろう。
デスクでキーボードを叩いていた桜川に、「ピエール・エルメ・パリ」の「ボンボン ショコラ」を後ろ手に持って近づいた。
「桜川さん、お疲れ様」
「あ、お疲れ」
「チョコどうぞ! 仕事の合間にでも食べてね。彼女さんに怒られそうだったら、内緒で」
チョコを手渡すと、桜川が顔をほころばせた。
「え、こんな高級なチョコ、ありがとう」
「いつもお世話になってるから」
わたしが笑顔で返すと、桜川が思い出したようにつぶやいた。
「あ、俺、彼女とは別れたんだけどね」
「あ、そうだったんだ……」
わたしの余計なひと言で、桜川にわざわざ言わなくてもいいようなことを言わせてしまった。
「そうだ、ミキちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なに?」
今までは、こちらがお願いしてばかりいる。桜川からの相談なら、なるべく聞きたい。
「今度さ、ミキちゃんの愛車に乗せてもらえないかな」
「え、ヨタハチに?」
なんとも、意外な申し出だった。
「俺、乗ったことなくてさ。男が助手席に乗せてもらうなんて、カッコ悪いかな?」
はにかんだ表情がかわいくて、わたしはつい笑ってしまった。
「そんなことないよ。でもね」
桜川が、「え、どうしたの?」と、心配な表情を見せた。
「いま、ちょっとヨタハチの調子が悪くて。修理に出しているんだ」
実は、かなり時間がかかりそうなのだ。もしかしたら、ものすごくお金がかかってしまう可能性もある。
「そうなんだ……」
「修理から戻ってきたら、ドライブに行こうね」
桜川は、残念そうに頷いた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:mizusawaさん

編集:ノオト

[ガズー編集部]