【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#23

第3話「Twitter男を調査せよ!」

4th バレンタインに何かが起きる!?
#23

わたしと周藤は、調査の依頼主である保険会社の担当者、西野への報告のため、大手町にある本社を訪れていた。
​通されたのは、3人での打ち合わせにしてはちょっと広めの会議室だ。
黙ったまま資料に目を通している西野に向かって、わたしは説明する。
あの後、中山の担当医師にもヒアリングを行い、母親の入院も確認した。様々な情報を総合的に判断した結果、不正受給の疑いは払拭できそうだ。
「ネットへの書き込みは母親を安心させる目的だったようです。というわけで、調査対象者、中山智史さんへの保険金給付は正しいものと思われます」
周藤から指示があり、少し緊張しながらも初めて調査報告を担当した。周藤はわたしの説明を隣でじっと聞いている。
最近、周藤は少しずつだけど、わたしのことを認めてくれている気がする。
「そうでしたか。よくわかりました。わたしの早とちりだったということですね」
西野は何度も頷きながら、苦笑いした。
「あの投稿を見れば、誰でも不正受給を疑いたくなります。ここ数年、Twitter発の情報がいろいろな問題になっていますからね」
「そうですよね。あれは誰だって騙されますよね」
西野が自分に言い聞かせるようにしながら、ソファに背を預けた。
「専用のアカウントを作ってまで、彼のつぶやきを追い続けていましたけど、もうフォローするのもやめますよ」
「そうですね」
わたしは同意する。
「というか、母親を安心させるためだったなんて、泣かせますね。むしろ、フォローし続けようかな。いい人みたいですし」
3人で笑顔になった。
会社に戻る途中、車の中で周藤に話を振った。
「そういえば、周藤さんは甘いものがお好きなんですね」
和菓子工場に行ったときに、そう思った。
「嫌いではない。なんでだ?」
わたしは、カバンからチョコを取り出して渡した。
結局、自分で食べたかった「MORI YOSHIDA」の「ショコラ・アソートビュル」を周藤に渡すことにしたのだ。
「これ、バレンタイン的なやつです。遅くなりましたけど、どうぞ。いつもありがとうございます」
不思議そうな目でわたしと袋を見つめている。
「大して稼いでいるわけじゃないのに、義理チョコにこんな高い金を使いやがって」
「気持ちですから」
「悪いな。吉田守秀氏のチョコレート、ずっと気になっていたんだ」
周藤がチョコを見つめて口にした言葉に驚いた。
意外な一面……というやつだろうか。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:mizusawaさん

編集:ノオト

[ガズー編集部]