【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#2

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

1st​ インスペクションに訪れた危機。
#2 スパイ!?
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マークXは、五反田を出ると第二京浜を使って横浜方面に向かった。
周藤は相変わらず、眉間に皺を寄せて無言のままだ。いったいどこに向かっているのだろう。
馬込で環七通りに入って、東京湾岸方面に進路を変えた。
この先にあるのは、工場や公園、それから大井競馬場などだ。
周藤は警察と話をしていたから、今朝、会社で起きたことについて、なにか知っているかもしれない。
「あの、犯人の目星はついているんですか?」
わたしはたまらず、沈黙を破った。
「犯人もさす​​がに、そんなにバカじゃないだろう。まださっき起きたばっかりだからな」
確かにその通りだ。しかも、うちは探偵業を営む保険調査会社なのだ。犯人も、それを承知のうえで嫌がらせをしているはず。バレないように注意しているだろう。
「荷物はどこから出されていたのですか?」
「茨城県内のコンビニらしい。もちろん、向こうの住所はフェイクだろう」
ということは、茨城県で起きた調査案件の関係者が想定できる。ひょっとして、周藤が関わった案件なのだろうか。
「もしかして、嫌がらせの犯人をわたしたちで探すんですか?」
周藤に鼻で笑われた。
「いや、それは警察の仕事だ」
「そうですよね……」
車が到着したのは、城南島海浜公園の駐車場だった。マークXのエンジンが切られる。
周藤が口を開いた。
「実は、ちょっと前から、社内に不穏な動きがあった」
「不穏な動きですか」
インスペクションは、社員数60人ほどの決して大きくない会社だ。社内の雰囲気は悪くないと思っていた。
「会議室に盗聴器がしかけられていた。それと、俺のパソコンに不正アクセスがあった」
また背筋がゾッとする。
「誰が、いったい、なんのために……」
周藤がパワーウィンドウを開けて、タバコをふかした。
「もしかして、さっきの事件となにか関連が?」
周藤が首を傾げた。
「どうだろうな。だが、誰かがうちの情報を売っている可能性がある」
周藤が遠くを見つめた。目線の先には飛行機の機体が浮かんでいる。
「会社の中にスパイがいるってことですか?」
周藤はじっと前を見据えたままだ。
「その可能性がある」
インスペクションは、マーケティングに使えるような膨大な顧客データをもっているわけではない。
うちの情報を欲しがるのは、いったいどんな人だろう。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]