【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#8

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

2nd ミキ、悩める乙女に!?
#8 ​桜川に相談

わたしは休日に、同僚の桜川和也とドライブで羽田空港を訪れていた。
​以前に桜川から誘われたのがきっかけのドライブだったけど、実は、今日はわたしから相談したいことがあった。
空港内のカフェでお茶をした後、桜川を車で家まで送る。
その車内で、やっと、相談をするタイミングが訪れた。
「いま、会社の中、まだちょっと嫌な雰囲気だよね」
「ああ、またあの事件のこと?」
桜川が表情を曇らせた。あまり話したくない様子だけど、今日はこの相談のために来たのだ。
「思い出しただけで、鳥肌が立つ。かなり陰湿な嫌がらせだから、またなにかありそうで不安なんだ」
「確かに、あれで終わるとは思えない。早めに犯人を捕まえてもらわないと、もっと悪い影響がでるかもしれないね」
わたしは、話を切り出した。
「桜川さん、絶対に内緒の相談があるんだけど」
「え、なに?」
桜川が怪訝そうな表情を浮かべる。
「実は、会社の中にスパイがいるかもしれないんだ」
わたしは声を潜めて告げた。
「え、まさか、あれは会社の人がやったってこと?」
桜川が驚きの声を上げた。
「いや、まだそれはわからないんだけど」
桜川が不思議そうにこちらを見ている。
「じゃあ、なんでそんなことを急に言い出すの? なにかほかに、スパイの存在を確信するようなことがあったということ?」
どこまで言うべきなのか、迷いが生じた。でも、協力してもらうためには信頼してもらうことが必要だ。話せることは話したほうがいい。
「実は、そういう情報がまわってきて」
桜川の表情は曇ったままだ。
「仲間を疑うって嫌だな。そんな人がいるとは思えないけど」
「桜川さんは、怪しい人の心当たりない?」
桜川が大きくため息をついた。
突然、なにかを思い出した表情に変わってわたしと目を合わせる。
「怪しい人って言われてみれば、いないこともないかな」
桜川の表情が変わったので、ドキッとした。
「え、誰?」
「実はさ、前からけっこうみんな噂しているんだけど」
「どんな噂?」
わたしは前のめりになっていた。
「周藤さんのことなんだけどさ……」
思わぬ名前が出てきて、わたしは固まった。リアクションに困る。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]