【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#05

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

1st ミキ、父の消息を追う。​​
#05 水野の告白

母が突然家を出た理由は、やはり旧車ショップのオーナー水野が連絡をしていたからのようだ。わたしはとことん追及するつもりでやってきていた。ここまで来たら、もう遠慮してもしょうがない。
​「もっと言うと、もしかして、母が手紙を用意したんじゃないかって考えました」
途端に、水野が顔を大きく横にふった。
「いやいやいや、まさか。君のお母さんはこんな展開を望んではいなかったさ」
「ということは、父が生前、水野さんに手紙を託していたんですか」
水野が観念した様子で、ゆっくりと頷いた。
「車に隠されていたわけじゃないって、なんでわかったの?」
「今まで何度もこちらで修理に出してヨタハチを見てもらっていました。今頃、手紙が出てくるなんて、なんだかおかしいと思ったんです」
「お見通しだったか」
「はい、見抜いちゃいました」
わたしは場を和ませるために、おおげさに笑って見せた。
「俺は演技が下手だな。俳優にはなれそうもないよ」
水野がジェスチャーをしながら、おどけてみせる。
「そんなことありません。最初はすっかりだまされましたからね」
「この通りだ。悪気はなかったんだ」
水野が深々と頭を下げた。
「やめてください。わたしの父がお願いしたことなんですから、頭、上げてください」
わたしは居たたまれなくなってすぐに声をかけた。
「でも、なぜ、このタイミングだったんですか?」
「もし彼に万が一のことがあったら10年後にミキちゃんに手紙を渡すように、頼まれていたんだよ……」
「え、父が、万が一のことを言っていたんですか?」
わたしは水野の言葉に食いついていた。
「そうなんだ。何があるかわからないからってさ。“自分にもしものことがあったら、そのときは頼む”ってことで、手紙を託されたんだ」
父がフィリピンで事件に巻き込まれる可能性を察知していたということなのか。
「そんなことを父が……」
「フィリピンに出張する三カ月くらい前のことだから、失踪と関係があるかどうかはわからない。もともと、ミキちゃんがヨタハチに乗るとは決まっていなかったからさ、知り合いの車から見つかったということにするつもりだった」
確かにそうなるはずだ。
「警察には手紙のことを話しましたか?」
水野はゆっくりとうなずいた。
「でも、警察も事件とは関連付けなかったようだ」
やはり、気になるのは父の狙いだ。
「父がなぜ手紙を残したりしたのか。フィリピンに何らかの危険があるとわかっていたのでしょうか。水野さん、思い当たる節はありませんか?」
水野は眉間に皺を寄せると、腕を組んでじっと考え込んだ。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]