【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#09
第5話「父の失踪事件を調査せよ!」
2nd ミキ、2000GTで走る。
#09 寺田のマニラ旅行
寺田が確かなドライビングテクニックで吉祥寺通りを駆け抜け、井の頭公園の駐車場に入ると、2000GTのエンジンを止めた。
「それで、何を聞きたいの?」
わたしは助手席のシートから背中を離して、姿勢を正した。
「寺田さんは、わたしの父とは、何度も会ったことがあるんですか?」
寺田が記憶を呼び戻そうとしてか、目を瞑った。
「確か、4~5回くらい会ったかな。ヨタハチオーナーズサークルって集まりでさ、10人くらいで年に数回集まって、情報共有をしていたんだ」
「父はどんな印象でしたか?」
「ひとことで言うと、かっこいい人だな。商売も上手で、同じサークルから仕事も随分と広げていたよ。俺も入りたかったけど、親戚が保険屋でさ。そっちに世話になってたから」
「2人で会ったことはないですか?」
「それはないな。上山さんが失踪したっていうのはサークルの仲間から聞いた。ショックだったよ。子どもがいるっていうのも知っていたからさ、気の毒に思った」
「ご心配おかけしました。それで、ちょっと似ている人に会ったというのは?」
寺田がこちらに目をやって、気まずそうな表情を浮かべた。
「その話だけどさ。最初に言っておくけど、俺はありのままを伝える。それで、あんたが嫌な気分になっても知らない。もし嫌なら俺は話さない」
「はい、わかっています。どうしても聞きたいんです。だから教えてください」
寺田は頷いてから、ゆっくりと話し始めた。
「昔の仲間……悪友って感じだな、そいつに誘われて、フィリピンに遊びに行ったんだ。まあ、でかい声では言えないけど、女遊びだよ」
わたしはリアクションに困ったけど、頷いた。
「マニラに3泊4日で行って、昼間は市内を観光したんだ。それで、マラテ教会ってところで、上山さんらしき人を見た。日焼けしていたけど、遠くから見て、俺はすぐに気が付いた」
「父、いえ、その人は、ひとりでしたか? どんな様子で?」
寺田が首を横に振った。
「若いフィリピン人らしい女性と2人だった。デートをしているようにも見えた」
胸がしめつけられた。なんとなく予想はしていたけど。
「向こうは気付いた感じはありませんでしたか?」
「さあね。俺は数歩近づいて、手をあげかけて、どうしようか悩んださ。だって、失踪して、死んだことになったって聞いていたからね……」
「じゃあ、そのまま?」
寺田が頷いた。
「帰ってきて、水野さんに相談して、きっと人違いだからほかの人には言うなって言われて、ヨタハチのサークル仲間にも、誰にも言ってない」
わたしは、大きく息を吸い込んでから頭を下げた。
「ありがとうございました。急に無理を言って、すみません」
寺田は「そんなのはいいさ」と口元を緩めた。
<続く>
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:MEGA WEB
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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