【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#12

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

3rd ミキ、軽井沢へ。
#12 注目の的

すっかり春の日差しが心地よい季節になった。
​わたしは2000GTで、軽井沢へ向けて関越自動車道を飛ばしていた。
さっきから、並走してことわりもなく撮影しようとする車が後を絶たない。だから、わたしはちょっと意地悪な気持ちになって、アクセルを強く踏み込んでしまう。
トイレに行くために、パーキングエリアに入った。
駐車場に入って、エンジンを切る。キーを抜いてから、はたと思った。あまり長くこの車から離れるのは心配だ。
ドアから出たとたん、年配の男性が近寄ってきた。
「写真を撮らせてもらってもいいですか?」
やはり、どこに行っても注目の的だ。
「ええ、どうぞ」
「僕のね、憧れの車だったんですよ。僕らの世代はみんなそうです」
「そうでしょうね」
紳士は羨望の眼差しでわたしを見つめてくる。
「あなたの車なんですか?」
「いえいえ、レンタルなんです」
「そうでしたか。それにしても、羨ましい」
礼儀正しいし、身なりもちゃんとしている。信頼できそうな紳士だ。
「あの、ちょっとお手洗いに行きたいんですけど、へんな人が悪戯しないように見ていてもらえないでしょうか」
男性が笑みを浮かべた。
「どうぞ、どうぞ。お任せください」
小走りでトイレに向かって、急いで戻ってくる。すると、2000GTのまわりを囲む人が5人くらいに増えていた。
車に乗り込んでから、スマートフォンを取り出した。母に電話をかける。
軽井沢に行くことは、昨日のうちにメールで伝えていた。
<もしもし、いまどこ?>
<いま、友達のうちにいるけど……>
ちょっと元気のない声だった。
<あと1時間もかからないで到着するよ。軽井沢に着いたら、どこかでお茶でもしようか>
本当は母のいる場所に押しかけようと思っていたが、母の友人に迷惑をかけるのも悪い。
<そうね。じゃあ、そうしようか>
<お母さん、なんか知っているお店はある? こっちで適当に探してもいいけど>
<うん、カフェがあるわ。ええと、店の名前は……>
店の名前と場所を聞いて、電話を切った。すぐにスマートフォンで検索をかける。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]