【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#13

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

3rd ミキ、軽井沢へ。​​
#13 母と再会

軽井沢に到着したわたしは、母に指定されたカフェに向かった。
​ すでに、駐車場には赤いアルファロメオ ジュリエッタが停まっている。その隣に2000GTを停めた。
お店に入ると、母がわたしに気付いて遠慮がちに手を挙げた。
どこか、疲れた様子だ。ゆっくりと近づいて正面の席に座った。
「あら、元気そうね」
気持ちの入っていない言葉だったので、つい笑ってしまった。
「お母さんも、思っていたより元気そうでよかった」
「わたしは、もうすっかり歳だわ」
母は苦笑を浮かべて首を横に振った。
「そうかな。ふらっと海外に行くなんて、若いでしょ」
窓の外に目をやった。
「ベルギーはどうだった? ほかはどこに行ったの?」
「パリと、ブリュッセル。今回はそれだけよ」
「誰と行ったの?」
「それは、内緒」
わたしは吹き出した。
やっぱり、母は海外には行ってなかったんじゃないだろうか。もしかしたら、最初から軽井沢にいたのかもしれない。
新しく入ってきた客が興奮した様子で話しているのが聞こえた。
<300数台しかないんだって! あの車、めちゃくちゃめずらしいんだよ!>
どうやら、2000GTのことを話しているらしい。やはり、いまも外で注目を浴びているのだ。そう思うと、少しそわそわしてくる。
「お母さん、お父さんからの手紙のことなんだけど」
水野からすでに新たな連絡が行っている可能性はある。いや、きっと行っているだろう。
母は目を合わさず、なにも言おうとしない。
「ミキも大きくなったのね」
やっと口を開いたと思ったら、そう言った。話を逸らそうという魂胆が見え見えだ。
「そうだよ、もう27歳だからね。いろいろ聞いてもいい年頃だと思う」
「保険調査員になったなんて、あの人にも見せてやりたいわ」
それから、また口をつぐんだ。
「お母さん、本当のお父さんのこと、まだ言いたくないんだね?」
苦しそうな表情を見せた。
「いつか、言わなきゃって思っているわ。でも、心の整理がまだついていないの」
「うん、わかった。わたし、待っているから。先に東京帰るね」
「ありがとう。助かるわ」
わたしは、さっと立ち上がって、お店の外に出た。
案の定、2000GTのまわりには人が集まっていた。頭を下げて、運転席に乗り込む。
なんだかすっきりしない気分のまま、軽井沢を後にした。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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