プラグインハイブリッドカーで自動車は生き残れるのか
欧米中の世界3大市場がプラグインハイブリッド(PHEV)の普及に積極的だ。ドイツ勢を中心に、PHEVのラインアップは続々と拡大しており、その流れは日本市場にも及ぶ。なぜ今、PHEVは拡大するのか、そしてPHEVは「次世代の自動車」たり得るのか。
PHEVの今と未来を読み解く本特集の第一弾では、モータージャーナリストであり日本EVクラブ代表としてEV・PHEVの普及促進に深く関わる舘内端氏に、PHEVを取り巻く環境の変化、そしてPHEVが市場に求められる理由を訊く。
なぜPHEVが必要とされているのか
----:ヨーロッパメーカーがPHEVの品揃えを相次いで増やしています。それも単なるエコカーではなく、付加価値を備えたものがどんどん市場に出てきています。この動きを舘内さんは、どうご覧になっていますか。
舘内:地球温暖化を何とか止めないと自動車は生き残れない、自動車そのものが走れなくなる、というのが一番大きな問題としてあります。それと世界の政治の安定から考えると、脱化石燃料、脱石油をしておかないとエネルギーリスクは高まるばかり。この地球温暖化防止と脱石油化が、自動車が抱えた大問題というわけです。
これを解決していくには、新しい技術を開発しなくてはいけない。つまり次世代車です。トヨタ自動車は世界に先駆けてハイブリッド車(HV)を発明し、1997に量産化しました。20年が過ぎようとしている現代、HVではもう間に合わなくなった。もっと地球全体でCO2を削減して、脱石油化が図れる車を造らないと駄目だと。それが何かというと、「まずはPHEV」ということになるのですよ。
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- 写真は、メルセデスベンツC350e。BMW、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェ、ボルボ等欧州メーカーはPHEVを相次いで発売
とくにアメリカの傾向をみてみると、カリフォルニア州など10州で販売する台数の一定割合を排気ガスゼロの車にするよう義務付ける「ZEV法」が2018年に改定され、HVは義務付けの対象にならなくなります。EVかPHEV、もしくはFCVの普及か高額の罰金かが課せられるのです。
ただEVには航続距離や充電設備の問題など、まだいくつかの難点があるので、PHEVの方がユーザーにとって抵抗が少ない。エンジンが付いているのでロングドライブも大丈夫ということで、やはり今後10年弱はPHEVがエコカーの主流になるのではないか、と見ています。
----:ヨーロッパではCO2規制が一段と強まっていきますね
舘内:ヨーロッパ勢はCO2削減のロードマップに対して、最初はディーゼルを推進して、いずれディーゼルだけではCO2削減が難しくなるのは見えていたので、その後にEVか燃料電池車(FCV)という方向性を描いていたのです。
ところがディーゼルが都市部での大気汚染問題を拡大してしまった。それに対して規制が強まり、膨大な開発費が必要になった。なおかつDPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)やSCR(選択式還元触媒)などでクルマそのもののコストも上がってしまった。ディーゼルの限界が彼らの予測よりも早く来てしまった。だから彼らは2010年くらいから脱ディーゼルに舵を切ったということです。
----:少しさかのぼりますが、1990年代後半にトヨタ、ホンダの日本勢はHVに、欧州勢はクリーンディーゼルに注力するという別々の道を歩みましたが、今振返り、どちらの選択が正しかったとお考えですか
舘内:結局は両方間違っていたんだと思いますが、ヨーロッパ勢の方が、対処が早かった。ディーゼルをやっていたが故にエンジンの限界みたいなものを彼らは見たのかなと思います。何が限界かというとコストと開発費、もうひとつはヨーロッパのCO2規制への対応です。
2015年は1km走行あたりのCO2排出量をメーカー平均で120gに抑えなさい、ということになっていたものが、2021年には95gに、さらに2025年には70gにするという案が示されています。70gにするにはJC08モード燃費で42km/リットルにしなければいけいない。これはディーゼルではやはり難しい。とくに大きいクルマではPHEVにするしかないのです。
----:一方、受け入れる消費者側の反応ですが、ヨーロッパ勢はPHEV化への価格アップを消費者が受け入れるという自信がついたということでしょうか。
舘内:そういうことです。上だけでなく下のクラスでもいけると。電池メーカーと組んでやっていることで、5年先10年先のリチウムイオン電池がどうなるか、値段も含めて彼らにはだいたいが見えてきているようです。そうすると下のクラスでもいけるな、さらにもっと安くなればフルEVでいけるなと。その見切りがヨーロッパメーカーの方が日本より早かった。
私の心配は、日本のマーケットです。日本でEV、PHEVが売れないと、その分、日本のカーメーカーは量産できない。ヨーロッパはやらないといけないし罰金もあるので、ディーゼルに代わってEV、PHEVで積極的に行く。そうすると量産効果が効く、売れるから消費者からのフィードバックによって次のモデルの改良につながる。量産効果でコストも下がる、インフラも増える、というサイクルです。
一方で日本では、EVやPHEVが増えないとユーザーの反応もないし、量産効果も効かなくて、高額なまま。そして研究も進まない、となってしまうと、2020年以降の日本の自動車産業を考えてみた時に、ちょっと冷や汗というか、不安になってくるわけです。
----:アメリカはZEV規制、ヨーロッパではCO2規制がどんどん強化されていきますが、最大の自動車市場の中国では今後どのようになっていくのでしょうか
舘内:中国政府は2020年にEV・PHEVを200万台まで増やす方針を打ち出していますね。すでに路線バスはどんどんEVに変わっています。もし年間で200万台いけばEV・PHEV比率が10%になって、今後、中国が世界のEV・PHEVマーケットの中心になっていくと考えられます。
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- モータージャーナリストであり日本EVクラブ代表としてEV・PHEVの普及促進に深く関わる舘内端氏
自動車はPHEVで生き残れるのか
----:舘内さんはEVなら自動車が生き残れると考えて1994年に日本EVクラブを立ち上げたわけですが、PHEVでも自動車は生き残れますか
舘内:しばらくは大丈夫でしょうね。ただEVもPHEVも認知度はまだまだ低い。EVクラブで最新のヨーロッパメーカーのEV・PHEVを集めて地方でモーターショーを開催しましたが、「プラグイン」といっても誰も知らない、ましてやEVがまともに走れるものだと思っていない、それくらい認知度は低いのです。東京と地方で温度差があると気付かされた。日本EVクラブとして、もっとイベントを開いていかなければいけないと実感しました。
----:欧州のメーカーに比べて日本のメーカーがPHEVに消極的なのは日本にPHEVのマーケットがないからですか
舘内:それはまさに「ニワトリとタマゴ」の関係ですよ。メーカーが造らないからマーケットができない、マーケットがないからメーカーが造らない、という関係にある。どちらかが突っ切らないといけない。僕としてはマーケット側から突っ切っていこうと思っているので、ボランティアで22年間、EVクラブの活動をやっているのです。
----:そうしますと、まずは品揃え豊かなヨーロッパメーカーのPHEVが日本で売れるという状況ができれば良いと
舘内:そうです、ニワトリが先になる。でもヨーロッパ車はどうしても価格が高いレンジに貼り付いてしまうので、大衆車とはいわないけど、300万円前後の価格帯で品揃えがあると中間層を呼び込むことができるようになると思います。
----:PHEVの商品価値はどこにあるとお考えですか
舘内:やはりPHEVを買った人は「時代の最先端だ」と言えることだと思います。「私は環境に配慮しています。そういう生活を送っています。最先端の自動車を選びました」ということを鼻高々に言える。これが最大の価値だと思います。
----:HVに乗っている人に対しても、鼻高々でいえますか
舘内:言える、大いに言える。だって充電ができるのですから。コンセントにつながっている、というのはHVではできないことですから、明らかに世界が違う。これが21世紀のライフスタイルだと自慢できるということこそが一番高いメリットというか、買った喜びだと思います。
お父さんが車に乗って帰ってきて、「さあ充電しないと」となると、子供が「ボクがやる」、「わたしがする」といって飛んでくるらしいんです。「エネルギーを自分の手で注入する」という行為そのものが、子供たちにとって嬉しいことですね。
----:うちの車(プリウスPHV)は後ろに給電口があるので、自宅に着くと後席から降りた子供が充電してくれています
舘内:それが、PHEVがある生活の始まりですよ。やはり家庭の中に、「革命」とまではいかないまでも、新しい価値観ができてくる。それから、ヨーロッパのPHEVがまさにそうですが、運転した時の圧倒的なレスポンス。アクセルぺダルとタイヤが直につながっている感じで、非常に小気味良く都市を走れる。
----:小排気量ターボエンジンとの組み合わせが意外と良いですね。ターボが効き始めるまでのラグの部分をうまくモーターでぐっと押してくれる
舘内:そうそう。モーターでスーッと行った後に、またターボのパワーが来るので、二段加速みたいな感じで、あれは堪えられない。自動車ってこんな魅力があったんだと。
とくにクルマ好きの方には是非、ディーラーに行って試乗して頂きたい。今までのクルマ観がひっくり返りますよ。しかも、そういう人たちが好きで好きで堪らないエンジンもちゃんと載ってるわけだから。そういう意味でも満足できるし、クルマ好き冥利に尽きると思いますよ、PHEVは。
----:モーター駆動とエンジン駆動、その混ぜあわせなど、アイテムが多いと、その自動車ブランドが、どのような走りをデザインしたいのか、明確な意志が感じられますね。
舘内:その違いを僕らも楽しめるというわけですね。だからPHEVが増えたことで、自動車評論家の役割もまだまだあるなと。そして良いところも悪いところも正確に伝えていかなければ、と思いますね。
(聞き手:レスポンス三浦和也、執筆・まとめ:小松哲也、撮影:愛甲武司)
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- クルマ、鉄道など様々な乗り物に関する最新情報を提供するニュースサイト“Response”編集長 三浦和也氏
[ガズ―編集部]
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