国産PHEVと輸入PHEV、市場の可能性

プラグインハイブリッド車(PHEV)の今と未来を読み解いていく本特集。今回は、現在日本で販売されているPHEVの一斉試乗会を企画し、自動車評論家・モーター・ジャーナリスト総勢8名がイッキ乗り。それらの試乗インプレッションを踏まえ、PHEVが抱える課題や可能性について座談形式で語り合ってもらった。

座談会最終回となる今回のテーマは「国産PHEVと輸入PHEVの違いと可能性」。ハイパフォーマンスカーを中心に緻密な分析とレビューを得意とする中村孝仁氏、自身でBMW『i3』を所有し次世代車への造詣も深い片岡英明氏、カーナビやITSをはじめ自動車先進技術を網羅する高山正寛氏ら3名が、議論をぶつける。

----: BMWをはじめとする欧州の輸入車メーカーは、特徴的なPHEVを様々な車種で展開しています。一方で国産メーカーのPHEVはまだ車種も少なく、市民権を得られているという印象は薄いかもしれません。商品として輸入PHEVと国産PHEVの違いというのはどんなところにあるのでしょうか。

高山:日本車の場合は、走行距離も含めて、生活の深いところまで食い込んでいかないと、ユーザーも満足しないと思うんです。輸入車はそこまでではなくて、走りやブランドにエネルギーを注いでる感じがして、それはそれでほしい人がいるから、うまく住み分けができているなという印象です。個人的には、国産車は実用度を極めてほしいと思うので、今年発売される新型『プリウスPHV』には期待していますね。

中村:新型プリウスPHVはびっくりさせられました。先日、プロトタイプを試乗する機会があったんですが、実車を見てこれはすごいな、と。特にソーラーパネルで発電してバッテリーにエネルギーを供給するなんて、これまでは考えられなかった。先代モデルの一部に装着されていたソーラーシステムが約30kgで、今回の新型では10kgということです。軽い。たった数年で、ここまで進化するってことは、この先もまたびっくりする進化がやってくる。こんなに楽しいことはないですよ。

モーター・ジャーナリスト 片岡英明氏

片岡:数年前はできなかった。夢物語だったもんね。

高山:ゴミが載ったら発電に支障があるとか、ソーラーパネルのそもそもの弱点ってあるじゃないですか。でも今回のプリウスPHVではソーラーパネルを7分割していて、1枚にゴミが付いていても、ほかの6枚がしっかり発電する。4年前には実現できなかったことがいまクリアされていて、あらためてその進化に驚きますね。

BMW 330e

----:PHEVの中で競合するとしたら、プリウスPHVに対するのはVW『パサートGTE』やBMW『330e』あたりになるでしょうか。

中村:値段的にはそうなるかもしれないけど、お客さんはこの2車種とは比較しないと思いますよ。輸入車はリピーターが多いから、メルセデスの人はずっとメルセデスだし、そのメーカーのなかでステップアップするのが多いから、彼らは他メーカーとの比較は考えてないかもしれない。

----:では輸入車が続々とPHEV化を進めていることで、日本の自動車メーカーに与える影響というのはあるでしょうか。

中村:それはないと思います。日産はEV専門で行くだろうし、トヨタはHVがメイン。これが相まみえることはないんじゃないかと。

----:インフラを含めた市場への影響はどうでしょうか。

高山: 今の輸入車PHEVは基本的に200V充電ですよね。200V充電器は、充電ステーションに行ってもあるところとないところがある。

中村:充電ステーションを調べると山ほど出てくるけど、ほぼ8割ぐらいがトヨタと日産のディーラーなんですよ。輸入車を持って行っても有料なら充電させてくれるけど、ちょっとバツが悪かったりするよね。

高山:この自由な世の中で、インフラに対応してないクルマはなかなか買えないわけですよ。マンションの理事会でも充電設備への対応を議題にあげるんですが毎年却下されますからね。「面倒くさい」って。

中村:だから今回のプリウスPHVは100V・6Aに対応したのは便利ですよね。15m長の延長コードもオプションに付いているのもいい。

カーコメンテーター 高山正寛氏

高山:国産車メーカーのPHEVはどちらかというと、真の実用性の高さがあるなと思いますね。日本の道路事情をよくわかっていて、航続距離も含めて使い勝手にこだわる。日本から見ると輸入車のPHEVはパワーソースとしてのプラスアルファという感じ。「あとは自由に選択してください」っていう感じですよね。

片岡:ガレージを持っている人はPHEVを所有しやすいですよね。そこへガソリン料金が上がれば、電気だけで通勤や買物ができるというシーンが注目を集めそう。やっぱり奥さんがうるさいからね(笑)

中村:燃料代って、結構リアルですよね。先代のプリウスとプリウスPHVは車両本体の価格で40万円ぐらい差があるけど、その差を燃費や電費として元を取るのは難しい。

高山:なかなか比較は難しいけど、10数万km走らなければ元は取れないですよね。でも結局、実際に入れたガソリンが少ないときの「良かった」っていう実感が一番なんじゃないかな。

片岡:買ったときは勢いだけど、あとは日常の「実感としての」維持費がすごく大事なんですよね。

モーター・ジャーナリスト 中村孝仁氏

中村:輸入車のハイオク仕様車と、ディーゼル車を比べると、たとえば輸入車でガソリン車とディーゼル車で車両価格差が20万円あっても、燃料費の差で、1~2年でもとが取れてしまう。そう考えると、HVに対してPHVの価格差はもう少し小さいほうがいいですよね。

片岡:まだ正式に発表されていないけど、プリウスPHVの価格差がこれまでよりももう少し下がってくれば、ユーザーの選択肢に入ってくるでしょうね。自宅に充電設備を設置する人もいるわけで、それもお金がかかりますからね。

高山:そういう観点で見ると、自分のクルマを走らせることでチャージできるというのもPHEVの良いところですよね。

中村:今度の新型プリウスPHVにはチャージモードが付いていて、豊島チーフエンジニアも「プリウスPHVはチャージモードにしても従来モデルのようにガソリンを消費しません」と言っていました。

高山:こうして色々と挙げてみると、PHEVは国産と輸入車って分けて考える必要はないかもしれない。そもそもキャラクターとか目的が違うんでしょうね。最終的には“環境のため”というのは一緒かもしれませんけど。

中村:トヨタが“PHVってどんなクルマか”といった話題をがんばってアピールしてくれると、輸入車メーカーは国内市場にもっと参入しやすくなるでしょうね。

----:日本市場ではHVが主流になっていますが、この流れがPHEVにそのまま向かうのでしょうか。

中村:いまやHVは当たり前になっています。それはトヨタ式のフルハイブリッドだけではなくて、いわゆるマイルドハイブリッドもありますよね。アイドリングストップからもう一歩踏み込んで、モーターをちょっとだけ大きくして、回生機能もついて、そして動力として機能するようにすれば、すべてのクルマがHVになる。そうした流れとPHEVとはまったく別物でしょう。

高山:そういったマイルドハイブリッドがほぼ当たり前になったときに、デフォルトがHVで、その上にPHEVという位置づけになるでしょう。自動車メーカーは、利益も上げなければならないし、コストも下げなければならないだろうし。超革新的な何かができないかぎり、国産メーカーはPHEVをきっちりと仕上げて行くという方向になるんじゃないかな。

《進行・まとめ:レスポンス編集部 宮崎壮人、大野雅人》

[ガズ―編集部]