【PHVとの生活】究極のクリーン電源でホームオーディオを聴いてみた

プラグインハイブリッド車(PHEV)の静粛性の高さについては様々なメリットを生み出してくれる。特にカーオーディオを聴く空間としては、絶対的な恩恵をもたらしてくれることを前回紹介させてもらった

しかしながら、PHEV車のメリットはカーオーディオだけにとどまらない。なんと、クルマの外、自宅のオーディオシステムまでも恩恵をもたらしてくれるのだ。ということで、今回は、ホームオーディオにおけるPHEV車のアドバンテージをオーディオ対策電源との比較視聴で検証してみよう。

​​クルマとホームオーディオ。一見すると全く結びつきのないように思えるもの同士だが、この二つを掛け合わせることで、なんと、音質面でかなりの恩恵をもたらしてくれるのだ。それはズバリ、電源ユニットとしてのPHEV車の優秀さだ。

順を追って話をしよう。震災以降、日本メーカーがつくるプラグインハイブリッド車や電気自動車には、車室内にAC100V電源を用意している車種が多くあり、災害などで停電が続く場合の非常電源として利用できる。バッテリー充電量が豊富ならば(アイドリングすることなく)長い時間にわたり電源を供給できるようになった。

このPHEVをバッテリーとして利用する恩恵は、災害やアウトドアだけではない、と思う。センシティブにチューニングされたホームオーディオにとって、バッテリーから電源供給は、ノイズ等の少ない、イコール、音質的に優位な電源として利用できるのではないか。

電源で音が変わるなんてシンジラレナイ! と思う人がいるかもしれない。しかしながら、単純にそうは問屋が卸さないところが電気の難しいところ。安定した電圧の確保はもちろんのこと、クーラーや冷蔵庫、洗濯機など、接続されている家電製品が発生する様々なノイズが、オーディオ機器の音質に多大な影響を与えてしまう傾向にあるからだ。そのため、高級ホームオーディオの世界では電源周りにかなりのコストを投入するのはもはや定番。ノイズクリーナーの役割を果たす機器を接続したり、不必要と思えるほど太い電源ケーブルを活用する人もいる。また、近頃話題となっている“マイ電柱”(ポイントとなる部品はトランスだったりするので正確にはマイトランスと呼ぶべきかもしれない)は、近所の家からの影響をシャットアウトする、という意味で有効な手段だったりする。

PHEV車の電源部はバッテリー自体がノイズフィルターの役割を果たしてくれるなど、バッテリー駆動そのものの恩恵がある一方、マイナス要素も考えられる。まず、モーター駆動用の直流電源を交流100Vにインバーターと呼ばれる機器により変換が行われていること。このインバーターがオーディオ的に配慮されていない場合にノイズの発生源となってしまうケースがあるのだ。

また、バッテリー容量の問題もある。PHV車は約4~12kWhの蓄電容量を持ち合わせているが、高級オーディオ機器のなかには、特に真空管パワーアンプなど、消費電力量の高い機器もあり、どのくらいの時間聞き続けられるかが、疑問となる。また、総電源供給能力の問題もある。セダンや古いPHEV車などでは、1000W以下の電源供給能力しかないものがあり、そういったクルマでは、高級オーディオ機器の電源をまかない切れないケースが出てくるかもしれない。そこで、実際にPHEV車を借用して、実験してみることにした。

今回の取材車は、ミツビシの「アウトランダーPHEV」。駆動用バッテリーに12kWh容量のリチウムイオン電池を採用している。AC100V電源の総出力も1500Wある。12kWhということは、単純に1200W/hで使い続けても10時間保つということだから、全く問題はないはず。実際、オーディオ機器は掃除機やドライヤーなどに比べると、ひとつひとつの消費電力はそれほど大きくなかったりするからだ。高級オーディオ機器の利用時にも、電力不足となることはまず発生しないだろう。こちらの電源を、10mの電源ケーブルを使いオーディオシステムの設置している室内に取り込んだ。

「アウトランダーPHEV」のラゲッジルームに設置されているAC100Vコンセントを利用。3Pコネクタが採用されている点は嬉しい限り。こちらに、オーディオルームまでの電源ケーブルを接続した。

これに組み合わせるオーディオ機器は、筆者の通称“ミニマムシアター”ルームに設置されているステレオシステム。サンバレー製の真空管プリアンプ「SV-192A/D ver.2」とCHORD社製のモノラルパワーアンプ「SPM1400E」2台で、TAD製のプロ用モニタースピーカー「TD4001」+「TL1601b」+「PT-R7」の3ウェイを駆動するシステムだ。プレーヤーは、アナログレコード用としてティアック「TN570」と、ハイレゾ用としてアステル&ケルン「AK320」+専用クレードルを利用した。

いっぽう、比較する電源はマニア定番のオーディオ用電源である。配電盤から独立したシステムを用意していて、オーディオ機器以外で繋がっているのは照明機器のみ(クーラーや冷蔵庫は別の配電盤から電源を引いている)。オーディオ機器に関しては、合計5系統の電源を用意し、コンセント部までオーディオ用として新設したもの。その際、電源ケーブル自身もかなりの高級品をおごっている。要するに、配電盤から先にマイナス要素の発生しないよう心がけた、手の込んだシステムとなっている。

まずは消費電力量のチェックから。

「アウトランダーPHEV」のリアハッチを開けると右側のタイヤハウス近くにコンセントがある。最初から9Wほどの消費電力が発生。なにも電源入れていないのにおかしいなと思ったら、こちら、大半がアナログプレーヤー「TN570」の電力消費だった。あとで電源オフにしてみたところ、「TN570」の消費電力は8Wほどで、残りの1W以下がアンプ類の待機電源だった。

続いて、真空管プリアンプ「SV-192A/D ver.2」をオンにすると44Wに上がり、パワーアンプ「SPM1400E」2台をオンにすると85Wに上昇した。実際に音を出してみると、95W程度まで消費電力がアップ。念のため、かなりの爆音にもしてみたが、最大で106Wまで消費電力が上昇した程度だった。

このように、真空管プリアンプや高級モノラルアンプ2台を使ったシステムであっても、消費電力は100W前後にしかならない。「アウトランダーPHEV」であれば、数値上150時間程度オーディオを聴き続けることができる。バッテリー容量と供給電力量に関しては、全く問題ないといっていいだろう。

さて、肝心の音質について聴き比べをしてみよう。

いつもの電力会社経由の電源を使用して聴いても、我ながら良質なサウンドだと思うのだが、「アウトランダーPHEV」のコンセントに差し替えると一変。全体的に荒っぽさがなくなり、ひとつひとつの音が丁寧な表現となり、音色自身もずいぶんと心地良い響きをもつようになった。いっぽう、SN感がかなり向上したのだろう、かなり小さい音量の、静かな演奏パートでもはっきりと音が届いてくるようになり、楽曲の全体的な構成や演出の意図がよく分かるようになった。

さらに、空間的な表現も向上、特に奥行き方向への広がりがスムーズになり、ライブステージの特等席で聴いているかのようなリアルさを味わえるようになった。それは、ハイレゾ音源、アナログプレーヤーのどちらでも傾向に変わりはない。弦楽器やピアノなどのアコースティック楽器やヴォーカルが、よりきめ細やかな表現をしてくれるようになった、という印象だ。

念のため、電源を元の電力会社電源に戻してみると、いきなり音場に奥行き感がなくなり、音色もあらっぽく感じられる。変化のほどは明らかだ。

「アウトランダーPHEV」のラゲッジルームに設置されているAC100Vコンセントを利用。3Pコネクタが採用されている点は嬉しい限り。こちらに、オーディオルームまでの電源ケーブルを接続した。

このように、PHEV車のAC100V電源、少なくとも「アウトランダーPHEV」の電源は、ホームオーディオ機器にも適した、なかなか優秀な電源だった。マイ電柱をはじめ、かなりのコストと手間をかける覚悟があるオーディオマニアの諸君にとっては、マイカーをプラグインハイブリッド車に買い換えるという選択肢も思ったよりも現実的な方法かもしれない。バッテリー駆動、恐るべしである。

野村 ケンジ(のむら けんじ)

自動車雑誌の編集を経てフリーランスとなる。趣味の楽器演奏が嵩じて、オーディオビジュアルの分野にも活躍の場を広げる。近年では、カーオーディオ、ホームシアターなどに加えて、PCオーディオやヘッドフォンの音質リポートも数多く執筆中。特にヘッドフォンは、年間100以上の製品を試聴しつつ最新の動向をくまなくフォローしている。また、ハイレゾ音源についても造詣が深く、アニソンレーベルのスーパーバイザーを務めるほか、TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNハイレゾ」コーナーなどにもレギュラー出演している。

(野村ケンジ、レスポンス編集部)

[ガズー編集部]