【SEMA特集】BMW 3.0CS(E9)のワイドボディをメイク!バットモービルをモチーフに

BMWが1968年から生産し、「E9」というコードネームが与えられた2ドア・クーペ。デビュー当初は2.8Lエンジンを搭載した2800CSという車名で販売され、1971年からは排気量を3.0Lにアップした3.0CSへと改められた。

その3.0CSをベースに軽量化を図った3.0CSLは、当時のヨーロッパ・ツーリング・カー選手権など、レースのホモロゲーションを取得。ル・マンでのクラス優勝やアメリカのIMSA GT選手権のシリーズ優勝を果たすなど、戦績は実に輝かしい。

また、3.0CSLのレーシングカーは、ワイドトレッド化と空力の向上のため、かなり極端なワイドフェンダーを装着していた。その姿形がバットマンの愛車に似ていたことから、特にアメリカでは『バットモービル』というニックネームでも広く知られている。

今年のSEMAには、そんなバットモービルを再現したワイドボディで話題をさらった3.0CSが登場した。オーナーはニューヨーク州に住むウィリー・イザグイレさん。生まれついてのクルマ好きを自認し、特にオールドスクールカー、日本でいうところの旧車を愛好しているカーガイである。
クルマの生産国には特にこだわりはなく「日本車、欧州車、アメリカ車、すべてのクルマが大好き」と語る。実際に、3.0CS以外に68年式のダットサン・フェアレディ(S310)も所有しており、そちらはS15型の日産シルビアから移植したSR20DET型エンジンへとスワップ。自らの手でクルマをいじることもかなり好きなのだそうだ。

イザグイレさんにとって、普段の生活においても、クルマ趣味においても、頭を悩ませる問題が、雪だ。アメリカ東海岸の冬は厳しく、緯度が日本の北海道とほぼ変わらないニューヨーク州は、豪雪地帯としても知られている。生活に難儀するのはもちろんだが、旧車好きのイザグイレさんにとって深刻なのは、ボディがサビやすいため保管に気を遣うことと、コンディションのいい中古車両を見つけるのが難しいことだ。

「3.0CSを購入した時も、ボディは本当にひどい状態でした。フロアはあちこち錆だらけだったので、適切に修正してからでなければモディファイもままなりませんでした。それでいて値段は高いんです(笑)。3.0CSのような希少な欧州車は特に。ただ、私の場合はダットサン・フェアレディをモディファイした過程で得た経験がありましたし、クルマ作りを協力してくれる仲間たちにも恵まれています。およそ2年の期間をかけて、こつこつと作っていきました」

イザグイレさんの本職は、お客さんのオーダーに応じて、樹脂を使ったオリジナルのシフトノブを製作するクラフトマンだ。手先が器用で、物を作ることに慣れているとはいえ、ボロボロにサビたボディを修復しながら、モディファイしていくプロセスは、骨の折れる作業の連続だったという。

「75年のセブリング12時間レースで優勝した、グループ4の3.0CSLが載っている当時のカタログを持っているんですが、エアロパーツや旧いデザインのBMWロゴを新しく拵える上でとても役立ちました。私はできるだけ当時の雰囲気を再現したかったんです。バンパーやフェンダーなどの外装パネルはFRPで、リヤウイングとルーフ、インテリアのダッシュボードはカーボンファイバーでいちから作りました。リヤフェンダーのおかげでボディの幅は7フィート(約2133mm)を超えますが、うまく当時のスタイリングを再現できたと思いますよ」

エンジンは同じBMWのE36型M3が搭載した直列6気筒ターボエンジンに換装。トランスミッションも同じくM3からそのまま移植したZF製の5速MTに置き換えられている。プレシジョンの大径タービンを備え、エキゾーストやインタークーラーのパイピングにはチタンのワンオフを使用。パワーは500馬力を超えるそうだ。

「センターロックを採用しているBBS製のホイールも、当時のレーシングカーを意識してこだわったポイントです。とても貴重なものです。私はオールドスクールなスタイルを保ちながら、新しい物を取り入れることも好きなので、次にトライしたいのが、最新のレーシングカーに採用されているエアジャッキです。12月にフロリダでショーがあるので、それまでには間に合わせたいですね(笑)」

内装に関しては未完成とのことだが、錆びて使えなかったフロアパネルなどはきれいに補修されており、今後目につく部分はアルミのプレートで覆うそうだ。ロールケージも新たに組むとのこと。シフトノブはもちろんイザグイレさんのお手製だが、なんと米ドル札を細かくちぎって樹脂で固めている。ものすごくお金がかかったクルマだから大事に乗れよという、自身への戒めなのかもしれない。

ニューヨーク州からSEMAの会場であるラスベガスまで、はるばる44時間のドライブを経て参加したイザグイレさん。クルマへのパッションを表現し、それを評価してくれる多くの人々と出会い、繋がりを持てることが、なによりの喜びだと語ってくれた。

[ガズー編集部]