わたしの自動車史(前編) ― 小早川 隆治 ―
- 小早川隆治 (プロフィール)
1941年生まれ。1963年に東洋工業(現マツダ)に入社し、71年までRE研究部に所属。その後は米国の技術駐在員、海外広報などを経て、1984年に開発に復帰。2、3代目RX-7やモータースポーツの主査を歴任した。退社後はフリーランスモータージャーナリストとなり、三樹書房から『車評』シリーズを出版。現在はWEBコラム『車評オンライン』を執筆している。
このコラムでは、私の人生とクルマの結びつきに少なからぬ影響を与えてくれた人を何人かご紹介したい。まずは戦前、日産の技術者だった今は亡き父だ。MGK3マグネットを英国から入手し、多摩川スピードウェイにおけるレースに参戦。空襲で全焼したわが家で唯一燃え残ったのがこのクルマだった。長い疎開生活の後、修復して短期間オートレースなどに活用するが、口数の少ない父との会話のテーマの多くは「クルマ」で、中学生時代は毎日のように車庫にあるMGのシートに座った。このクルマは父が河口湖自動車博物館に譲渡後、英国で完全にレストアされた。
14歳になると白いタンクに赤いエンジンのホンダ・カブを皮切りに何台かの中古バイクに没頭した。学習院大学理学部では近藤研究室で内燃機関の燃焼に関する研究に従事、クルマ好きな故近藤正夫教授の教えはその後の私に大きな影響を与えてくれた。中でも心に残る教えが「自然との対話の大切さ」だ。教授のアドバイスを得て、仲間と5人で「疲労度測定」をテーマにトヨペット・マスターラインでの鹿児島往復の旅に出たのも懐かしい。アルバイトでためた5万円で入手した、タクシー上がりのルノー4CVが私の第1号車だ。
ちょうどそのころ、東洋工業がアウディNSUと提携してロータリーエンジン(RE)の開発に着手、開発参画への欲望をかき立ててくれた。63年に入社、幸いにも開設早々の「RE研究部」試験課に配属され、山本健一部長(当時)の情熱と素晴らしいリーダーシップのもと、RE開発に従事した。注力したテーマの一つがハウジングの波状摩耗の解決手段となったカーボンシールの欠損問題だ。実車での極低速走行でしか再現できず、多くの車両を極低速で走らせてようやく対応策を見いだすことができた。コスモスポーツの67年ロンドンショー出品に伴い、山本さんの指示でロンドンに送り出され、3カ月間毎日油だらけになりながらコスモスポーツの面倒を見るとともに、英国のクルマ文化に心をときめかせた。
マツダ入社後、初めて入手したクルマは310系ブルーバード。それ以降退社まではキャロル600に始まる各種のマツダ車となった。参画型モータースポーツに情熱を燃やしたのもこのころで、キャロル600、ファミリア800などでローカルラリーに参戦するも、公道上で何度か「あわや」という場面に出くわし、68年の結婚を機にラリーからジムカーナに転向した。
排出ガス対策にめどがたち、全米でRE車の販売を開始したのが71年、技術駐在員として送り込まれたのが72年初めだ。当初は私一人だったが、すぐに駐在員事務所が立ち上がり、私の要望に即答してくれた故光成卓志実験研究部長(当時)のおかげで実研駐在員制度が実現、定着した。冷却性や空調などの評価のために、気温が50度に達する真夏のデスバレーにRX-2、RX-3、RX-4などのテストチームを引き連れて何回も出向き、標高の高いロッキー山系にも何回かテストチームを引率。南カリフォルニア一帯もくまなく走り回った。急速に拡大したRE車の米国での販売に冷水を浴びせたのが第1次オイルショックと、その直後にアメリカの環境保護局(EPA)が発表したRE車の燃費値だった。「ガソリンをがぶ飲みするエンジン」という報道の繰り返しで、マツダは窮地に追い込まれた。
- 小早川隆治 (プロフィール)
1941年生まれ。1963年に東洋工業(現マツダ)に入社し、71年までRE研究部に所属。その後は米国の技術駐在員、海外広報などを経て、1984年に開発に復帰。2、3代目RX-7やモータースポーツの主査を歴任した。退社後はフリーランスモータージャーナリストとなり、三樹書房から『車評』シリーズを出版。現在はWEBコラム『車評オンライン』を執筆している。
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[ガズ―編集部]
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