わたしの自動車史(前編) ― 森口将之 ―
僕はクルマが嫌いだった。幼い頃の話ではあるが、乗り物酔いがひどかったからだ。当時は埼玉県の草加という街に住んでいて、父の実家のある東京・浅草に行く際は、両親と弟がクルマで行くのに、ひとりだけ東武電車に乗って向かったのだった。鉄ちゃんだったためもあるけどね。
逆に5歳離れた弟は幼少期からクルマ好きで、当時の父親の愛車だったトヨペット・クラウンでよくドライブに出掛けていた。そんな弟の気持ちに応えるべく、親は友人から輸入車を借りてきて乗せてくれることもあった。
クルマ嫌いなはずなのに、なぜか中学生の頃から自動車雑誌『カーグラフィック』を毎月購読していた僕は、親の愛車のクラウンは避けつつ、借り物の輸入車には進んで乗った。中でもクラシックミニ、1970年代のBLMCミニ1000のダイレクト感はいまも印象に残っている。「これがゴーカート・フィールなんだ」と、幼心で雑誌のフレーズを反すうしていた。
運転免許はモーターサイクルから取得した。18歳、大学に入学してからのことなので、クルマの免許も取れた。そうしなかったのは、病気がちで運動が苦手で引きこもりという典型的草食系だった自分を、自分なりに脱皮させたいと思い、最も野性的な乗り物のひとつであるモーターサイクルを選んだんじゃないかと、今にして思う。
でも若気の至りで、山道で転び、警察には捕まり、を繰り返しているうちに、親からクルマ免許取得令が出た。社会人にとって運転免許は必須だとは認識していたので、命令には従った。クルマを運転する人間が3人に増えたこともあり、背高のっぽの「ホンダ・シティ」がわが家にやってきた。
親はより安全で快適な、大きなクルマに乗ってもらいたかったようだが、ミニのダイレクト感が身に染みていた僕は、カーグラフィックで称賛されていたシティを推した。知り合いの自動車整備屋さんがその気持ちを後押ししてくれた。
こんな具合でクルマを運転するようになったので、自分にとってのクルマは家族や友達と一緒に出掛けるためのパートナーという位置づけで、走りを楽しむならモーターサイクルという気持ちは、いまなお変わらない。
大学を卒業し、小さな広告制作会社に入ったものの、半年で辞め、バイトをハシゴしながら求人情報誌を眺めていたとき、目に入ったのが「二輪雑誌編集部員募集」だった。お世話になっていたバイクショップの紹介で学生時代に編集のアルバイトをしていて、面白い仕事だと感じていた。当然のように応募した。
履歴書を持参して、編集長と面接。学生時代は夏休みのたびにテントとシュラフを愛機にくくりつけ日本各地を旅したことや、バイトで編集の経験があることなど、自分なりにアピールした。ところが編集長から出た答えは予想もつかないものだった。
「二輪のほうはもう決まったので、四輪の雑誌をやってみないか」
1985年末。その後の自分の人生を決定づけた瞬間だった。
【編集協力・素材提供】
(株)webCG http://www.webcg.net/
[ガズ―編集部]
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