[密着!S耐TV Vol.3]想いを一つに絶妙のチームワーク! S耐を体現する『S耐TV』の番組制作の舞台裏に潜入
スーパー耐久シリーズ2021 最終戦(岡山)。我々はYouTubeを使って毎回レースの模様を余すところなく放送している『S耐TV』制作の舞台裏に密着。
4回にわたってお届けする密着企画の第1回では、S耐TVがS耐の魅力を発信するため、放送開始から貫き通している「無料放送」と「参戦するすべてのチームにスポットを当てたい」という2つのこだわりや、個性豊かな出演者の方々をご紹介。
第2回では、出演者の方々が醸し出す、どこか『ラジオの深夜放送のような緩さ』や、視聴のみならずYouTubeのコメントを通じて生まれる『一緒にコタツに入りながら観戦している』ような、S耐ならではなファンとのコミュニケーションのあり方についてお届けした。
そして第3回は、11月14日(日)に、実に10時間以上も放送された『スーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook 第6戦 スーパー耐久レースin岡山』の番組制作の舞台裏に迫っていきたい。
S耐TVのYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UC8sfQKfk_4_JePSHSupvT4w)にはグループ1とグループ2に分かれてアーカイブが残っているので、それもぜひチェックを!
予選:明日の本番に向け、全員で情報収集
予選が行われる11月13日(土)。この日の放送はないものの、出演者やスタッフは朝から慌ただしく準備を進める。我々がサーキット入りした朝8時にはすでにピット2階にある部屋に仮設スタジオがセッティングされ、入念な機材チェックが行われていた。
レースの模様を中継するためにS耐TVがサーキットに持ち込む機材の量は2tトラック1台とハイエース半分ほど。番組の制作を統括するディレクターの宮崎さんによるとスポーツ中継の機材としては少ないほうだと笑う。
「今回の岡山だとレースを中継する我々のカメラは7台体制になります。ほかにサーキットの場内監視の映像をお借りしてレースの実況をしています」(宮崎さん)
映像をスタジオに届けるために無線通信や4G携帯通信なども使っているが、無線は予期せぬトラブルが発生することもある。そのため今回のレースでは、カメラとスタジオの間をケーブルでつなぐのがメインに。1コーナーだとケーブルの長さは1km近くになるそうだ。
この日は午前中にトヨタ、川崎重工、SUBARU、マツダ、ヤマハの5社が「カーボンニュートラル実現に向け、内燃機関を活用した燃料の選択肢を広げる挑戦」について共同記者会見を行った。
S耐TVでも会見の模様を取材するために、スタッフが会場とスタジオの間をせわしなく走っている。その間、番組MCである数野祐子さんとピットリポーターのMC平田さんは互いが得ている情報を交換し、マシンやドライバーの調子などを確認していく。
数野さんはS耐TVに関わるようになってから、ドライバーやチームの情報を細かくノートにまとめている。ここには4年間のマシンやドライバーの状態などが細かく記載されている。とてつもない財産だ。そこに平田さんが得た最新の情報が加わることでチームの現状がリアルに浮かび上がり、実況やピットレポートに深みが増すのだ。
午後になり予選がスタートすると、解説の福山英朗さんはスタジオのもっとも窓際に設置された放送席に座り、ホームストレートを走るマシンが1コーナーに入っていく様子を眺めながら気になったことをメモしていく。すると平田さんが福山さんのもとに。2人でタイムを見ながら、レポートを入れるチームを確認している。
2021シーズンのスーパー耐久シリーズは9つのクラスに分かれているため、ポールポジションインタビューも9チームに行う。短い時間で視聴者にとって有益なコメントを引き出すためには、わずかなタイムの変化にも注目する必要があるのだろう。
13時30分、グループ2 Bドライバーの予選中に1コーナーで土煙が上がり、イエローフラッグが出された。福山さん、数野さん、平田さんはすぐに集まり、データを見ながら状況を整理する。そして平田さんはすぐにピットに向かった。
ピットに到着すると、中ではチームスタッフが慌ただしく動いていた。平田さんは少し様子を見て顔見知りのスタッフに声をかけて、数分話を聞く。そしてスタジオに戻る途中、別のチームのドライバーから声をかけられ2、3言葉を交わす。このような何気ない会話からもレポートに役立つ情報を拾っていた。
「当たり前のことですが、僕たちは憶測でレポートすることはしません。些細なことでも裏を取って視聴者に伝えます」(平田さん)
平田さんはスタジオを出て再び戻るまでに、わずか10分ほどで3つのチーム、1人のドライバーから話を聞いた。
「短い時間で話を聞くためには、こちらで原因などを予想しながらストーリーを組み立てておく必要があります。それを相手にぶつけることで予想があっていたら『その通りだ』の一言で済みますし、違う場合は、『そうじゃなくてこうだった』と答えやすくなるから」(平田さん)
ディレクターの宮崎さんは3人の出演者をこのように評価した。
「福山さんはスーパー耐久をみなさんに知っていただき盛り上げていこうという情熱にあふれています。数野さんはとても勉強熱心。決勝は長丁場なので出演者の休憩時間も用意していますが、その時間も勉強に充てている数野さんの姿を見るたびに頭が下がります。そして平田さんは取材熱心で心遣いが細やかな方です。我々制作サイドの仕事も快く手伝ってくださるので本当に助かっています。みなさん、この番組を作っていく上で欠かせない大切な戦力です」(宮崎さん)
決勝:蓄積したデータとリアルな情報収集がテンポのよさを生み出す
2021年シーズンは雨に見舞われることも多かったが、11月14日(日)の決勝レースは気持ちいい秋晴れとなった。
この日は朝8時からコース上でグループ2に出走するチームのセレモニーが行われた。福山さんと数野さんはすでに放送席でスタンバイを済ませ、平田さんとアシスタントの中嶋さん、RIKIさんはセレモニーのレポートのためピット脇で待機している。
平田さんは「コースを動き回りやすいように薄着で出てきちゃった。寒いよ……」とおどけて、緊張するアシスタントたちを和ませる。
その後、平田さんはピットからマシンがコースに出ていく様子をタブレットで動画撮影。そしてすべてのマシンがピットを後にすると、3人は駆け足でコースに向かい、ポールポジションインタビューの準備にとりかかる。
最初のチームのインタビューを終え、次のチームのところに駆け足で向かう間も平田さんはすべてのチームに声をかけていく。ドライバーは彼の声に気づくと笑顔で手を振る。チームとの信頼感はこんなところからも生まれていくのだろう。
「平田さーん、いつも見てます! 頑張ってくださーい!!」
ポールポジションインタビューを終えたところでスタンドから声援が飛んだ。立ち止まり、ファンに笑顔で手を振る。その後、平田さんは時間ギリギリまでコース上に残り、決勝直前のチーム取材を行っていた。
決勝がスタート。福山さんと数野さんは緊迫した雰囲気でスタート直後の熾烈なポジション争いをレポートする。中継スタッフはカメラクルーにどのマシンの映像を捉えるか指示を出し、絶妙なタイミングでスイッチングして広いコースで繰り広げられるバトルを逃さず放送していく。
スタートから10分。50号車がピットに戻ってきた。その情報が入ると平田さんとRIKIさんはスタジオを飛び出し、ピット裏から50号車のピットに駆け足で向かう。スタッフからミッショントラブルであることを聞くと、無線でディレクターの宮崎さんに連絡。宮崎さんはすぐに平田さんのマイクをつなぎ、ピットから最新情報を視聴者に届ける。
スタートから30分ほど経ちレースが落ち着いてくると、福山さんと数野さんの実況も緊迫した声色から柔らかい雰囲気に変わってきた。話題も最終戦ならではの秘話など、ユルめの話を盛り込むように。数野さんはYouTube Liveのチャットに書かれたコメントを拾いながら、Twitterで各チームのウェイト情報を発信する。
その後、話題はモリゾウ選手がドライブする32号車『ORC ROOKIE Corolla H2 concept』と37号車『MAZDA SPIRIT RACING Bio concept DEMIO』に。水素エンジンやバイオディーゼルなど、新たな燃料を使用するマシンがレースに参戦することの意義、おもしろさを福山さんと数野さんでじっくり紐解いていく。
これが前回の福山さんへのインタビューで話していた“AMラジオの深夜放送のような雰囲気”を作り上げる部分だ。
「スーパー耐久は長丁場のレースです。緊迫感のある中継が続くと視聴者も疲れてしまうでしょうから。長年レースをやってきた僕だから言えるような冗談もある。そんなものも織り交ぜながら、視聴者のみなさんとこたつでミカンを食べながら観戦しているような雰囲気を作れたらと思っています」(福山さん)
各マシンが続々とピットに帰ってくると、数野さんはヘルメットを見てドライバーが誰に代わったかを伝えていく。60台以上のマシンがエントリーし、ドライバーはゆうに200人を超えるスーパー耐久シリーズで、上位チームだけでなくすべてのチームのドライバーを把握する数野さん。ディレクターの宮崎さんが「勉強熱心」と話すのはこのような部分からもわかる。
「スーパー耐久シリーズはレースを楽しんでいる人にとって憧れの存在。ここを目標にレースを続けている人も多いと思います。だからこそ私はここにいるすべてのドライバーをリスペクトしているし、すべてのチームのドラマをお伝えできたらと思っています」(数野さん)
番組が目指す“深夜ラジオの放送感覚”は、視聴者にしっかり伝わっていた
午後から行われたグループ1の決勝前。ポールポジションインタビューは前半を福山さんと数野さんが担当した。
グリッド上を歩き、時折冗談を交えながらドライバーに話を聞いていく。スタート直前でドライバーはピリピリしているはずだが、福山さんと話すとみんなが笑顔になる。この場面でも深夜放送のような雰囲気を出せるのは、長年第一線で活躍した福山さんだからこそなせる技だろう。
グループ1もスタート直後は激しいポジション争いが繰り広げられる。緊迫した中継の中で数野さんは福山さんとの掛け合いで関西弁が溢れる場面も。前回のインタビューでは「アナウンサーボイスではなく、福山さんと素で話している感覚を意識している」と教えてくれた。これも“仲間とこたつで観戦している雰囲気”を感じさせる部分だ。
グループ1の決勝はたびたびフルコースイエロー(FCY)が出される展開に。そのたびに福山さんと数野さんで状況を整理し、平田さんが情報収集に走る。
レースも終盤に差し掛かった16時過ぎ、平田さん、中嶋さん、RIKIさんが集まり、今回のポイントと年間ランキングを整理していた。レース終了後は優勝チームとシリーズチャンピオンチームへのインタビューが待っている。そのための準備だ。
16時30分すぎ、トップを走る16号車『Porsche Center Okazaki 911 GT3R』がチェッカーフラッグを受けて最終戦が終了。スタンドで観戦するファン、ピットにいるチームスタッフはもちろん、スタジオで中継するS耐TVスタッフからも大きな拍手が沸き起こる。
数野さんはスタンドでマシンに向かって手を振る多くのファンを見て、「みんなずっと応援してくれていましたね。長い時間、ありがとうございます!」と番組を通じて声をかける。
「2020年、2021年はコロナ禍でのレースになり、S耐TVもやりたいことが思うようにできないことが多くありました。ファンの方々もサーキットに足を運びたいのにできないという状況だったと思います。だからこそS耐TVはドライバーやチームの方々、そしてファンの方々と近い距離で番組を制作し、全員がファミリーのような一体感を出していけたらと考えています。そしてS耐TVを観てくださる方々が、来年はサーキットに行ってみようと思ってくれたら、これほど嬉しいことはないですね」
ディレクターの宮崎さんは笑顔でこのように話してくれた。
10時間以上におよぶS耐TVの放送中、チャットは視聴者からのコメントで溢れている。ファン同士がチャットで会話していたり、出演者に愛のあるツッコミを入れたり、数野さんからの救援依頼に対して視聴者からいろいろな情報が届いたり。そこはまるでサークルのような雰囲気だった。
レースという緊張感のあるスポーツを観ているはずなのに、PCやスマホの画面からはみんながのんびりしているような空気感が伝わってくるのだ。
これはS耐TVの制作スタンス、そう「深夜ラジオの放送感覚」がきちんと視聴者に届いている証だろう。
2022年、スーパー耐久シリーズはさらに変貌を遂げる。それにともないS耐TVも代わっていくはずだ。次回は全4話の最終回、2022年のスーパー耐久とS耐TVのことに触れていこう。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影:堤晋一)
[GAZOO編集部]
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