“プロ”に聞く、カーボンニュートラルな燃料とガソリン・軽油との使用感の違いは!?
2021年シーズンからスーパー耐久シリーズに新設されたST-Qクラスには、今年最大で7台のマシンがエントリーしているが、その中で、「バイオマス由来の合成燃料」を使用しているマシンが3台参戦している。
一つはバイオディーゼル燃料を使用するマツダのMAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio concept、そしてもう2台は同じカーボンニュートラル燃料を使用する、ルーキーレシング(トヨタ)のORC ROOKIE GR86 CNF ConceptとSUBARUのTeam SDA Engineering BRZ CNF Conceptであり、メーカー主体のチームとなっている。
これらは、化石燃料(普通のガソリンやディーゼル)とほぼ同じ性能をもち、現在のエンジン(内燃機関)をほぼそのまま使用できるうえに、カーボンニュートラルに向けた有効な手段の一つとして注目を集めている。
すでにさまざまなメディアでも取り上げられており、これらの合成燃料の性能は、既存のガソリンやディーゼルとほとんど差がないことを見聞きしている方も多いかもしれない。
今回は、実際にこれらの合成燃料を使用して走るチームで、特にサーキットレース以外のジャンルにおけるクルマのプロフェッショナルに、本当に使用感が変わらないのか、伺ってみることにした。
バイオディーゼルはクリーンなままパワーを上げられる
まずは、2021年の最終戦でバイオディーゼル燃料「サステオ」を使い参戦を開始したMAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio conceptに乗る井尻薫選手だ。
2005年からスーパー耐久に参戦するとともに、パーツメーカーで製品の開発ドライバーやサーキットのドライビングアドバイザーを務めるなど、サーキットからストリートまで知り尽くしたプロドライバーだ。
「これまでもチームノプロさんで、5年以上ディーゼルのデミオに乗らせてもらっていますが、びっくりするぐらい違いがないんです。
昨年の岡山で乗った時から、使用しているユーグレナさんのバイオディーゼル燃料『サステオ』はすでに完成された燃料なんだと思いましたし、通常のディーゼルと変わらないパワーやトルクを感じることができています」
走る分には違いを感じることはないというが、劇的に変わったことが1つだけあるという。
「ディーゼルエンジン特有の排気ガスがめちゃくちゃ少なくなりました。通常の軽油の時は周りのチームから『煙いんだけど』と言われたこともありましたが、サステオにしてからは煙が減ったというレベルではなくて、99%減という感覚です」
「レースが終わったあとに指でエキゾーストの中を触ってみても煤がついていないという、ガソリン車よりもクリーンな排気になっています。
また、通常のディーゼルの時はパワーを上げると煙が多くなる、煙を減らすとパワーもでなくなるという相関関係がありましたが、サステオはクリーンなままパワーを上げられるというのも特長ですね」
昨年の岡山のレースでは若干パワーはセーブしていたというが、今シーズンはエンジンが1.5Lから1.8Lになっていることやタービンの仕様の改良に加え、マツダのエンジニアによるエンジンの制御調整などにより、パワーや全域でのトルクがあがっているという。
カーボンニュートラル燃料はガソリンを超えるかも
次に、Team SDA Engineering BRZ CNF Conceptのドライバーお二人にも伺った。
スーパー耐久第2戦でスポット参戦した吉田寿博選手は、過去にインプレッサWRXでST-2クラスに長年参戦したドライバーでもあり、スバル車ご用達のチューニングパーツメーカー『PROVA(プローバ)』の社長も務める、使う側として量産車の性能を熟知しているプロだ。
「走らせてみるまではそれなりに違いがあるのかなと思っていたけど、ガソリンとのフィーリングの違いもなく、このままの状態でも使えるんだろうなという感じだね。逆にこのカーボンニュートラル燃料の開発を突き詰めていったら、ガソリンよりも速くなるんじゃないの?っていうくらいの期待感はあるよね」と、その性能に太鼓判!
そしてもうお一方、86&BRZレース(今年からGR86&BRZカップ)にも参戦する廣田光一選手は、スバルの車両運動開発部に所属する社員ドライバーで、多くの量産車の車両の開発に携わる、自動車のプロだ。
「カーボンニュートラル燃料にしても、ストレス感を感じることはありません。トルクが細くて、富士スピードウェイの第3セクター(登りでコーナーが連続するドライバーにもマシンにも難しいコースの後半部分)で登っていかないということもないので、新型BRZに搭載される水平対向FA24エンジンとはマッチしているのかなと思います。
今回は24時間と長丁場のレースではありますが、チームから抑えて走ってくれという指示もないですし、いつも通り思い切り走れると思います」
取材をさせていただく前は、「実は〇〇で……」という話が何かしら聞けるのではないかと期待はしていたのだが、井尻選手、吉田選手、廣田選手が話すようにその使用感に違いはなさそうだ。
そして、自動車メーカーが自ら参戦しているため、燃料の性状や特徴を理解し、エンジンの細かい制御を調整することで、その燃料の適正な燃焼を引き出していくこともできていっているようだ。
バイオ由来の合成燃料は、現状では1Lで10,000円以上するというが、既存の「はこぶ、ためる、つかう」ための設備やクルマを活用できるため、現実的なカーボンニュートラルの選択肢の一つといっていいだろう。
レースを楽しみながら、カーボンニュートラルの新しい取り組みにも触れられる、まさに一石二鳥でスーパー耐久を楽しんでみてはいかがだろうか。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:堤晋一、折原弘之)
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