【スーパー耐久第4戦オートポリス】S耐でいろいろなことが試される新型Nissan Z。その現在地を聞いた
先日、日産の新型Nissan Zのメディア向けの試乗会が行われたことで、ジャーナリストの方の試乗レポートをご覧になった方も多いかもしれない。
いっぽうスーパー耐久では、「Nissan Z Racing Concept」として6月の上旬に開催された第2戦の富士24時間レースでデビュー、その速さと雄姿を披露しいち早く話題となっている。
その際は、具体的な参戦目的やマシンの仕様ついてヴェールに包まれた部分も多かったが、多くのメディアでその走りが明らかになったこのタイミングで、改めて「Nissan Z Racing Concept」がスーパー耐久に参戦する意図やマシンの開発状況などについて、第4戦が開催されるオートポリスで取材させていただいた。
毎戦変更しているエアロ以外にも実はいろいろ試している
まずは、日産モータースポーツ&カスタマイズで開発部門、購買部の常務執行役員を務める石川裕造氏にお話を伺った。
「スーパー耐久に参戦するコンセプトとしては、量販車の方向性は変えずこのクルマの良さを引き出すいろいろなチャレンジをしていくことです。
見た目では空力パーツを毎回変更してきていますが、クルマ全体的にもいろいろと変更を加えています。富士24時間レースがいきなりデビューレースでしたが、1台にはトラブルが起きてしまったのでその対策をしたり、エンジン自体の適合なども変更しながら、本当にいろいろなことを試しています。
例えばABSやトラクションコントロールなどは富士24時間レースの時とは違う仕様になっていたり、ステップアップもしながらいろいろな選択肢を試している最中なんです。
こうしたことができるスーパー耐久のST-Qクラスというのは本当にありがたいですね」
エンジンは、「スカイライン400R」にも搭載される3.0L V型6気筒ツインターボエンジンだが、現状は大きな改良は加えていないという。
「エンジンについては、デビュー戦から引き続き今もほぼほぼノーマルの状態です。その中で制御を変えることで、レース用にトルクや馬力を上げていたり、このオートポリスに合わせてコーナーのトルクの出方など調整しています。
現状では、量販車のエンジンの良さを引き出すため、制御の変更のみでパーツの変更は行っていません。でも今後も変更しないということではなく、バルブタイミングやカムを変えるなど、エンジニアがやりたいということは取り組んでいくつもりです」
S耐で試したパーツをニスモブランドで出せたらいい
まだ明らかにできる具体的な目標は定められていないというが、今後の展開についての想いを伺うことができた。
「まだ具体的な方向性を決めてはいなくて、いろいろな可能性を試すために目標の幅を狭めていないというのが現状です。ですが、このスーパー耐久に参戦することで蓄積できたデータが、今後の量販車や特別仕様車などの開発に役立っていくとうれしいですよね。
また、ニスモはお客様にアフターパーツを提供しているブランドですので、ここで試したパーツを自信を持って市場に出すことができたらいいなと思っています。
そんな遠くない時期には、何かしら具体的なカタチにできるのではないかと思っています」
もっとレーシング仕様の派手なエアロも試してみたいということで、また新たなカッコいいZの雄姿を見ることもできそうだ。
エアロの改善でダウンフォースが増えた
そして、この新型フェアレディZの開発を担当するMax Racingのドライバー、田中哲也選手、田中徹選手、三宅淳詞選手にもお話を聞くことができた。
まずはベテランドライバーでこのチームのリーダー的存在である田中哲也選手に、現在の状況を語っていただいた。
「デビューレースの富士24時間レースではほぼノートラブルで完走できて、第3戦SUGO、そしてこの第4戦オートポリスで3戦目になりますが、一番分かりやすく変わっているのはエアロです。フロントのバンパーの形状であったり、リアウイングであったり、その辺は1戦1戦明らかに変わっています。
まだ3戦目ではありますが毎回レベルアップしていますし、耐久レースですのでいろいろと実践的なテストを行えるので、速さ、耐久性、信頼性などを高めながら、今後のクルマの方向性を考えている最中です。実際に乗っていてもいろいろと変化を感じられるので楽しいですね」
富士24時間レースの際に、ジェントルマンドライバーの田中徹選手にお話を伺った際には、「エンジンパワーが上がって速いが、ダウンフォースがなくてちょっと怖いくらい」と伺っていた。そのダウンフォースと今後の気になることについて伺った。
「大きなリアウイングもつきましたし、見た目の通り今はダウンフォースがしっかりつきました。そこへの不安は無くなりましたね。あとは僕なのか、三宅選手なのか、どちらに合わせてセッティングをしてもらえるか気になっています。僕寄りにしてもらわないと困るんですけどね(笑)。僕のようなドライバーがニスモの開発チームにいるなんて異例のことなんですから」
それを受けて田中哲也選手は、田中徹選手の大切さを語ってくれた。
「いろんな人にドライビングを楽しんでもらうためには、いかに幅広いクルマに仕上げていくのかというのも大事ですので、田中選手のような背の高いジェントルマンドライバーや、若手ドライバーの三宅選手にも乗りやすいクルマにしていきたいですね」
いっぽう三宅選手は、「見た目の変化に対してしっかりと走りの変化も感じられるので、ベースのクルマがいいのかなと感じています。
スーパーGTやスーパーフォーミュラにも参戦していますが、スーパー耐久でこういった量販車ベースのマシンに乗るのは、本当に勉強になります。耐久レースなので、マネジメント能力なども鍛えることができると思います」と、このチームに参加しマシンを鍛えながらも自身のドライビングスキルも磨いているようだ。
開発ドライバーは責任は大きいがとても光栄
そして、それぞれがこの新型Zの「開発チーム」に参加する想いを語っていただいた。
まずは田中哲也選手。
「まだどういう方向性にしていくのか決まっていないのですが、たとえどんなカテゴリーに出ることになっても僕たちは『速くて乗りやすいクルマ』を作ることに、少しでも協力していきたいですね。
また、開発ドライバーというのはなかなか経験できることもないですし光栄です。すごいしんどい思いをすることもあるかと思いますが、開発に携わったクルマに対してお褒めの言葉をもらえたらやりがいもありますし、この開発を通じて発売されたパーツが売れたりするとすごくうれしいですよね」
そして三宅選手も「開発に関わることができるのは光栄ですし、誰が乗っても速いクルマの開発に協力できたらと思います」と、田中選手と想いを同じに、開発への貢献を誓っていた。
そして田中徹選手は、その真剣な想いをジェントルマンドライバーらしい微笑ましい表現で語ってくれた。
「今3歳の息子に自慢できるドライバーになりたいです。もう少し大きくなったらこの新型Zの開発に関わったことも伝えたいなと思います。評価がよくなかったら言わないかもしれないですけどね(笑)」
なお、3人のドライバーとも量販車の新型フェアレティZには「実はまだ乗っていないんですよ」とのことで、田中哲也選手もいろいろな記事をチェックしているそうだ。
「最近、日産のテストコースでメディア向けの試乗会をやっていたじゃないですか。こういうところを喜んでいるのかとか、こういう風に表現するんだとか、何気に記事や動画とかチェックしていますよ(笑)。
もともと市販車べ―スのレーシングカーは、ノーマルのポテンシャルがすごい影響力を与えますし、記事を読む限りでは、この244号車とノーマルのクルマはそれほど大きく変わっていないんじゃないかと思います」
今後も見た目に分かる、分からないそれぞれの分野で、さまざまな改良が加えられレベルが上がっていくであろう「Nissan Z Racing Concept」。その存在だけでスポーツカーシーンに大きな話題をもたらす新型フェアレディZが、スーパー耐久でどのような進化を遂げるのか、今後も注目していきたい。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:折原弘之、GAZOO編集部)
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