ルーキーレーシング 水素エンジンを手の内化、GR86は楽しい車づくりを加速

2022年9月3~4日(土日)にスーパー耐久第5戦がモビリティリゾートもてぎで行われた。ORC ROOKIE Racingは、ST-Qクラスに28号車(ORC ROOKIE GR86 CNF Concept) 蒲生尚弥/豊田 大輔/大嶋和也と32号車(ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept) 佐々木雅弘/MORIZO/石浦宏明/小倉康宏をエントリーした。今回のマシンは、前回よりどのように進化したのか、GAZOO Racingカンパニーの佐藤恒治プレジデント、GR車両開発部の高橋智也部長の会見内容をお伝えする。

32号車 GR Corolla H2 concept

スーパー耐久はレース時間が長いため、他のレースよりも、耐久性能が必要だ。そのため、32号車は水素エンジンの耐久性を考慮し、予選より決勝の出力を落としてきたが、今回は高出力での耐久性を確認するために、予選と決勝の出力を同じ設定にしたそうだ。ところが9月初旬のもてぎは想定以上に暑く、熱負荷が高かったため、決勝レースの途中で一度出力を落とし走行したものの、再度予選と同じ出力にもどし完走をはたしている。

佐藤プレジデント

「水素エンジンはこの1年で景色がかわり、少し革新めいたものが芽生え、今年5合目、6合目に足掛けるとこまではいくと思う。レースでは、厳しい環境条件の適用性をみており、基本的な燃焼特性については手の内化ができた。またエンジン以外のところ、パイピング、配管、安全性、機能補助についても並行して検討を行っているが、問題がでておらず、大きく進化している。次に訪れる壁は、パッケージンググの議論で、高圧の燃料タンクの搭載スペースをどうするかだ。でも、小型のSUVにするとか、車両パッケージに自由度があるものを前提にすると、感度の険しさはかわるので、それらを鑑みると間違いなくこの1年で前に進んでいるのは確信がもてる。ただし、量産化は最後が険しくて、何をしなければいけないかは見えてきただけだ。」

量産化に向けては、日常使いの検討が重要になるが、カローラクロス水素エンジン車で行っている。具体的には、日常運転での燃費向上について、水素エンジンの得意領域である低負荷での希薄燃焼へのチャレンジをおこなっているそうだ。

また、液化水素エンジンについては、テストを開始しているが、マイナス253度で維持することについて苦労しているが、「本年最後(11月)鈴鹿でのレースに間に合えばいいな」という思いだと語った。

水素カロ―ラが昨年5月にデビューし、今では水素エンジンがスーパー耐久にいるのは、当然の風景だ。また多くの人がリタイアしないクルマという印象をもっているではないか実際にリタイアしていない)。レースカーとしては、競合クラスとラップタイムが同等のタイムのため、水素充填によるピットイン回数が、ガソリン車と同等の回数になれば、レースカーとしてもガソリン車と争うことができるようになるだろう。
そして、水素エンジン車の量産化に向けた取り組みが加速していると聞く。また液化水素エンジンのレースデビューも、遠くない未来にあるかもしれない。水素エンジンの量産化に向けての準備が凄い勢いで進んでおり、ますます目を離せなくなってきた。

28号車 GR86 CNF Concept

前回第4戦オートポリスと比較して13馬力向上させ、ブレーキとサスペンションのチューニング、前回リタイアの原因となった燃料タンクの電気系統を改善した。馬力アップについては、燃料希釈(エンジンオイルに燃料が混じること)について燃料噴射の抜本的な改善を行い実現している。また、カーボンニュートラル燃料は、樹脂部品に対してガソリンより損傷しやすいことがわかったそうだ。
また、28号車は第3戦SUGOに参戦せずに、その期間に車の特性を分析できる仕組み(ボディー剛性をリニアにねじれるようになっているのか、重量配分は正しいのか、いろいろな挙動が出たときに可視化できる状態)を導入した。小手先のチューニングでも車は速くなるが、「もっといい車づくり」のために、手順を踏むことを一番大事にしているためだ。その状態で第4戦に参戦しボディー剛性を向上させているため、今回はサーキットに合わせた、チューニングだけで速くなっているとのことだ。

佐藤プレジデント

「86はモリゾウが一番のファンとして愛している車。ステアリングをきって、車を操るのが一番楽しい車になりたいとモリゾウは常々言っている。なので、28号車と61号車は、次のモデルチェンジがあるとしたらどんな車になるのだろうかと、スバルらしく、トヨタらしく考え、味づくりを競争している。トヨタは、ハンドルを切るのを楽しい車にするために、フロントを軽くして曲がりやすい車をつくりたいと考えている。GRヤリスのエンジンを搭載して30Kgぐらい軽くし、重量配分を改良して、旋回特性を向上させるような、「車づくり」をしている。スバルは正常進化で、今ある面白さを失わずにもっと楽しい車にしようとしている。どちらもアプローチは違うが、どっちもBRZや86がこんな風にフルモデルしたら面白いだろうなという車を作りながら競争しています。接戦だということは、お互いによいアプローチをしていることだと思います。このスーパー耐久への参戦を通じて、次の開発する車の目標が見えてくる、そんな立て付けにしています。2台中身は全く違いますので、次のモデルチェンジのトライが競争していると思ってみてもらうと面白いかもしれません。」
また、スバルのアイサイトの取り組みについては、
「スバルのレースでアイサイトを鍛える発想には、脱帽です。次回までに何か考えてきます。」と述べた。

カーボンニュートラル燃料が注目されがちだが、28号車GR86と61号車BRZは、新しいスポーツカーを開発する過程をほんの一部だがお客様に共有している。その開発過程のガチバトルは、それこそGR86やBRZファンのためのレースと言ってもよいのではなかろうか。GR86やBRZファンの中に、スーパー耐久の面白さを知ってほしいと切に願う。

(文/写真 GAZOO編集部 岡本  写真:折原弘之