【スーパー耐久第6戦岡山】S耐TVがリアルタイム手話実況を実施! トヨタ・モビリティ基金のコンテストの一環で
10月15日、スーパー耐久第6戦岡山の予選日に、S耐TV(エスタイテレビ)の特別実況放送が行われました。その中ではなんと、いつもの福山英朗さん、数野祐子さんの実況に合わせて、モータースポーツでは日本初というリアルタイムの手話実況への挑戦が行われました。
この挑戦が行われたきっかけは、トヨタ・モビリティ基金が公募を行っていた「もっといいモビリティ社会」の実現に向けたアイデアコンテスト「Make a Move PROJECT」。
この「Make a Move PROJECT」の中の一つに「Mobility for ALL ~ 移動の可能性を全ての人に」という部門があり、「障害の有無などにかかわらず誰もがモータースポーツ観戦を楽しむことができる」というテーマでアイデアが公募されました。
100以上のアイデアが集まった中、一次選考を通過した17チームのプロジェクトの一つに、岡山放送が提案した「情報のバリアフリー化に向けたモータースポーツの手話放送」があり、今回その実証実験として初の試みが実現しました。
想像以上にレースの臨場感が届けられたリアルタイム手話実況
手話実況を担当したのは、早瀨憲太郎さん。早瀨さんは『NHKみんなの手話』やろう学校の講師、また、ろう者をテーマとした映画の脚本や監督といった多彩な経歴を持つとともに、自転車競技選手としてデフリンピック(4年に一度開催される聴覚障害者のための国際競技大会)の日本代表にも選ばれるトップアスリートでもあります。
そんな早瀬さんは、岡山国際サーキット他、スーパー耐久が開催されるサーキットを自転車競技で走ったことがあったり、モータースポーツもとても身近に感じているそうです。
実際の放送の中でも、手話の高い技術は言うまでもありませんが、福山さんのコースの解説に合わせ、手振りだけではなく身振りや表情などを駆使した感情豊かな手話解説からは、アスリートならではの感情の抑揚感が感じられ、手話が分からなくてもコースの雰囲気がより臨場感を持って伝わってきました。
そして、実際に予選も佳境に迫ってくると、さらに大きな身振り、手振り、表情すべてで予選アタックの一喜一憂を伝えてくれ、手話が分からなくてもよりレースの興奮感が増していきました。
早瀨憲太郎さんは身振り手振りだけでなく、表情まで使って臨場感たっぷりにリアルタイムに実況してくれました
この初めての挑戦を終え、早瀨さんは興奮気味にその感想を語ってくれました。
「耳が聞こえない人たちにとって、モータースポーツの楽しみ方は、実況とか解説を聞くことができないので映像を見るだけなんです。本当は、選手のこととかスポーツのルールなどをリアルタイムでもっと知りたいと思うんですが難しいんですよね。
このお話をいただいたときに、手話実況を付けるのは日本で初めてということですごく興奮しましたし、実際に自分がやった手話実況を早く見たいですね!
今回たくさんの方の力を合わせて成功できたと思っていますが、一回で終わらせるのではなく、さらにこれをきっかけにサッカーだとか野球だとかいろいろなスポーツに手話の実況が付いたらうれしいですね」
「情報のバリアフリー化」がもたらす相乗効果に期待
今回初めての試みな手話実況ですが、まるで初めてではないような素晴らしいコンビネーションを見せてくれた福山さん、数野さんにもお話を伺いました。
福山さんは、情報を伝えるということに対して、新たな可能性とやるべきことが見つかったようです。
「情報のバリアフリーという言葉をいただいて、『ああ、情報ってみんなにイコールで伝わってなかったんだな』と改めて思いました。今回本当にいい経験をさせてもらいましたし、新たな可能性というかまだまだやるべきことがあるんだなということを実感しました。
当初手話が追い付かないといけないので、ゆっくりしゃべろうという話になっていましたが、早瀨さんがもっと早くていいもっと早くていいと言うので、85%くらいのスピードでしゃべっていましたが、逆に時々追い越されていました(笑)。僕がしゃべり終わるより早く終わるのは、アスリートの方なので僕の言いたいことが分かるからなんでしょうね!
今回は早瀨さんのおかげで素晴らしいものができたと思います」
いっぽう数野さんは、早瀨さんの表現力から視覚で伝えることに大きな学びがあったようです。
「早瀨さんの手話実況は、勢いとか、表情とか目力とかが素晴らしくて、それはアスリートだからこそドライバーの気持ちも分かってのことなんじゃないかと思いました。本当に臨場感高くモータースポーツを伝えてくださったなと思います。
手話の強弱でモータースポーツの臨場感とか迫力を伝えるのは、本当は難しいんじゃないかなと思っていたんです。でもむしろ早瀬さんを見ていたら戦況が分かるくらい、表情豊かに伝えてくださっていたので、いつもスーパー耐久を観てくださっている方はもちろん、初めて見た方にもより伝わったんじゃないかなと思いました。すごいやっていて楽しかったです。
だってあれ見ました!? S字とかダブルヘアピンでクルマが躍動している感じを体全体を揺らしながら表現してくださると、こっちもグッと見入ってしまったというか、こういう表現の仕方があるんだとすごく学ぶものがありましたし、視覚から伝わる表現のすごさを改めて教えてもらえた気がします」
そして、スーパー耐久機構の桑山晴美事務局長からも今回の挑戦に対し、「素晴らしい実証実験に『S耐TV』がご一緒できてとても光栄です。情報のバリアフリー化に向けて、私共も様々な気づきをいただくことができました。このような貴重な機会をいただき、大変感謝しております」とコメントをいただきました。
一つのレースとしては他のカテゴリーでは考えられないさまざまな想い、目標を持ったドライバーやチームが混ざりあっているスーパー耐久。そこにST-Qクラスができたことで、「モータースポーツが社会に役立つための実証実験」が行われるようになりました。
これからもモータースポーツを通じた新しい試みがスーパー耐久で試され、鍛えられ、それらが世の中に実装されていくことでしょう。そして、レースを楽しむだけではなくそんなワクワクする未来を共に見届ける、そんなスーパー耐久の楽しみ方も乙かもしれませんね。
また、この他の「Mobility for ALL」のアイデアの多くが、岡山国際サーキットのグランドスタンドやイベント広場で実験や展示もされました。
同じテーマに対して、アプローチの多様さに驚かせられるとともに、課題解決に向け「技術」と「真摯な想い」この両方が掛け合わされるからこそ生まれたアイデアたちがぜひとも社会実装され、モータースポーツにたくさんの楽しみ方を提供してくれることが、本当に楽しみです!
■Ashirase
視覚障がいの方の靴に装着し、振動で誘導するナビゲーションシステム「あしらせ」
■アーキネット
燃焼式トイレや水循環システムなどを導入したオフグリッド型トレーラーハウスを転用したバリアフリー・トイレ
■ePARA
障がいのある方がeスポーツを通じてコミュニティを形成し、レーサーになる挑戦を共有・応援しあう体験
■エヴィクサー
音響通信技術を活用した、光と同期して音が見える「光るTシャツ」
■AUTOCARE
メタバースを活用し、会場に潜むハンディを訪問前に探し出すことができるデバイス
■Cone・Xi/一般社団法人ソーシャルアクション機構
看護師不足の解消に向けた訪問看護師の移動支援の仕組みを活用した、障がいのある方の岡山国際サーキットへの無償移動支援サービス
■コンピュータサイエンス研究所
視覚障がいの方の歩行支援アプリ「Eye Navi」
■電通
走行データと中継映像からレースの実況音声をAIでリアルタイム生成し、視覚障がいのある方がレースを耳で楽しむ音声観戦体験
■日本数理研究所
人工自我により感情を持ったレーシングカーと人とがコミュニケーションする体験
■ピクシーダストテクノロジーズ
聴覚障がいの方などに、エンジン音を振動と光に変換して届けるデバイス
■Field of Vision Technologies Ltd(アイルランド)
視覚障がいのある方がレースの状況を触覚で感じ取れる没入型観戦体験デバイス
■Music:Not Impossible Inc. (アメリカ)
聴覚に関係なく誰もが一緒にモータースポーツの音や興奮を楽しめるデバイス
■LOOVIC
視空間認知障がいの方が五感を用いて移動が可能となるデバイス「LOOVIC」
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:GAZOO編集部)
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