スーパー耐久ルール解説Vol.3 レース車両のパーツや車体の規定、タイヤ、燃料、車検などを解説

  • スーパー耐久各クラスの車両

    (c)スーパー耐久機構

スーパー耐久シリーズに参戦する車両は、下記の通りおおまかに2つに大別される。

  • FIA GT3やGT4規定車両などのメーカーが販売しているレース車両
  • 市販車を改造して製作する車両

レース参戦車両は安全面を考慮され、また高価な部品を使用せず参戦経費を抑えるように、交換できる部品にもさまざまな制限がある。
また、車両は異なってもできるだけイコールコンディションに近い状態で、レース競技を楽しめるような工夫が凝らされているのだ。

目次
1.参加車両の種別
2.コントロールタイヤ
3.予選のタイヤ本数と決勝スタートタイヤ&マーキング
4.燃料規定
5.公式車両検査(車検)
6.競技ゼッケン番号
7.車両規定
最低車重
エンジン
シャシー
車体
燃料補給
STO認定空力部品(エアロパーツ)
STO特認部品規定
ハイブリッド車両
8.各認定車両の最低重量、ホイールサイズ一覧

参加車両の種別

スーパー耐久シリーズに参戦できる車両は、Vol.1で紹介したように、車両の規定や排気量、そして駆動方式により細かく9つのクラスに区分されている。

下記のクラスの車両は、各メーカーやメーカー関連企業が販売している。

  • ST-Xクラス FIA公認のGT3車両
  • ST-Zクラス RACB公認のGT4車両
  • ST-TCRクラス TCR規格車両

これらの車両は俗に”吊るし”と言われる買ってきたままの車両に、タイヤを装着し燃料を入れれば、すぐに走ることができる。
事前に性能調整が行われているため、車両の改造や指定部品以外への変更はできず、車両のセッティングがキモとなる。

市販車を改造したマシンで参戦するST-1~5クラスの車両の中にも、

  • ST-1クラスのKTM GT-X、BMW M2CS、アストンマーチン・バンテージAMR GT8R
  • ST-2クラスのトヨタGRヤリスRC
  • ST-3クラスの日産フェアレディZ NISMO RC

のようにメーカーが競技参戦用車両として設定・販売している車両もあるが、それらはスーパー耐久の認定を受けたものであれば、空力パーツや機能部品の交換は認められている。

そしてそれ以外の車両は、各チームが市販車をベースにレーシングカーに仕立てている。
つまり市販車を一度バラバラにしてアンダーコートを剥がし、車内に公認の取れたロールケージを張り巡らせ、安全燃料タンクを搭載し、エンジンもチューニングして載せ、安全で軽量な車両に仕立てなければならず、その準備と製作は相当の時間と経験、苦労を要する。

しかしそこはチームの腕の見せ所。自分たちが走らせたい車両でレースに出て楽しむ。これがスーパー耐久の醍醐味のひとつでもある。

コントロールタイヤ

スーパー耐久シリーズは2011年よりコントロールタイヤ制になっており、1つのタイヤメーカーがすべての車両にタイヤを供給。2021年からはハンコックのワンメイクとなった。
ドライ路面用のタイヤは溝のないスリックタイヤで、雨用の溝のついたウェットタイヤは、競技長により路面がウエットになったことが宣言されている時のみ使用可能となる
どちらもレース専用のため公道での使用はできない。

予選のタイヤ本数と決勝スタートタイヤ&マーキング

スーパー耐久の公式予選はA、Bドライバーのベストタイム合算で争われるが、使用できるタイヤは予選前の公式車両検査にて、技術委員によりマーキングが施された

  • Aドライバーが4本(黄色いマーキング)
  • Bドライバーが4本(空色のマーキング)

の計8本のみが使用可能。この8本のタイヤの中の4本で決勝レースをスタートしなければならない。

A、Bドライバーが同一4本のタイヤを使用する場合は、黄、空色両方が並列にマーキングされる。
黄・空色並列マーキングされたタイヤの使用チームが、予選タイヤに1本or複数の交換の必要性が生じた場合、公式予選終了後30分以内の申請によりその交換が認められる。ただし、公式予選のスターティンググリッドは失われる。(最後尾グリッドスタート、またはピットスタート)
決勝スタート用4本全てを交換する場合、決勝レースのスタートから3分間経過後にピットスタートを許される。

路面がウェットになりウェット宣言が出た場合は、他のタイヤでスタートすることができる。

またタイヤの裏組み(左右を逆に組み直す)は認められておらず、一時は一部クラスで認められていたタイヤウォーマーやヒーターなど人工加熱装置の使用は一切禁止となっている。

燃料規定

レースに使用できる燃料は、水素燃料やバイオフューエル燃料を使用するST-Qクラスを除き、各レースごとに発行される特別規則書に明記された燃料を使用しなければならない。

さらに指定された燃料から1銘柄のみが使用できるので、複数の燃料を混ぜて使用することはできない。
燃料に対しては、空気を除く気体、液体、固体を混入しての使用や冷却などは一切認められていない。

公式車両検査(車検)

レース前に行われる公式車両検査は、その車両がその大会に出場できるかどうかの判断をするために、公式予選の前に行われる。この公式車検を通過しないとレースに出走することはできない。
公式車検に合格した車両は、サーキットのパドックから持ち出すことはできない。

公式車検では、ウエイトハンデを含む車両重量の測定を行う。その際、燃料タンクは空の状態で受検すること。また、検査終了後にウエイトハンデは封印される。

公式車検に合格した後は、エンジンの交換は原則禁止。交換した場合は審査委員会によりハンデが課される。

予選後やレース終了後に無作為に選定された車両は、予選後や決勝レース後に車両検査を受けなければならない。無作為とはされているが、おおよその場合トップ3台が選ばれることが多い。

公式車両検査の際、車両を押す等の補助員を検査区域に同行させる場合は、参加ドライバー、マネージャー、及び指名登録されたメカニックで、5名以内でなければならない。

競技ゼッケン番号

公式車両検査から予選、決勝を通じて表示しなければならないゼッケンについても細かく指定されている。

競技番号

  • 前席ドアの左右両側面、及びフロントガラス(スポンサー、またはチーム帯から5cm、窓枠から5cmの間隔をあける)
  • 後方から確認できるリア部分の4ヵ所
  • フロントは20cm以上、サイドはタテの長さ25cm以上、リア部分の番号のタテの長さ13cm以上

ゼッケンベース

左右ドア部分には、STO指定のゼッケンベース(天地465mm×左右415mmの四角形)を、路面に対し並行に貼り付けなければならない。

クラス専用色

STOは、すべてのクラスに専用色を設け、次の通りの識別を行う。クラス別カラーは下記の通りで、ゼッケンベースに色表示がされる。

  • ST-X:黄色
  • ST-Z:空色
  • ST-TCR:桃色
  • ST-Q:灰色
  • ST-1:橙色
  • ST-2:紫色
  • ST-3:青色
  • ST-4:赤色
  • ST-5:緑色

クラス区分ステッカー

サイドウインドウ(後部)には、STOから提供される「クラス区分ステッカー(白色)」を貼付しなければならない。

車両規定

特に認められたものを除き、2座席以上を有する車両とする。
また、車両はFIAグループN、A(ただし、1992年までに公認されたスポーツ進化を除く)、JAF量産ツーリングカーとして公認されているか、JAF登録車両、またはSTOが認めた車両として登録されていなければならない。
マニュアルミッションを搭載するために、同一車種のオートマチック車両の車体を使用することが許され、当該車体を最小限の範囲で改造してもよい。

ここでは、主に市販車(レーシングパッケージ等を含む)を改造して参戦するST-1~5クラスの車両規定について解説していこう。
(※改造や交換についての詳細条件等はすべてをここに記載していない)

最低車重

最低車重が設けられており、各車両ごとに定めることによって性能の均衡化が図られている。

例えば、
ST-3クラスの車両では、レクサスRC350は1,420kgで、トヨタ・クラウンは1,400kg、フェアレディZ(Z34)は1,290kg
ST-5クラスの車両では、マツダ・デミオが900kg、マツダ・ロードスターが1,010kg、ホンダ・フィット(GK5)が970kgと、同じクラスでありながら100kg以上の差があることも。
各認定車両の最低重量、ホイールサイズ一覧へ(このページ下部に記載)

また、全クラス車両にて、クールスーツシステムを車両重量として搭載する競技車両は、システム、及び競技車両への取り付け状態を公式車両検査時に提示する。この場合、クールスーツシステムの使用循環水、冷却用氷塊は車両重量に含まれない。

エンジン

  • 排気量の変更は許されない
  • クーリングファン、ファンシュラウドの取り外し、変更は可
  • エアフィルターやエアフィルターボックスは変更可
  • オイルポンプはシム、スペーサーによる油圧の調整機構は変更可
  • オイルフィルターは自由(取付位置の大きな変更は許されない)
  • インジェクションシステムはオリジナルを保持しなくてはならないが、流入する空気の量に影響がなければ部品を市販品への交換することはできる
  • 燃料ポンプは電動への変更が可能。エンジン稼働中のみに作動すること
  • バルブスプリングは数と取り付け位置が同じであれば交換可
  • カムシャフトは基本車両に設定されている純正部品への変更は可
  • ピストンとコンロッドはバランス調整のみ可
  • ヘッドガスケットは変更可
  • オイルパンは基本的に外観変更は許さない
  • フライホイールは基本車両に設定されている純正部品への変更は可
  • 点火装置は、装着ブラケットを含み、改造が許される
  • ピットレーン制限速度を自動的かつ電気的に制御するリミッター機能を備えていなければならない
  • 吸入マニホールドは当初の部品と同一な純正部品に交換可
  • 排気マニホールドは保安基準適合部品としてSTOが許可した物への交換可
  • 触媒式排気ガス浄化装置を装着しなければならない
  • ウォーターラジエターは容量、キャップの圧力、ホース類の変更は許される(取付部の変更不可)
  • エンジンオイルクーラーの取り付けや変更は許される

シャシー

  • クラッチはSTO認定部品であれば交換可。カーボンの使用は禁止
  • トランスミッションは基本車両に設定されている純正部品への交換は可。シフトレバーはボルトオンでの変更、改造も可
  • リミテッドスリップデフ(LSD)はボルトオンでの取付のみ可
  • トランスミッションの空冷式オイルクーラー、電動オイルポンプは装着可。
  • ホイールは指定されたホイールサイズのみ使用可
    各認定車両の最低重量、ホイールサイズ一覧へ(このページ下部に記載)
  • ホイールの材質は、スチール製以外のものはアルミ合金製とし、JWL、またはJWL、及びVIAマークのあるものとする
  • ホイールのオフセットは自由。スペーサーは禁止。ホイールナットはホイールリムより10mm以上凹んでいること
  • ホイールにホイールナットを固定する固定器具「ホイールナット固定装置」の使用可
  • ストラットとショックアブソーバーは、取り付け位置と取り付け方法、作動原理を変えなければ自由。またASEA(オートスポーツ・アンド・スペシャル・イクイップメント・アソシエーション)基準の認定部品であれば、ピロボール式アッパーマウント部品の使用は認められる。スプリングも基本的には交換は自由
  • ストラットタワーバーは取り付けボルトのみを使用して取り付けることを条件に材質を含めて自由
  • スタビライザーは径の変更可。
  • ブレーキは、シュー、パッド、ホース、パイプの交換・変更が許される。ローターは外径、厚み、摺動面がメーカーラインオフ時と同一でASEA基準に適合したものに限り変更が認められる。
  • ステアリングホイールとボスは自由。パワーステアリングとの接続、取り外しは可能
  • ドライバーの救出を容易にするため、ステアリングホイールにはクイックリリースシステムか、チルトアップ機能(ステアリングホイールが90度以上の角度で上部に跳ねあげられる機能)を持たせなければならない
  • ペダルパッドは、安全性、操作性を向上させる目的で変更することは許される
  • ラバーマウント、及びブッシュ類は形状の変更がなければ金属以外のものに変更可

車体

  • 車体の外観や形状は当初のままを保持
  • 安全燃料タンク、及び漏出防止カップリングの取り付けによるボディへの最小限の付加、切除等は許される
  • アンダーカバーを取り外すことは許される
  • 車体パネルは基本車両の当初の材質と肉厚を含め同一でなければならない
  • 運転座席は交換可
  • 室内ミラーは交換自由。外部ミラーは両サイドに1個の取り付けが必要
  • フロントとサイドの窓ガラスは飛散防止のため無色透明なフィルムを貼ることができるが、運転席、助手席のドアウィンドウにはいかなるものの貼付できない
  • ドアは防音材を取り出すことは許されるが、ドアビームの取り外しは認められない。(ウィンドウの)電気式巻き上げ装置を手動式に取り換えることは許される
  • ガラス製のライトには無色透明のガラス飛散防止を実施しなければならない
  • ST-Xクラスの前照灯は黄色とする
  • 夜間走行時などに使用する補助前照灯は、4個まで取り付けが認められる
  • レインライトを装着すること。補助制動灯をレインライトとして使用することも可
  • 車体の補強は使用される材料が当初の形状に沿い、またそれと接触していなければならない
  • 身体障害者の運転に伴う特殊装置の装着は、事前に許可されたものであれば可
  • エアジャッキの使用は許可される
  • 最低地上高として、車両の前後、または左右 1つの側面のタイヤの空気が抜けた際にも、車両のいかなる部分も地表に接してはならない

燃料補給

  • 最新のJAF国内競技車両規則に基づく安全タンクを、下部の最低地上高100mm以上で搭載
  • 燃料搭載量は、クラスによって決められている。
    ST-1とST-Qクラスは90L
    ST-2とST-3クラスは85L
    ST-4クラスは80L
    ST-5クラスは45L
  • ST-5クラスに関しては1回の燃料補給量は20L以下であること
  • 燃料補給装置はJAF国内競技車両規則に従ったものでなければならない。

STO認定空力部品(エアロパーツ)

  • 空力部品とは下記の7種類を指す。公道走行の許される一般市販品とされ、単体が40万円(税別)以内に収まっていなければならない。また、STOが認定したエアロパーツのみ交換可能となる。
    1.フロントバンパースポイラー
    2.フロントリップスポイラー
    3.ボンネット
    4.左右サイドスカート
    5.リアバンパースポイラー
    6.リアスカート
    7.左右フロントフェンダー
  • バンパーがエアロパーツと一体式の場合は材質を含め変更が認められる
  • バンパーと一体式、または、フロントエアロパーツとセット販売のラジエターグリルは、材質を含め交換が認められる
  • ボンネットは空気整流を目的にルーバー等を取り付けたり材質の変更が認められている。(表面形状に沿って20mm、裏面形状に沿って50mm以内)
  • 保安基準適合品で外観形状の変わらない灯火類は交換可能
  • アンダーパネルは専用品以外の装着は禁止。前後ホイールアーチの前後端には平面パネルの使用可
  • 走行中に可動させることのできる如何なる空力部品も禁止
  • 外観形状は基準車両の全長±30mm、全幅±20mm以内の誤差は許される
  • オープンカーにハードトップを取り付ける場合は、基準車両の全高+40mm以内
  • フロントリップスポイラーは5箇所以上固定する必要があり、フロントバンパーから+20mm以内に収める
  • カナード形状の使用は禁止

STO特認部品規定

申請は年3回行う事ができ、第1戦の30日前、第3戦の30日前、第5戦の30日前までに、申請料の払い込みと申請を行う。
その際、カタログやホームページ等による販売価格と部品番号にて一般流通状況を証明するデータを添える必要がある。

認定された部品は、認定された年を含め5年間を有効期限とする。有効期限が切れた部品を使用する場合、再申請(新規扱いとなる)が必要となる。

ハイブリッド車両

今後、出場の可能性があるハイブリッド車両についても、排気量の換算が定められている。電気系統に関しては、当初から搭載されているエンジン、モーターを制御する電子機器は、当初の状態が保持されていなければならない。

各認定車両の最低重量、ホイールサイズ一覧

参加車両 型式 kg ホイールサイズ
ST-1
BMW Z4 Coupe E86 1,280 -
PORSCHE 911 Cup 991 1,280 280/660-18(10.5J -18)
320/710-18(12.0J -18)
LAMBORGHINI HURACAN
SUPER TROFEO
LP620 1,300 300/660-18(11.0 J -18)
320/710-18(12.0J -18)
LEXUS RC F USC10 1,450 300/660-18(10.5J -18)
TOYOTA SUPRA DB42 1,300
BMW M2 CS RACING 2U30 1,530 260/660-18(10.5J -18)
KTM X-BOW GTX 1,250 280/660-18(11.0 J -18)
320/710-18(12.5J -18)
ST-2
MITSUBISHI LANCER
EVOLUTION Ⅸ
CT9A 1,350 260/660-18(10.0J-18)
MITSUBISHI LANCER
EVOLUTION Ⅹ
CZ4A 1,350
MAZDA AXELA Diesel Turbo BM2FS 1,170
SUBARU WRX STI VAB 1,350
HONDA CIVIC TYPE R FK8 1,280
HONDA CIVIC HATCHBACK FK7 1,150
TOYOTA GR YARIS GXPA16 1,245
ST-3
NISSAN Fairlady Z Z34 1,290 260/660-18(10.0J-18)
NISSAN Fairlady Z Z33 1,290
LEXUS IS 350 GSE21 1,420
LEXUS RC 350 GSC10 1,420
TOYOTA MARK X GRX133 1,410
MAZDA RX-7 FD3S 1,160
TOYOTA CROWN ARS220 1,400
ST-4
TOYOTA 86 ZN6 1,100 235/620-17(9.0J-17)
TOYOTA Vitz GRMN Turbo NCP131 930
SUBARU BRZ DBA-ZC6 1,100
HONDA S2000 AP-1 1,190
HONDA INTEGRA TYPE-R DC5 1,020
HONDA CIVIC TYPE-R FD2 1,020
HONDA CIVIC TYPE-R EURO FN2 1,020
MAZDA ROADSTER ND-ERC 980
ST-5
MAZDA DEMIO DE5FS 900 190/570-15(7.0J-15)
MAZDA DEMIO DJLFS 900
MAZDA DEMIO Diesel Turbo DJ5FS 950
MAZDA ROADSTER ND5RC 1,010
TOYOTA Vitz NCP91 900
TOYOTA Vitz NCP131 900
HONDA FIT2 RS GE8 900
HONDA FIT3 RS GK5 970

(文:皆越和也 編集:GAZOO編集部 写真:スーパー耐久機構)

こちらもおすすめ!S耐記事新着

MORIZO on the Road