日本カー・オブ・ザ・イヤー2018 決定 …安東弘樹連載コラム
去る12月7日、日本カー・オブ・ザ・イヤーが選考委員の投票によって決まりました。
イノベーション部門賞が、HONDA・クラリティPHEV
エモーショナル部門賞が、BMW・X2
スモールカー部門賞が、ダイハツ・トコット
そしてカー・オブ・ザ・イヤーが、VOLVO・XC40の頭上に輝きました。
VOLVOは何と去年のXC60に続き2年連続の受賞で、輸入ブランドの連続受賞は史上初めての事です。VOLVOジャパンの木村社長は表彰式のスピーチで「2年連続受賞した事で色々と言われるとは思いますが…」と発言しましたが、それを聞いて私は何だか複雑な心境になりました。
何かを察しての言葉でしょうが、本来なら素直に喜んでも良い筈ですが、その様に言わなければならなかった背景は理解出来ます。昨年のXC60が受賞した時も、発表後のインターネット上のコメントは、かなり荒れていましたので、連続受賞した暁には更に荒れる事も予想してのコメントかもしれません。
今回の受賞が公表された後、ネット上の意見をいくつかのサイトで500件以上、読みましたが、その内容は、次の5種類程で、大体、分類出来るのではないでしょうか。
1:日本カー・オブ・ザ・イヤーなのに輸入車が選ばれるのはおかしい
2:多くの人が購入できない価格の、販売数も少ないクルマが受賞するのはおかしい
3:選考委員を接待漬けにして更に、お金をばらまいて票を得た
4:選考委員は輸入車びいき且つ素人ばかりで信用できない
5:もう、こんな賞に意味は無いので無くした方が良い
選考委員としては、まだ2年目で、しかも自動車ジャーナリストではない私が出来るだけ客観的に、それぞれの項目に対して私なりの解釈を記したいと思います。
1:日本カー・オブ・ザ・イヤーなのに輸入車が選ばれるのはおかしい
タイトルの名前「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の日本、というのは日本車のという意味ではなく日本で売られているクルマの、という意味ですので、この批判自体が当てはまりません。唯、日本車がイヤーカーに選ばれた時はインポート・カー・オブ・ザ・イヤーが選ばれるのは不公平という意見に関しては、私は個人的に同意します。
これは、まだ輸入車が少なかった時代の名残だと思いますので今後は変わってくるかもしれません。
ちなみに私は前回、SUZUKIのスイフトに最高点の10点、今回はカローラスポーツに10点を付けましたが、別に日本車・輸入車を意識した訳ではなく、たまたま「良いクルマ」と思ったのが、その2車だったからそうしたのであって、「日本」カー・オブ・ザ・イヤーだから輸入車を避けた訳ではありません。
2:多くの人が購入できない価格の、販売数も少ないクルマが受賞するのはおかしい
この意見は正直、興味深く読みました。実は前述のスピーチで木村社長はXC40が現在2,000台のバックオーダー(納車されていない契約数)を抱えていて、本国に増産及び日本への割り当てを増やす様に再三に渡り要求しているとおっしゃっていました。実際、読んだ意見の中には「路上で見た事もないクルマが受賞と言われてもピンとこない」というものが相当数、有りました。
事実、都内では、かなり見かける様になったのですが、これまでに納車された数は1,000台強という事ですので、地方では見かけないのは当然かもしれません。熊本在住の、ある方は「良いも悪いも、余りに馴染みが無いので、イヤーカーと言われても遠い世界の話という感覚で、へー、そういうクルマが最近出ていて賞を取ったんだー。としか思えない」とのコメントでした。その前後を読むと嫌味で書いたコメントとは思えない内容でしたので、これは本音でしょう。
確かに選考委員は東京、もしくはその近郊に住んでいる人が殆どです(私は現在、千葉市在住)。私も神奈川県横浜市で生まれ、スペインのマドリッドに2年、広島に1年半住んだ以外は殆ど首都圏に居を構えてきました。
私を含めた選考委員の殆どがVOLVO車をはじめ輸入車が“普通に”路上を走っている環境にいるのは確かで、多くの方の「ピンとこない」という言葉に返す言葉はありません。唯、日本の殆どの地域で馴染みが薄いクルマで、ある程度の価格であっても日本で売られている以上、評価しなくてはならない事を御理解頂くしかありません。
3:選考委員を接待漬けにして更に、お金をばらまいて票を得た
これは以前も書かせて頂きましたが、泊りがけの試乗会の時の宿泊代や食事代を「接待」と言われれば、そうかもしれませんが、これは各メーカー、インポーターが開催しているもので、あるメーカーに対してだけの忖度を喚起するものにはなり得ません。実際、今年、大きな試乗会を開催していたLEXUSやメルセデス・ベンツのクルマは10ベストにも選ばれていない事からも、それは御理解頂けると思います。
ちなみに「長い距離を長時間掛けて乗って貰わないと真価が分からない」、という類のクルマの場合に泊りがけの大規模な試乗会を催すメーカーやインポーターが多く、決して前述の2メーカーが潤沢な資金を持ち合わせているからではありません(笑)。一応、確認です!
それから少なくとも私が選考委員になった、ここ2年では、お金の話など、出た事もありませんし、その様なアプローチを受けた事もありません。クルマ好きとして人間として、これは皆さんに誓えます。
なぜ、見た事も無いのに、その様なコメントをネット上に書けるのか理解に苦しみます。コンプライアンスに厳しい昨今、その様な行為は個人にとっても、メーカーやインポーターにとっても命取りになりますので、これは本当に有り得ません。それこそ、バブル時代の頃等、過去の事は私には知り得ませんが。
4:選考委員は輸入車びいき且つ素人ばかりで信用できない
これも他の選考委員と話をする中で理由なく輸入車を贔屓にしている様な方は皆無と言って良いでしょう。唯、特にドイツメーカーは要所にコストを掛けられるのは確かで、販売価格的にもコスト管理を、よりシビアにしなければならない日本車が不利である事は間違いありません。
実際に日本メーカーのエンジニアが輸入車の細かい所を見て、溜息をつく時もあります。
「ここに、こんなコストの掛かる素材や部品を使っているのかー」「これなら高速で安定する訳だ」という具合です。
それから、私は実際、素人ですので、批判を受けても仕方がありませんが、他の選考委員は、現役、もしくは元レーシングドライバーや、メーカーの元開発ドライバー。更に実際にメーカーでクルマを作っていた元エンジニアの方等も多くいて、決して素人だけの集団ではありません。その他、多いのはクルマ雑誌の編集を経てジャーナリストになった方でしょうか。
それを知った上で「素人」とコメントしているのかどうか分かりませんが、これも正しく理解をして頂きたいと思います。それぞれ経験値が有る方ばかりです。唯、クルマの好き具合では私も負けません(笑)。選考委員の中でも人生に於いての運転総走行距離や渋滞も含めて、クルマの運転を長時間楽しめるランキングが有ったら、1、2位を争う自信は有ります!
5:もう、こんな賞に意味は無いので無くした方が良い
これは、私個人的には、完全に反論は出来ません。選考委員として自己矛盾になってしまいますが、現在もインターネットを使えば各クルマに関して実際に所有している方の感想や動画を観る事が出来ます。更にクルマが家電化していけば、専門家の意見等、聞く必要はなくなるかもしれません。例えば冷蔵庫に、専門家が選ぶ「冷蔵庫・オブ・ザ・イヤー」は必要無く、販売ランキングがあればユーザーには十分です。
唯、日本カー・オブ・ザ・イヤーの場合、ユーザーの皆さんへの指針という面も有りますが、実はメーカーやインポーターに対しての賞、という意味合いが大きいのです。普段、地道にクルマを作っているメーカーの方を専門家が「良いクルマを作って下さって有難うございます!」と称える賞でもあるのです。
ですから、売れているクルマと受賞車が違うのも、ある意味必然かもしれません。ネット上で、「販売上位のクルマを表彰すれば良い」との意見も多数ありますが、それでは、多くは売れないが情熱を持って良いクルマを作ったメーカーが報われない場合がある、という物です。
だからこそ価値は有るのに価格や用途等の理由から多くは売れていないクルマでも受賞する場合が有るのです(例えばMAZDAロードスター等)。そういう意味合いがあるからこそ「称えられる訳にはいきません」という事でSUZUKIとSUBARUが賞を辞退したのだと思います。
個人的にはクルマそのものを評価したかったので、2社には辞退しないで頂きたかったし、この2社のクルマが賞の対象になっていたら、状況はかなり変わって来たとは思いますが、VOLVO・XC40にその価値が無かったとは言いません。
今回、最高の10点を最も多く獲得したのはカローラスポーツでした。何と60人中、私も含め22人と、3分の1以上の選考委員がイヤーカーに選んだのです。しかし、カローラスポーツは0点の選考委員が少なくなかったのも事実で、対してXC40は1点も入れなかった選考委員が殆どいなかった事で結果、イヤーカーになりました。
これは実は前回XC60の時と同じ傾向で、「このクルマに点数を入れない」という判断をした選考委員が殆どいなかったという事です。事実、私もMAZDA・CX-8と並んで2番目の5点を付けました。去年もスウィフトが10点で、XC60には6点を付けた記憶が有ります。
すなわち、内容的に大きな欠点が見当たらないクルマで、クリーンなデザインも良く、無視は絶対に出来ない存在であったのだと思います。開票が終わった瞬間、カローラスポーツは残念、と思ったのと同時にXC40はイヤーカーに相応しいと納得している自分がいました。
皆さま、如何でしょうか?それでも釈然としない、という方もいらっしゃるかもしれませんが、私の見解を本音で書かせて頂きました。もし、来年度も選考委員をやらせて頂けるのであれば、真摯に愚直にクルマと向き合っていきたいと思います。
長文にお付き合い頂き、有難うございました。
安東 弘樹
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