「STOP! 我流ドライビングポジション 実証編 #3」ドライビングポジションは、車のボディータイプや走る場所で違うのか?
監修:三浦健光(レーシングドライバー/レクサス公認インストラクター)
第一回、第二回でヤリスクロスの正しいドライビングポジションの取り方について説明しました。クルマのカタチや走る場所、状況によってその違いはあるのでしょうか? 三浦さんと実証してみました。
ドライビングポジションは行く場所や道路によって違うの?
週末に山や海へドライブ。ゆったりと音楽を楽しみながら、いろいろおしゃべりをして……。なんていうのは、クルマを楽しむ特別な時間ですね。そんな時はリラックスして、ドライブを楽しみたいもの。
郊外の道路はクルマも少ないですし、高速走行するわけではありません。そんな中で、正しいドライビングポジションというのは、果たして必要なのでしょうか? できればリラックスした姿勢で運転したい、という気持ちもありますよね。
しかし三浦さんによると、ドライビングポジションに例外の時はないといいます。それはなぜなのでしょうか?
「道路では、予想外のことが起きやすいのです。突然、小動物が飛び出してくることもあります。そのような場合、反射的に避けようとしてします。ドライビングポジションが正しくなくても避けられる場合は多いかもしれません。しかし、山道の場合その先が崖であった場合を考えてみてください。正しいドライビングポジションであれば力が入りやすいので、その後の回避も安全に行える可能性が高くなります」
ステアリング操作時だけでなく、ブレーキ操作時も、想定外の時に、素早く、力強く踏むことができれば危険を回避できる場合はあります。
道路に人やクルマが少ないと油断をしやすくなります。そのリスクをできるだけ少なくするのが、正しいドライビングポジションの役割なのです。
たとえゆったり走るからといって、ドライビングポジションは変わりません。どんな危険があるのかは予測できず、とっさに対応できなければならないからです。
どんなクルマも正しいドライビングポジションの考え方は同じ
緊急回避やフルブレーキは、安全のためにどんなクルマにも必要なことです。だからミニバン、軽自動車、たとえ大型トラックであっても、正しいドライビングポジションは必要となるのです。
しかし、クルマといってもそのカタチ・サイズは様々。背の高い大きなクルマもあれば、軽自動車のように小さなクルマもあります。それらカタチ・サイズの違うクルマの正しいドライビングポジションはどのようなものなのでしょう?
三浦さん 「クルマによって座る高さや、ステアリングの角度などの違いはありますが、ドライビングポジションをセットする手順は変わりません。まずはシートにお尻をしっかりと押し込んで座ることから始めてください。そこからスライド、シートバックと調整して行きます。」
「車体のカタチ・サイズによって、運転席と前輪やエンジンとの近さが変わってくるために、座る姿勢は変わってきます。」
座る姿勢が変わるとは、どういうことでしょうか? 例えば、セダンがソファーに座るような感じだとすれば、ミニバンなどはダイニングのイスに座るような感じになってきます。軽自動車も、背の高いモデルではその傾向はさらに強くなってきます。だから座る姿勢が変わるのです。
鈴木さん(身長173cm)と城戸さん(身長150cm)にミニバン、軽自動車で自己流のドライビングポジションを取っておいてもらいました。その後に三浦さんに修正してもらい、比較してみました。
タントに城戸さん(左)、ノアに鈴木さん(右)と、それぞれ自己流で座ってもらいました。ステアリング上部に手が届きにくいこと、お尻を深く押し込んでの着座ができていないことがわかります
鈴木さんは普段、ミニバンを使うことが多いため、普段通りのリラックスした姿勢で座りました。軽自動車のタントはそれらのクルマに比べるとステアリングやインパネが近いため、さらにインパネから離れた、圧迫を感じない姿勢で座りました。
城戸さんはシートバックが少し寝た状態になり、ステアリングからちょっと遠い感じに座りました。
そして、2人とも三浦さんのアドバイスによって正しいドライビングポジションに修正。まずお尻をしっかりとシートに押し込んで、ブレーキペダルをしっかり踏んだ状態で、座面先端と太ももに隙間ができる程度の位置にスライドさせます。次にシートバックを調整していちばん上を持った時に肘が少し曲げるようにします。
ヤリスクロスはSUVとはいっても、フロントシート周りはヤリスのレイアウトを継承しています。床面は高いのですが、基本的なシートとステアリング、ペダルの位置関係は、普通のハッチバックやセダンとほぼ同じです。
対するノアは、室内高を高く取ってできるだけ空間を広く使う設計となっています。床面がある程度低いのに、天井が高くその分シートが高く設置されています。これが、先ほど説明したダイニングのイスのような座り方になる理由です。ブレーキペダルを少し上から踏み下ろす印象です。
ドライビングポジションのセット方法は、クルマのサイズ・カタチが違うので座る姿勢は違いますが、リスクをできるだけ回避するために、ドライビングポジションセットの仕方は同じであることがわかりました。
トヨタ「ノア」
ルーフが高くシートも高い位置に設定されています。フロアは低いのでペダルは垂直気味に踏み下ろす感じになりますが、ステアリング面は上を向いているのではなくドライバーに向いていますので、セダン的な腕の伸ばし方になります。
自己流(左)では、手を伸ばし気味が好みのようですが、これではステアリングを回した時に上の部分では肩や肩甲骨のあたりが浮く姿勢になります。修正後(右)はお尻を深く入れ、チートバックを起こして、ステアリングの上を持っても、肘に余裕がある姿勢となりました。
自己流(左)では、不慣れな大きな車なので前を見たい気持ちからシートバックを起こし座面も前にしていますが、座り方がわからずお尻が前に行っています。修正後(右)ではまずお尻を深く座り、チルトでステアリングを低く設定。視点はやや高めになり、ステアリングも上まで余裕を持って回せるようになりました。
ダイハツ「タント」
ノアよりさらにフロアが低いタントですが、フロントも短いためステアリング面はノアよりさらに上向きになります。そのためもあり、今回の中では最もダイニングのイスに座るような、上半身が直立して座る姿勢になります。
自己流(左)では、ステアリング面の向きがノアより上向きで上部はさらに遠くなるのですが、それをあまり意識せずに手を伸ばして持っています。修正後(右)では、お尻をしっかりと押し込み、シートバックを起こし肘が大きく曲がっています。よってステアリングの上を持ってもシートから肩、肩甲骨が離れないようになりました。この姿勢によって、座面高は変えていませんが、目の位置も高くなっています。
自己流(左)ではやはりお尻を押し込んでいないことと、シートバックが倒れ気味になので、やや寝た姿勢となっています。このままでは、ステアリングを操作する時に肩や肩甲骨が浮いてしまいます。修正後(右)では、お尻を深く腰掛け、シートをやや前にスライドして、肘に余裕のある形でステアリングを握ることができています。
正しいドライビングポジションって堅苦しい?
ここまで、危険を回避するために正しいドライビングポジションの話をしてきましたが、それってすごく堅苦しく緊張の連続のような気もしますね。常に両手でステアリングを握って、視線をぶらせないような。たとえば、アームレストとかドアの枠に肘をかけるような運転をしてはいけないのでしょうか? 三浦さんに聞いてみました。
「アームレストなども、クルマを開発する人たちが考えた便利な装備ですよね。それを使ってはいけない、ということはありません。重要なのは意識の問題です。同じ姿勢でも“だるいな”、と思いながら運転しているのは良くないと思います。そんな時は、一度車を停めてリフレッシュするべきでしょうね。
いつでも運転をする時は、危険があるかもしれないという意識を持っていて欲しいのです。その意識を持ちながら、アームレストや膝の上に腕を置いて、すぐにステアリングに手が戻せる状態にしているのであれば、問題はないと思います」
長距離の運転など疲れるものです。時には膝やアームレストに腕を置いて休めるのもリフレッシュになります。要は、何かがあった時にすぐにステアリングにすぐに手が戻せるようにしていてください。
ミニバンやハイト軽ではそんなに座面を高くしなくていい!? それってなぜ?
今回は2人ともシートの高さを調整しませんでした。その理由は、ミニバンやハイト軽などのクルマは、“視点が高くフロントも短いことから、視界は十分に良いため”です。
三浦さん
「私の考えとして、ドライビングポジションはむやみに高くするのではなく、必要な高さがあればいいと考えています。高すぎることの弊害もあると思うのです」とのこと。
それはどんなことなのでしょうか?
「ミニバンやハイト軽で視線が高くなりすぎると、想像以上に体が揺すられる感じになったりして、それが気になって素早い操作ができなくなってしまうことがあります。また、身長の低い人にとってはブレーキが踏みにくくなることがあります。そんなことを考えると、絶対に高い方がいいということではなく、十分な視界が確保できていれば、それ以上は高くしないでいいと思います」
城戸さんに、正しいドライビングポジションと、できるだけ高い座面位置の両方でミニバンのノアを運転してもらいました。コースとしては等間隔にパイロンをおいて、その間を縫って走るスラロームということをやってもらいます。
両方を運転してみた中での感想を伺うと、高すぎると体の傾きが大きくなり怖い印象が強かったとのこと。動画で確認しても操作は遅れがちになっていました。
同じ速度で走っていても、視線が高すぎると傾く量も大きくなりますので、それが怖さにつながったのでしょう。
過度に高いドライビングポジション(左)と通常のドライビングポジション(右)で、運転を体験してもらい、運転した印象を伺ってみました。
特に速くという指示は出さずに、次々とパイロンを縫って走るお願いをしました。着座位置が高すぎると、視線も高く傾き方も大きくなるために、車の動きに過敏になるようで、恐る恐るの運転となっていました。適切にやや下げると、普通通りの運転ができました。
この動きのポイントを感想とともに動画で見てみると…
ドライビングポジションは速い操作のために
今回はドライビングポジションが、車の大きさや走る場所に関係するのか? について検証してきました。車のサイズ、シートとフロアの位置関係などによって、ステアリングを持つ、あるいはペダルを踏む角度は違ってきます。それに併せて運転姿勢も変わってきますが、ドライビングポジションを取る時の考え方、腕とステアリングの関係、足とペダルの関係などはまったく変わらないことがわかりました。
どんな車であっても、どんなシーンであっても、危険を避けるためのフルブレーキや、緊急回避が必要となることはあります。そのためには、いつでも正しいドライビングポジションをとってください。
また、視点については、各操作系の操作しやすさとのバランスも必要で、逆にむやみに高くすることは無用な恐怖心を抱くことになるかもしれません。
次回の第四回では、ドライビングポジションの違いで車庫入れに違いは出るのか? 車を操るコツってなに? を考えていきたいと思います。ぜひご期待ください!
監修・アドバイザー三浦健光
NASCAR Euro Series・レーシングドライバー、レクサス公認インストラクター。BMW Driving Experience公認インストラクター、CORNES認定インストラクター など
全米含むNASCAR史上アジア人初の表彰台獲得など現役レーシングドライバーでありながら、自動車メーカーの多様なインストラクション業務を行う。そして、自動車マーケティング会社を経営する実業家でもある。
[ガズー編集部]
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