【世界の愛車紹介ドイツ編】ドイツ自動車史と友人の思いを継ぐDKW 1000S de Luxe
旧友が体調を崩し、運転操作に支障が出たために手塩にかけて長年愛した愛車を泣く泣く手放す事になったことをきっかけに、Mさんが譲り受けたクルマ。それがDKW 1000S de Luxe (1963年製)だ。
DKWは、1932年にアウディ/ホルヒ/ヴァンダラーと合併したアウトユニオン社のなかの、2ストロークエンジンを搭載する4輪車とオートバイのブランドとして確立したブランドだ。アウトユニオン社はそのロゴである「フォーシルバーリングス」を見てもわかるように、アウディの前身となるドイツの自動車連合会社だ。
オーナーのMさんは、若かりし日は旧車には全く興味はなかったそうだ。もっぱらスポーツカーや実用性のあるクルマにしか目が向かなったという。
「歳を取ったせいか、昔ながらのクルマにも興味が沸いてきた」と笑うMさん。50年以上前、街を颯爽と駆け抜けていたDKWの姿を思い起こすが、まだ若かった当時は非常に高価で手に入れる事は難しかったという。
「DKWはとても速くてカッコよく、ポルシェ356などと同様に当時の若者たちの誰もが憧れる存在だった」と語るMさん。
半世紀以上の時を経て手に入れたDKWは、当時から「DKWを買うならこの色だ」と願っていた白とワインレッドのツートンカラーだ。おしゃれな雰囲気がとても気に入っているそうだ。
「今のクルマのデザインはどれもハイテクなシステムが搭載されてデザインも洗練されているが、昔のクルマにはメーカーや車種ごとにそれぞれの個性が活きており、今もなお眩いオーラを放ち心を打つクルマ」だとMさんは力説する。
Mさんは、少年時代からモータースポーツの大ファンで、時間を見つけてはヨーロッパのあらゆるサーキットで色んなレースの観戦を重ねてきたという。結婚をして家庭を持ち、二人の幼い息子を授かってからもなお、家族とともにサーキットに足を運んできたそうだ。その影響からか、Mさんの長男は、小学生の頃からの夢であるレースエンジニアになることを実現し、現在はアウディスポーツのDTMのテクニカルディレクターを務める。
トップレースエンジニアの長男、そしてMさんの会社を継ぐ次男と一緒に、DKWのみならず多くのクルマやヒストリックバイクを親子でレストアしているそうだ。そんな時間は愉しいものだというMさん。
DKWの前オーナーである友人からは、車両を譲り受ける際にオリジナルのパーツを大きな木箱とともに譲ってもらったそうだ。セカンドオーナーであるMさんの手に渡った現在も完全オリジナルの状態を保っているという。パーツのストックはとても心強いという。
2ストローク3気筒998ccとコンパクトなエンジンは50psを発揮。非力にみえるが加速はスムーズで、アウトバーンでは時速140kmでコンスタントに走れるというから驚きだ。
シフトアップ時にクラッチを踏み、シフトダウンの際にはクラッチ操作は不要だ。複雑な運転テクニックはマニュアルシフトに慣れた人にも難しそうだが、Mさんは実に軽やかに運転してくれた。
ただ、暑い日にはエンストしやすく、シフトチェンジの際にはハンドブレーキも駆使するという。左手でステアリングを握り、右手でハンドブレーキとギアを操作し、右足はアクセル、左足はクラッチとブレーキテン……。両手両足をフル稼働する必要がある。しかし、Mさんは額に大粒の汗を流しながらの運転も何のその。 「これもDKWの愛しさのひとつですね」と満面の笑顔だ。
さすがに日常生活ではDKWは少々不便だということで、普段はV型10気筒エンジンを搭載するBMW M5ツーリングワゴンとX3で快適に過ごすというMさん。春や秋の気候の良い季節にこのDKWに乗って、田舎道を夫人とのんびりとドライブするのを楽しみにしているという。
かつては幼い息子の手を引いてレース観戦をしていたMさん。それが今では、その息子が情熱を捧げるDTM(ドイツツーリングカー選手権)のレースを観に行くようになった。時代やマシンが変わっても、まるで少年のように瞳を輝かせながらモータースポーツを愉しんでいるという。
孫の手を引いてサーキットへ訪れる日も、遠くないのかも知れない。
ライター:池ノ内みどり
ドイツ在住のモータースポーツジャーナリスト。DTMやFIAユーロF3、フォーミュラE、ニュルブルクリンクやスパ・フランコルシャンなど、ヨーロッパ各地の24時間レースといったメジャーレースはもちろん、VLN(ニュル耐久レース)や欧州内のGTシリーズも取材や撮影を行う。
撮影:ファビアン・キルヒバウアー
高校卒業後、ドイツ有名カメラマンのアシスタントを経て2006年より独立。現在ドイツ大手自動車メーカーをはじめ、自動車関連の撮影を中心に、ポートレートやドキュメンタリーの撮影も行う。
[ガズ―編集部]
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