オーナーを選んで嫁いできた、超希少な初代モデル、プリンス・スカイライン(ALSI-1型)

名車「スカイライン」は、日本の自動車史とともに歩み、現在も進化を続けている。思い描くモデルは違っても“最も思い入れのある1台”として、記憶に残っているファンも少なくないはずだ。

ここに、1台のクルマが佇んでいる。

プリンス・スカイライン。

日産と合併する前の富士精密工業(後のプリンス自動車工業)が生んだ「初代スカイライン(ALSI-1型)」である。1957年に誕生、ボディサイズは全長×全幅×全高:4280x1675x1535mm。排気量1484cc、搭載される直列4気筒GA30型エンジンは、クラス最高レベルの60馬力を発生した。さらに、従来のセダンとは一線を画し、足回りには国内初となるド・ディオン・アクスルが採用されるなど、当時最先端の「FRスポーツ」として、プリンス・スカイライン(以下、スカイライン)は歴史を歩みはじめた。

「ヘッドライトが4灯になったのは、スカイラインが国産車では初なんですよ」。

と、このスカイラインの男性オーナーは話す。オーナーが所有する個体は1961年式。他にもスカイラインスポーツ、いわゆるハコスカGT-R(KPGC10型)、ケンメリGT-R(KPGC110型)も所有している生粋の“スカイラインフリーク”である。オーナーの個体は、高速道路も走行できる抜群のコンディションを誇る。購入してから、オーナー自身で手を入れた部分はあるのだろうか?

「15年間ほど眠っていた個体だったので、エンジンのオーバーホールと全塗装を行いました。車体色は、ワイパーのモーターの後ろに残っていた色をサンプルに合わせているので、オリジナルとほぼ同じだと思いますよ。全塗装は、いつも知人の店で施工してもらっています。この方は本当に腕が良くて、我が家の他の愛車4台も同じ店で行っています。ちなみに、このスカイラインのレストアには、約8ヶ月かかっていますね」。

最高のコンディションを保つこの個体を一体、どのような経緯で手に入れたのだろうか?

「知り合いから『そんなにスカイラインを持っているなら、初代も持っていないと!』という強い勧めがありまして、それから見つけてきてくれたのがこのクルマでした。中古車市場を探してもなかなか見つかるクルマではないので、即決しましたね」。

まるで、クルマがオーナーを選んで嫁いできたようだ。初代スカイラインの個体数は非常にレアで、しかも現役ともなれば、その数もずいぶんと限られてくるだろう。こんなにもレアな個体が、伝手をたどってオーナーの手元に届く自体、奇跡に近いのかもしれない。今まで、同じクルマとすれ違う機会はあったのだろうか?
「この個体は、所有して13年ほどになりますが、博物館の展示車や不動となった個体を見た以外、他の初代スカイラインとすれ違ったことはありません。イベントで知り合ったあるオーナーさんが、色違いで2台所有していたり、あとは、とある自動車部品会社の社長さんが乗っているのを知っているくらいです。これまで、さまざまなミーティングに参加していますが、会場でもほとんど見かけません」。

初代スカイラインの優雅なデザインはひときわ目を惹く。高速道路を走行中、並走する他のクルマのドライバーから凝視されることも少なくないだそうだ。なぜ、スカイラインに惹かれているのか、その理由を伺った。

「もともと父親がクルマ好きで、車名は忘れてしまいましたが、ナッシュ(ナッシュ・モーターズ)や、初代セドリックに乗っていました。特に、セドリックはお気に入りで、4台も乗り継いでいました。その影響もあってか、私もサニーとブルーバードに乗り、7代目スカイライン(R31型) を手に入れたのがきっかけで、スカイラインを乗り継ぐようになりました」。

“人生観を変えた1台”も、スカイラインだったのだろうか?

「スカイラインS54Bです。20年ほど前に乗ったのですが、走りも音もすばらしかった!第1回日本グランプリではポルシェに敗退しましたが、当時、私もその勇姿をテレビで観ていました。あれからすいぶん経って実車にふれたわけですが、あらためて走りに衝撃を受けましたね」。

この初代スカイラインを所有してからは、心境の変化はあったのだろうか?

「正直、S54Bやハコスカなどに乗っていたため、性能的に感動した部分はそれほどないんです。この時代に製造されたクルマですので、ブレーキも効きが甘いですし…。ただ、外観は非常にかっこいいですよね」。

部品の供給状況は、実際どうなのだろうか?レアな存在のため、部品の調達も困難なのではないだろうかと気になるが…。

「もはや、純正部品は出ませんね(笑)。知人を通じて確保するとか、仲間同士の情報交換で調達するようにしています。普段はあまり乗らないので、そんなに故障はしないですね。このスカイラインを手に入れてから、まだきちんと洗車したことがないんじゃないかな。軽く拭いてワックスを掛けるくらいですよ。他にもクルマを所有しているので、順番に乗ってあげないといけませんし…」。

「順番に乗ってあげる」の言葉に、オーナーの愛情と優しさを感じる。こんなオーナーのもとで暮らしたいと、クルマが敏感に察知して嫁いでくるようだと感じずにはいられない。他にも、クルマの方からやってくるようなエピソードに、思い当たるものがあるのではと思い、伺ってみた。

「そういえば、ある人に以前『クルマの方からあなたに寄ってくるね』と言われたことがありました。このスカイラインもそうでしたし、もう1台所有しているハコスカGT-Rも、店へ出向くともうそこにあって、即決で即日納車したほどなんです」。

最後に、この初代スカイラインと今後どう過ごしていきたいかを伺ってみた。

「きっと私が生きているうちは乗り続けているんじゃないかと思います。売ってと言われても売らないですよ。手放したらもう二度と手に入らないクルマであることは確信していますから。いつか、私がこの世を去ったとき、大切に乗り継いでくれる人に託したいです。それまでは神経質にならず、おおらかに乗っていきたいとは思っていますね」。

余談だが、オーナーは普段使いとして、トヨタ クラウン マジェスタを3台も乗り継いできたという。3台目は13年間をともにし、最近手放したばかりなのだそうだ。

今回出会ったオーナーは、熱っぽく語るというより、思慮深く、こちらの問いに答えていただいた。印象的だったのは、言葉の端々や行動に、初代スカイラインや他に所有しているクルマたちに注がれる愛情の深さが伺えたことだ。語らずして醸し出された「クルマ愛」に感じ入ったインタビューだった。このスカイラインが、次の世代へと確実に受け継がれていく1 台であることは間違いないだろう。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]