2スト好きライダースカフェオーナーのマツダ・ポーター(KBAA33型)
今では軽トラックやライトバンにその役割が移行してしまい、見掛ける事がめっきり減った国産のピックアップトラック。しかしその独特のフォルムに惹かれる根強いファンも多い。今回の主役、マツダ・ポーターもその魅力でオーナーの心を掴んだ一台だ。
マツダ・ポーターは、B360の後継モデルとして1968年に東洋工業から発売された軽商用車。軽トラックとして20年以上発売されるロングセラーとなったポーターキャブの印象が強いけれど、ライトバンと、そしてこの2ドアのピックアップトラックという3種類が存在する。
野澤高明さんが所有するポーターはマイナーチェンジ後の1973年式で、シャンテにも搭載されていた水冷2ストローク2気筒の360cc『AA』エンジンを搭載している。今の自動車は4ストロークエンジンが主流だが、このポーターのように、1960年代から70年代の軽自動車には2ストロークエンジンのものが多く存在し、野澤さんもそれがこのポーターを気に入っている大きな理由のひとつとなっている。
というのも、野澤さんは埼玉県八潮市で『ライダースカフェはらっぱ』を営むマスター。2ストロークのバイクも大好きなのだ。
「このポーターを買ったのは今から20年くらい前です。以前ホンダのN360で通勤していた頃、毎朝すれ違っていたポーターにひと目ボレしたんです。それから20年ほど探し続け、諦めていたところにネットオークションで出品されていたのを見つけたんです。ちなみに出品者はマツダの本拠地広島の方でしたよ」と野澤さん。
ちょうど15年以上乗っていたミニクーパーを降りて、次の愛車を検討していたタイミングだったそうで、まさに渡りに船だったということだ。
購入したポーターはとても快調で、それから20年ほど経った今まで大きな故障もなく、キャンプやフリーマーケット、普段の買い物はもちろん、愛車モンキーを積載するなど日々活躍。そして珍しい車だけに、そのエピソードにも事欠かない。
「最初びっくりしたのが車検です。ガソリンスタンドに初車検に出したら、普通5万円くらいするじゃないですか。でも半分以上返金されて『これ税金かかんないんですよ』と言われた時はびっくりしました。
年式の古い軽貨物って重量税がかからないみたいです。当時は同時に10年以上アメ車も乗っていたんですけど、こっちは税金が上がるばかりなのに(苦笑)」
ちなみに車検は2年毎で、20年間欠かさず取り続けているそうだ。
「10年くらい前ですかね。横須賀でアメ車イベントがあった時にポーターで行ったら、たまたまエントリーできちゃったんです。手間もお金もかかっていそうなクルマが並ぶ中で、僕のポーターはノーマルのままだったんですけど、なんと準優勝!みんな知らないんですよね、ポーターを。だから新鮮に映ったみたいです(笑)」
他にもカーアクセサリーメーカーのトップページに写真が掲載されたり、たまたま遊びに行った旧車イベントで雑誌の中表紙に選ばれたり、テレビ番組の撮影オファーがきたりと、野澤さんの意図しないところで注目を浴びることも少なくないという。
これまでワーゲンやトランザム、オースチン、スカイラインRSなど、外車や日本車問わず縁あった様々なクルマを乗り継いできた野澤さんにとって、一番長く所有するこのポータートラックのいちばんの魅力が、今では街中で見かけない“2ストロークの自動車"という点。
「マフラーからの煙がすごいので『あれ、故障してるんじゃないの』と周りの人に心配されます(笑)。でもやっぱりこの音と匂いが好きなんです」とのこと。
外装は基本ノーマルだが、角目の純正シールドビームは暗すぎたため、社外の丸型のものに交換。愛嬌のある柔和なフェイスがお気に入りだ。
また、荷台をクールに覆っているトノカバーもワンオフ物で「キャンプなどに行くのに濡れないカバーが欲しいなと思って作ったんです」とのこと。
またバイク用ナンバープレートフレームを流用してお店の名前を入れたり、合わせホイールを自分で塗装してスポーティさを演出したりと、各部にこだわりが反映されている。
一方の内装は天井が剥がれてきたため近々張り替えを予定しているそうで、ちょうどこの日は業者さんとの打ち合わせも。
「純正を生かしたいのであまり派手にはしません。でも、どうせならシートまで一緒にコーディネイトしたいな」とイメージを膨らませていた。
エンジンルームは先日マツダに車検に出した際、燃料ポンプが壊れている事が判明したため社外のミツバ製に交換されているが、それ以外はほぼ純正のまま。他に新しい部品といえばホーンくらいだ。
気になる乗り心地はというと「ハンドルがすっごい近いんですよ。まるでレーシングカーに乗っているみたい。スーパーセブンより狭いかも(笑)。スピードは最高で70km/hくらいかな。当時は90km/h出ていたんですけど、だんだん出なくなって。
あと、高速道路に乗った時は坂道でスピードが落ちるんですよ。ポーターで走ることで、東名高速はすごいアップダウンがあるって知りました。そういう不便さも楽しいですね」
2サイクルらしいマフラーサウンドや非力さ、コクピットの狭さなどもすべてがポーターの魅力であり、野澤さんがそれを楽しんでいるのがよくわかる。
ちなみにマスターを慕う常連さんやライダーさんで日々賑わいをみせている『ライダースカフェはらっぱ』は、つい最近改装してこのポーターが映えるガレージが完成したばかり。
「今はこのクルマをカフェの仕事に使ったりはしていませんが、いつかはこれを使って移動販売とかできればいいな〜なんて考えています」
ポーターでの移動販売はきっと他にはないだろうし、野澤夫婦の人柄と合わせてきっと人気が出るに違いない。実現した際には、ぜひポーターの荷台から提供される美味しいコーヒーをいただきたいものだ。
エンジン音を動画でチェック!
(文: 西本尚恵 / 撮影: 土屋勇人)
[ガズー編集部]
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