20数年ぶりに手にした商用車のサニーバン(VB210型)を楽しく走れるクルマに
初代モデルが1966年に発売されて以降、2004年まで発売され続けた日産の元祖大衆車『サニー』。セダンやハードトップ、クーペやバンなど豊富なバリエーションで、レースから仕事の相棒までさまざまなシーンで活躍してきた。
今回ご紹介する神奈川県在住の井上徳広さん(44才)の愛車は、サニー3代目のB210型シリーズで、商用モデルのサニーバンながら走って楽しいライトチューンが施されているのが特徴だ。
北米市場への輸出を意識して作られたB210型は、先代B110型より一回り大型化されたボディとグラマラスな曲線的フォルムが特徴的なモデル。もともとはアメ車好きだったという井上さんがこのサニーバンに惹かれたのも、自然な流れだったと言えるだろう。
このサニーバンを購入したのは昨年の2月で、購入してからはまだ1年半ほどだが、サニーへの思い入れは強い。
「もともとクルマが好きで、工業高校の自動車科に入って外車の整備士として就職しました。その頃は特にアメ車が好きで、69年式くらいのカマロに憧れていたんですが、見積もりまで出して買おうとした時に親戚のおじさんに猛反対されてしまい…。しぶしぶ当時流行っていたセドリックやY31に乗っていたんですが、周りが乗り出したサニーを見て『いいな』と思って、1台目のサニーを買いました。それがハタチの時です」
当時買ったのはB310型サニーのセダンで、箱替えを含め3台乗り継ぐほど気に入っていたという。しかし結婚を機に金銭的な負担も大きくなり、自然に降りることになる。
それから20年以上は趣味を封印して仕事に打ち込んできた井上さんだったが、昨年、ついに再びサニーに乗る転機が訪れる。
「このクルマは中古車屋の社長をやっている友だちが持っていて、サニーバンはずっと欲しかったので気になっていたんですが、『お前が買わないんだったら来週に売りに出す』と言われたんです。子供も成人したし、自分の趣味がそろそろ欲しいな〜と思っていたところだったので、カミさんを説得して色々条件をつけた上、やっと許可をもらって手に入れることができました(笑)」
そうして手に入れたのがこの4ドアサニーバン(VB210型)のデラックス。1975年式の前期モデルだ。エンジンは前オーナーによってノーマルの1200ccから1500ccへと排気量アップ(構造等変更検査済み)されているいっぽうで、内外装は純正らしさがキレイに維持された状態だったという。
元来、楽しく走らせることが好きな井上さんは、早速 “乗って楽しい仕様”へと足まわりをメインにサニーバンを進化させていく。
「フロントはサニトラ用のフルタップ式車高調を『まつおか』というプロショップで加工してもらって装着しています。ブレーキはフロントをディクセルのスリットローター、リアをプロジェクトミュー製シューに交換しました。デフはホーシングごと純正よりちょっとでかくて強いサニトラ後期用に交換してクスコの2ウェイL.S.D.を組み込み、ミッションも従来の4速から310型を流用した5速に載せ換えています。ハコスカ用や130Zの足まわりを移植して強化するひとも多いんですけど、それをやると足まわりが重たくなっちゃうし、13インチホイールも履けなくなっちゃうので、今回はライトな仕様にしてみました」
と、何台も乗り継いでさまざまな仕様を経験してきたからこそのこだわりがうかがえる。
また1500cc仕様のエンジンには、ソレックスキャブレターや、ステンレスで作られたワンオフのエキマニとマフラーも装着されている。マフラーは存在感を主張しすぎない細い形状なのもポイントだ。
実際、取材時に助手席に乗せていただいたが、商用バンだという事実を忘れさせるほどの軽快な走りにワクワクさせられた。
外装は以前に一度純正色に全塗装されているそうで、とてもキレイな状態。井上さんが特に気に入っているのがメッキバンパーで「このデラックスっていうグレードは下から2番目なんですが、メッキバンパーが付いているんですよ。昔乗っていた上級グレードの310型にはごっついバンパーが付いていたんですが、わざわざこのメッキバンパーに変えてました(笑)。交換するために必要なバンパーステイを探しに、いろんなミーティングに行ったりもしていましたね」と当時の思い出を振り返る。また、白く塗られた13インチの鉄チンホイールも車体のカラーによく似合う。
一方の内装は極力純正を壊さないようにしつつも、走りに影響するシートやステアリングは社外品を愛用。最近の悩みは追加メーターだそうで「タコメーター以外も付けたいんですけど、わざとらしくなくキレイにつける方法を模索中です」とのこと。
現在、井上さんはP-Factoryというプロテクションフィルム施工を専門とするファクトリーを経営。透明のポリウレタン製フィルムで飛び石や鳥のフンなどからボディを保護するプロフェッショナルだ。しかしこのサニーバンにはこのフィルム加工が施工されていない。
その理由を伺うと「プロテクションフィルムを貼っちゃえば本当はすごいキレイになるんですけど、あんまりピカピカに維持するのもこのサニーバンについてはちょっと違うかなって」とのこと。これも井上さんなりのサニーバンに対するこだわりのひとつだろう。
「仕事は結構忙しくて辛いなと感じるときもあるんですけど、このサニーを所有して、気分転換に走ったりしていることで、自分の好きなことをやれているというありがたさを感じています。仕事への糧になるし、すごく気持ちの切り替えになりますね。荷物も積めるので仕事で活躍することもありますし。それに、比較的サニーの中でもマイナーな210型ですが、自分がこのクルマを買ったことで後輩やまわりのひとも210サニーを買い出したので、これからもっと楽しくなりそうです!」
そう嬉しそうに語る井上さん。今後このサニーバンでやってみたいことはサーキット走行だそうで、「そのために最近では旧車に人気な14インチの鍛造2ピースホイールも購入しました。ある程度走りが固まってきたんで、いずれはエンジンも新しく作りたいなと思ってます。これからも長く楽しみながら乗っていきたいですね」と、今後の展望も語ってくれた。
見た目はノーマルのサニーバン、しかし中身は走って楽しい唯一無二の井上スペシャルが、さらなる進化を遂げるのが楽しみだ。
エンジン音を動画でチェック!
(文: 西本尚恵 / 撮影: 土屋勇人)
[ガズー編集部]
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