20年の休眠期間も大切にメンテナンスし続けた、ワンオーナーの初代フェアレディZ
20年間ほど車検を取得せずに一時抹消して保管していたフェアレディZを、定年退職したことをキッカケに復活させたという宮代さん。その個体はボディに傷もなく、ダッシュボードのヒビ割れや内装の劣化も感じられないどころか革シートはピカピカしていて新品同様と呼べるくらいのコンディションだ。
それもそのはず、車庫保管をしていた20年という長い間も、宮代さんは怠ることなくメンテナンスを続けていたというのだ。その理由と、フェアレディZへの思いを伺った。
日産・フェアレディZの初代モデルS30型は、日本のみならず海外のクルマ好きからも愛されるクラシックカーとして、その人気は未だに留まることを知らない。
流麗なボディや洗練されたインテリアは当時から若者の憧れのクルマであり、最近発売された新型フェアレディZ(RZ34)にもヘッドライトやボンネットなどに初代モデルをリスペクトするデザインが採用されるほど、その存在感は絶大だ。
宮代さんの愛車は5速ミッションを搭載した1975年式のフェアレディZ 2by2 (GS30)で、ゴージャスな内外装が魅力の上級グレードZ-Lだ。
「このクルマは当時から若者の憧れでね。とんがったノーズがいかにもスポーツカーという感じがしてカッコいいなと思ったんです。あとは、まわりが誰も乗っていなかったから、絶対に乗ってやるぞ!という気持ちもありました」
宮代さんが24才の時に晴れて愛車として迎え入れたそうだが、「2シーターのクルマなんてダメだ」という家族の反対に加え、車両価格200万円弱のクルマを買うとなると、かなり苦労したと苦笑いした。
当時の初任給は2万円くらいが相場で、高校を卒業して6年後の宮代さんの給料は5万円くらいだったからだそうだ。
「僕はテレビを造る会社に勤めていたんですけど、お金を工面するために毎日残業をして、土日も出勤して、月に3回休みがあれば良い方という感じでした。とにかく働いていましたね」
その甲斐あって、当初の目標であった200万円は2年で貯まったという。そのお金を持ってすぐにディーラーに向かい、現金一括で購入したと記憶を辿るようにして答えてくれた。
友達の影響で鈴鹿サーキットで開催されるレースに参戦したり、ジムカーナにチャレンジするくらいのモータースポーツ好きで、ブルーバードSSSクーペ、Be-1、ギャランAMG、ランサーエボリューションIII、インプレッサWRX、S660などを乗り継ぐほどクルマ好きな宮代さんだけに、フェアレディZの実力はどれほどのものか!? と販売当初から気になっていたのだとか。
「高速道路や峠をよく走ったなぁ。速度が上がるとノーズと車体がグググと下がって、道路に張り付くような感じがするんですよ。だから、コーナーが怖くないんです。加えて、ステアリングを切れば思ったように曲がってくれるから爽快でしたね。重ステも走り出してしまえば何のそのです。面白かったし、買って大正解と思いました」
新婚旅行はこのフェアレディZで京都、鳥取、島根などを巡ったという。
そんなフェアレディZだが、外装はレーシングサービスワタナベのエイトスポークホイールを履かせていた所がお気に入りポイントだったという。
今でこそ純正でもアルミホイールが装着されているのは当たり前となっているが、昭和50年代に街中を走っているクルマの多くは鉄製ホイールで、宮代さんは太めのスポークが円の中心から伸びる“アルミ製のワタナベ”が、ちょっとした自慢だったのだとか。
「ハヤシレーシングも人気だったんですけど僕はワタナベ派でした。ステアリングも定番のダットサンコンペで、これがまたカッコよかったんですよ。でも今は全部純正に戻しているんです。イベントに行くようになって『純正を見たい』という人がいることが分かったから」
宮代さんの愛車は生産されてから50年近い年月が経っていることを感じさせないミントコンディションということもあり、『見せて欲しい』と声をかけられることが多いという。事実、取材中にも次から次へと写真を撮る人や、宮代さんに話しかける人が大勢いた。
なかには、ダッシュボードに置いていた“ハチトラ"で音楽をかけて欲しいという人もいたくらいだ。
「今の若い子は、これでどうやって音楽を聞くのか?って気になるみたいです(笑)。これ、昔は普通だったんですよ。みーんな、これをガチャっと差し込んで聞いていたんだから」
そう笑いながら話していた。試しにと聞かせていただくと、昭和を感じさせるノスタルジックな歌が流れてきた。どこか懐かしく気付けば耳を傾けてしまう。
そんなフェアレディZだが、一時抹消登録をしてナンバーを切ってしまった期間があるという。
その理由は、初年度登録から10年以上経過すると車検が2年間隔から1年間隔になってしまう改正があり、維持費を考えたときに致し方ないという結論に至ったためだと教えてくれた。
「その当時はクルマを3台所有していて、税金などをすべて払うとなるとキツイな…となったんです。それで平成3年から20年間ずっと車庫保管をしていました」
そんなフェアレディZに再び乗ろうと思ったのは、旧車ブームの影響もあってか街で古いクルマを見かけることが増え、若い頃を思い出すようになったからだという。そして、定年退職をしたことをキッカケに実行に踏み切ったのだそうだ。
長い間車庫に眠っていたクルマを再び動かすとなると、さまざまなメンテナンスや大掛かりなレストアが必要だというイメージを持っている人が多いだろうが、宮代さんの場合は「大きな修理はブレーキホースくらいでした。いずれまた絶対に乗ろうと思っていたから、書類や整備書を大事に保管して、車庫の中で色々やっていたからね」とのこと。
毎月欠かさず車庫の中でエンジンをかけて前後に動かし、ダッシュボードやシートの革部分、内張りは半年に1回ほどの頻度で保護ツヤ出し剤のアーマオールを塗り、ホイールやエンジンルーム内の見えない部分にもワックスをかけていたそうだ。
もちろん外装はタオルで丁寧に拭き掃除をしていたため、ホコリが積もるということは1度もなかったと優しい目で愛車を見つめていた。
「毎月動かしていても、やっぱりトラブルはありましたよ。いつものように鍵を回したら、エンジンがかからなくなってしまったことがあってね。バッテリーが上がったかな? と思って新しいのに付け換えても動かない。おかしいなと思ったら、どうやらガソリンが腐ってしまい、燃料配管通路や燃料フィルター、噴射弁も詰まっていたようです」
故障箇所を修理し、ガソリンは少しずつ入れるようにということを教訓として再び車庫に戻してからは、大きなトラブルはなかったという。
「僕は、クルマを磨くのも洗車するのも大好きなんです。自分のだけじゃなくて、頼まれれば人のクルマもやったりしますよ(笑)。変わってるね~なんて言われるけど、ピッカピカで乗った方が人もクルマも気分がいいじゃないですか。それこそ、新車くらいピッカピカがいいんですよ」
たしかに、やっていること自体は難しいことではないかもしれないが、なにがすごいかというと、それを20年間も続けたことだ。
いくら好きでも自分ならそれを続けられただろうか? きっと、多くの人が途中で匙を投げてしまうのではないかと思う。1ヶ月に1回メンテナンスをしていたとして1年に12回。20年で240回も車庫の中に眠るフェアレディZに愛情を注いできたことになる。
「このクルマが好きだから。大事にしたいというかね」と、照れ隠しをするためにわざと素っ気なく答えているように見えた。
現在72才の宮代さんが「80才まで乗りたい」という愛車は、劣化するどころか宮代さんの愛情によって販売当初よりもさらに輝きが増していくのではないかと感じた。
取材協力:ジャストマイテイストミーティング
(文:矢田部明子 / 撮影:平野 陽)
[GAZOO編集部]
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