一度手放した愛車を買い戻す!「奇跡の公認車」。1979年式スズキ・ジムニー (SJ10F型改)

スズキ・ジムニーというクルマは、そこに佇んでいるだけで趣がある。他のクルマでは得られない魅力が確かに感じられるのだ。武骨さと可愛らしさをあわせ持つルックス、ジムニー特有の乗り心地さえも味になる。先日、20年ぶりにフルモデルチェンジした新型が発売されたのも記憶に新しい。大人気のため、納車は1年待ちとか。ジムニーのシンプルな構造と普遍的なコンセプトは、世代を超えて愛されている。

今回は、1979年式のスズキ・ジムニー(以下、ジムニー)と暮らす47歳の男性オーナーを紹介したい。愛車のジムニーは「SJ10F型」。1976年から1981年まで生産されたモデルだ(「F」とは「幌屋根」を指す)。

ボディサイズは、全長×全幅×全高:3170×1395×1845mm。550ccの 水冷直列3気筒2サイクルエンジンを搭載。軽自動車規格の改正によりサイズアップ、排気量も550cc化されたモデルだ。2サイクル独特のサウンドは、今もなおファンが多い。

この個体の所有年数は25年、オドメーターは3万8000キロを刻む。イベントや休日を中心に乗っているため、実走行は25年間でわずか約1万キロほどだという。加えて、この個体は改造申請を行っており、正式には「SJ10F改」。つまり、公認車なのだ。

「後学のために公認を取っておきたくて、ショップに無理を言って依頼しました。車検を受けるにあたって、さまざまな苦労がありましたね。例えば、使用するパーツの強度計算書がデタラメで最初から計算することになったそうです。その結果、陸運局へ何度も足を運んだと聞きました」

一目でかなりのモディファイが施されているのがわかる。真っ赤なレカロシートが深緑のボディに映える。

「オフロードを楽しむ方向で手を入れています。リフトアップして、タイヤ・ホイール・ステアリング・シートを交換。足回りはショップオリジナル。マフラー・エキマニ・チャンバーは『フリーソロ』という、ジムニーの排気系チューニングパーツでは先駆者的なメーカーのものです。吹けの良さを実感しています。エンジン回りもオーバーホールしました。オーディオは一応動きますが、周囲の音が大きすぎて音楽は聞こえません(笑)」

ボディは当時のまま。聞けば、ガレージで大切に保管されているそうで、保たれた艶にオーナーが長年注いできた愛情を感じる。この個体との出会いは、どのようなものだったのか。

「あるとき、急にジムニーが欲しくなったんです。できれば2サイクルがいいと思いながら『SJ30』を探していたところ、偶然、信号待ちで目線を横にそらした先の修理工場に置いてあったこの『SJ10F』が視界に入りました。すぐさま交渉し、売ってもらえることになりました」

こうして念願のジムニーを手に入れたオーナー。オーナーが感じた「ジムニーのある生活」とは?

「いかにも『四駆だぞ』という感じがいいですよね。砂利道や悪路をガンガン行ける楽しさを知りました。納車当時は足回りがノーマルだったので、ストロークせず、どこか1ヶ所が浮くんですよね。その状態で止まって『浮いてる!』と喜んでみたりしました(笑)」

そんなオーナーの愛車遍歴を尋ねてみた。複数のクルマを同時所有している時期が多く、覚えているかぎりで紹介してもらった。

「日産・ブルーバード、日産・パルサーGTI-R、ホンダ・トゥディ、マツダ・クレフ、ポルシェ・914、トヨタ・ランドクルーザー60、トヨタ・クラウンロイヤルサルーンスーパーチャージャー、トヨタ・クラウン(15系)、トヨタ・マークⅡ、スズキ・ワゴンRを3台、スズキ・エブリイワゴン、スズキ・ジムニー(別の個体)などです。そしてバイクでホンダ・NS400R。ジムニーを手に入れたらメインのクルマも四駆にしたくなって、ランクル60を中古で買った時期もありましたね」

幅広いジャンルのクルマを乗り継いできたオーナー。数多く接してきた中で、人生観を変えたクルマはあるのだろうか。


「ポルシェ914でしょうか。スーパーカーが大好きでずっと憧れでした。914は購入当時、軽自動車1台分くらいの価格でしたが、私の中では今もスーパーカーなんです。『自分のスーパーカー』を手に入れたのをきっかけに、クルマ関係の友達も増えました」

カーライフにおいて「仲間が増える」ことは、大切な要素だと思う。縁が広がることでクルマの縁も呼ぶのではないだろうか。

さて、オーナーがこのジムニーで最も気に入っている点とは?

「幌を下ろしたときの、何ともいえない開放感でしょうか。オープンドライブは、オールシーズンで楽しめると思っています。冬でも厚着をして乗れば気持ちいいですよ。妻は、オープンにしたときは絶対乗ってくれないですけど(笑)」

オープンカーとしてのジムニーも、実に魅力的だ。雨が降りそうな時は土の匂いを感じられ、風や鳥のさえずりなどの自然の音に敏感になれる。普段は流れ去るだけの景色の一つひとつを肌で感じ、あらゆる感覚が研ぎ澄まされていくような心地よさがオープンドライブにはある。

実はオーナー、このジムニーを一度手放している。

「バイク熱が出たんです。さきほど愛車遍歴の中にホンダ・NS400Rというバイクがあったんですけど、それを買うためにジムニーを一度手放してしまいました」

ジムニーを手放してから5年の年月が経った頃、オーナーの奥様のクルマを買い換えるため、ジムニーを売却した店で新古車を購入することにしたのだとか。

「これから買おうとしている新古車がそこに置いてあったんですが、その後ろに手放したジムニーがいたんです。どうやら5年間ずっと買い手がつかなかったようです。その間に私の心境にも変化があり、仲間がジムニーを手に入れたことも影響して、ジムニー熱が再燃していました。さらにタイミング良く新古車が思っていたよりも値引きしてもらえることになったので、その差額でジムニーを買い戻すことを決めました。もちろん妻に許しを得ましたが、今も頭が上がらないです(笑)」

こんなことがあるのだ。もはやジムニーがずっと待っていたとしか思えない。戻ってきた心境は?

「懐かしかったですよ。もし、置いてあった個体が違うジムニーだったなら、買っていなかったかもしれません。やはりこの個体だから買い戻した気持ちは大きいですよね」

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「できるかぎり乗っていたいですよね。乗ってきたクルマの中でも所有歴がいちばん長いですし、売ってほしいと言われても売れないです。今のところ、一生モノという存在ですね」

今までさまざまなオーナーに話を伺ってきたが、一度手放した愛車を偶然買い戻すエピソードは、はじめてだ。自動運転技術が発表されて久しいが、クルマと人とのあたたかな関わりは、時代につれ薄れていくのかもしれない。平成というひとつの時代が終わる今だからこそ、こうしたクルマと人とのストーリーを閉じることなく、1話でも多く残していきたいと、あらためて強く思うのだった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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