エンジンルームから下まわりまで磨き上げられた程度極上のニーナナレビン
大衆車の代表格『トヨタ・カローラ』にオーバーフェンダーを装備し、セリカに搭載された2T-Gエンジンを積んで、1972 年に登場したのが初代カローラレビン(TE27型)。
コンパクトなボディにラリーやレースで活躍したパワーユニットという組み合わせのホットモデルは、共通シャシーを持つ兄弟車のスプリンタートレノとともに、当時の走り屋たちの羨望の的となった。
そんなレビンと4半世紀を共にし、極上のコンディションを保ち続けているのが、群馬県に住む尾池聡さん(58才)。
小学生の頃に母親が乗っていたホンダ・カブに興味を持ったのをキッカケに、兄や先輩の影響を受けながらバイクやクルマへの関心を深めていった少年にとって、TE27は当然のように憧れの存在となり、特に「普通っぽいのに速い」というギャップを持つレビンに惹かれていったという。
そして、中古車売買の仕事をしながら半年に1度くらいのサイクルで車を乗り換える生活を送っていたという尾池さんは、25才のときに仕事で訪れたお客さんの家の庭先で保管されていたTE37を発見。憧れのTE27ではなかったものの、生産期間わずか1年弱という希少なレビンを手に入れることに成功した。
乗り始めて1年ほどで子供が生まれるのと車検のタイミングが重なったことを機に手放すことになってしまったが、仲間と一緒に一晩でオールペンに挑戦したり、あちこちドライブに出かけたりとさまざまな思い出を残してくれたという。
「いま思えば、TE27以上に希少なTE37をあんなふうに扱っていたのは、すごくもったいなかったですね(笑)。でも、あのときレビンに乗っていなかったら、きっと今の自分はないでしょう」と振り返る。
それからしばらくはセダンなどを乗り継いでいたというが、1995年、34才のときに新たな出会いが巡ってくる。TE27トレノに乗っていた後輩がクルマを降りることになり、その愛車を引き取ることにしたのだ。
そしてその3ヶ月後、今度は「TE27レビンを手放す人がいるんだけれど、引き取らないか?」という話が舞い込んできた。
「こういうクルマに乗っていると自然にネットワークができて、そういう話が舞い込んでくるんですよね。トレノを手に入れたばかりだったので乗り換えるのにはさすがに迷いがありましたけど、昔から憧れだったオレンジ色の前期型で、程度も素晴らしかった。悩んだ末、トレノを手放してレビンを手に入れることにしました」
TE37に乗っていた頃からのさまざまな”縁”が繋がって、幼少期からの憧れだったクルマにようやくたどり着いた瞬間だった。
尾池さんのもとにやってきた1972年式の愛車は「イベントに行った時などにエンジンルームが汚いのがイヤで、16年前にフルレストアしました」ということで、内外装からエンジンルームに至るまで現在でもピカピカの状態を保っている。
手に入れたときはすでに一度オールペンされた状態だったものの、純正とは色合いが少し違っていたそうで「車内の一部に純正塗装の部分が残っていたので、その色に合わせて調色してもらいました」と、ボディカラーにもこだわり抜いたという。
そして特に「ぜひここを見て」と言われて覗き込み、驚いたのが下まわりの美しさだ。
「下まわりは定期的にワックスがけしています。ちなみに外装はレストア時にコーティング処理をしているので、汚れは拭き取るだけ。水をかけて洗車することはないですね。出かけた時に途中で雨が降ってきたら大騒ぎですよ(笑)。帰ってきてからエアブローで水気を飛ばして、隅々まで残らず吹き上げます」
エンジンは2T-Gに3Tクランクシャフトを組み込んだ1800cc仕様で、レーザー・エンジン用のシリンダーヘッドにウェーバー製キャブレターも装着されている。
「2T-Gといえば1750cc仕様や2000cc仕様が人気でしたが、街乗りのトルクアップとコストパフォーマンスを重視して1800cc仕様にしました。クランクシャフトとシリンダーヘッドを手に入れるためにA60系カリーナと後期型のTE71カローラを買ってきて、それ以外の部品をバラして売ったら、費用はほとんどプラスマイナスゼロでしたね」と、やりたいことに対しては手間ヒマを惜しまずに費用をやりくりするのが尾池さんのスタイルだ。
ちなみに、これだけ自由にクルマ趣味を満喫できる環境の作り方が気になるところだが、「昔から仕事の収入は全部家に入れて、クルマ遊びはバイトや副業の収入だけでやりくりしているんですよ。皿洗いからトラック運転手まで、いろんなことをやってきましたね〜。奥さんはクルマにまったく興味ないし、レビンには一度も乗ったことがないです」という。
そんな尾池さんの自宅敷地内には、趣味が詰まったガレージも建てられている。
「昔からTOSCOが好きでね。ホイールからグッズまでいろいろ集めたり、自分で作ったりしています。それを知っている甥っ子が壁掛けを作ってくれたこともあります。それくらい私のTOSCO好きは周りに浸透していますね(笑)」
モータースポーツ部品の開発販売を行っていたTOSCO(トヨタスポーツコーナー)は、TRDのルーツとなったブランドなだけに、当時憧れだったという人も少なくないはず。尾池さんもその1人というわけだ。
ガレージにはひと通りの工具なども揃っていて、自分で作業するのも楽しみのひとつ。例えばフロントガラスのTOSCOロゴは、他車種用の純正品を加工して簡単に脱着できるバイザー形状になっていて、これも尾池さんの自作アイテムだという。
旧車の維持にはパーツ収集が欠かせないので、ストック部品やお宝パーツも所狭しと保管されている。「レストアで取り外すときにダッシュボードが割れてしまったんですが、修理に出して張り替えをしてもらいました。今は別のものを装着してあるのですが、前期型用はこんなふうに真ん中の部分が凹んでいる形状で、今では希少なんですよ。いつ交換しようかなぁ」と嬉しそうに笑う表情は、まるで遠足を待つ少年のようだ。
インテリアも、カセットデッキにイコライザーなど、当時の雰囲気そのままに美しい状態をキープ。TOSCOのバケットシートなど希少なパーツも惜しげなく装着されている。
そんな尾池さんが、旧車に乗り続ける上で欠かせないというのが、同じ趣味を持った仲間たちの存在だ。現在は『レトロカークラブ トレジャーズ』の会長を務めていて、このガレージやイベントなどでワイワイ過ごす時間が楽しみのひとつになっている。
「このパーツはアイツが使いそうだなとか、あの部品は彼なら所有しているんじゃないか、みたいなやりとりは日常茶飯事です。しかもそのほとんどが物々交換で、お金のやり取りは滅多にないですね。イベントのガレージセールなどで誰かが欲しがっていた部品を見つけたら、すぐに電話で連絡して代わりに買って帰るなんてこともよくありますよ」というから、そのネットワークの強さと重要さは言わずもがなだ。
ちなみに、このレビンの前に乗っていたトレノも、幼い頃から一緒にバイクやクルマで遊んできたという親友が引き取って、今でも大事に乗っているという。その親友はなんと生年月日まで一緒だというから、ここにも尾池さんが持つ“縁”の強さを感じる。
そして、これだけ大切に所有しているレビンなだけに、今後が気になるところだが「セガレには断られてしまったので、クルマとバイクが好きな甥っ子に譲るつもりです。いつとは決めていませんけど、自分が乗れなくなったら、ですかね。やっぱりクルマは動いてないと可哀想ですから」と、その行方はすでに決まっているとのこと。
次の世代へとキーを引き継ぐその日まで、尾池さんは今日もガレージで愛車を磨き続ける。
エンジン音を動画でチェック!
(撮影:平野 陽)
[ガズー編集部]
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