34歳のオーナーの「アガリの1台」に選ばれた1985年式日産 スカイラインRS-Xターボ インタークーラー(DR30型)
これまでさまざまな仕事を通じて、1000人以上の愛車オーナーに取材をしてきた。この取材を続けていると、幼少期における原体験や当時の環境がオーナーのカーライフに影響を与えているケースが多いように感じる。
「父親がクルマのカタログや自動車関連の雑誌を収集していた」といったエピソードや、「物心ついた頃から家にミニカーがあった」など、強烈な原体験によって、生涯にわたってブレることのない“カーライフの基盤”が構築されるのかもしれない。
今回は、そんな男性オーナーのストーリーを紹介したい。オーナーは現在34歳。20代前半でアガリの1台(人生最後の愛車)と思えるような名車を購入し、すでに10年以上所有しているという。その愛車は、シリーズ6代目の日産スカイラインだ。
「このクルマは、1985年式の日産スカイラインRS-Xターボ インタークーラー(DR30型/以下、R30型 後期型/通称、鉄仮面)です。所有して12年半になります。メーターを交換していますが、走行距離は約18万キロ。私が手に入れてからの走行距離は約7万キロです」
1981年にデビューしたシリーズ6代目となるスカイラインは、アメリカの人気俳優のポール・ニューマンをCMに起用していたことから「ニューマン・スカイライン」と呼ばれて親しまれた。
1983年にマイナーチェンジが行われ、後期型となった。このモデルは大きく変更されたフロントデザインから「鉄仮面」とも呼ばれ、今でも多くのファンに愛されている。また、ドラマ「西部警察」のシリーズ「PARTⅡ」「PARTⅢ」では特別機動隊のマシン「RS軍団」として活躍し、当時の少年やクルマ好きを魅了した。
前述したが、オーナーの個体は通称「鉄仮面」の後期モデルだ。インタークーラーターボを搭載していたことから「ターボC」とも呼ばれた。ボディサイズは全長×全幅×全高:4620×1675×1360mm。駆動方式はFR。オーナーの所有する個体には「FJ20E-T型」と呼ばれる排気量1990cc、直列4気筒DOHCターボエンジンが搭載されている。インタークーラーが装着されたことで、最高出力は205馬力を誇った。
そんな「鉄仮面」と呼ばれるR30型に、オーナーはどこで出会ったのだろうか。まずは、オーナーの原体験となったエピソードから伺うことにしよう。
「私が4~6歳頃まで、伯父がR30型スカイラインの前期モデル(ターボモデル)を新車で購入し、所有していたんです。お盆や正月に家族で帰省するたびに見せてもらいました。乗せてもらったことはあまりなかったのですが、幼心に赤黒ツートンのボディカラーやR30型スカイラインのデザイン、そしてエンジン音に惹かれましたね」
まさに原体験ともいえるエピソードだが、子どもの頃から「将来、必ずR30型に乗るんだ!」と決めていたのだろうか?
「正直なところ、クルマが好きになるにつれてR32型・R33型のスカイラインGT-Rにも惹かれましたし、『頭文字D』の影響でハチロクも好きでした。スカイラインシリーズ7代目のR31型に乗ろうかと気持ちが揺らいだこともありましたね。
でも、R30型のことはずっと心にありました。当時は『西部警察』も頻繁に再放送されていたので、録画して繰り返し観ては、RS軍団の活躍にほれぼれしていたんです。そのうち、クルマの性能やメカニズムなどを勉強するようになり、エンジンのポテンシャルを深く知ったことで、自然と焦点が定まっていった感じです」
やがて18歳を迎えたオーナーは運転免許を取得。初めての愛車はスカイラインを選んだ。手に入れたのは4ドアのHR34型だった。
「R30型を手に入れようとしたのですが、両親に反対されました。当時は未成年でしたし、免許取り立てで旧車に乗るのはダメだと(笑)。そんなとき、中古車サイトから両親に『これなら』と勧められたR34型スカイラインの2リッターモデル、セダンのGTを手に入れたんです」
オーナーが18歳だった2008年は、R34型スカイラインの生産が終了して5年が経過頃だ。5年落ちであれば、当時まだまだ「現役車」と認識されていた時期だ。
「R34型のデザインを担当したのは、R30型のデザインも手掛けた西泉秀俊さんなんですよね。このHR34型で運転技術を学びながら、R30型を手に入れる準備を進めることにしました」
そしてついに、機が熟した。20歳を迎えてすでに社会人となっていたオーナーは、R30型を迎え入れることになった。就職後、毎月の給与やボーナスの大部分を貯金にまわすなど、コツコツと準備を進めてきたという。
「中古車サイトを眺めていたとき、専門店がレストアしたすばらしい個体を見つけたのですが、タッチの差で売約済みになってしまったんですよ。本当に欲しかったので、ダメ元でその専門店に電話をして『同じ仕様をもう 1台製作できないですか?』と、相談してみたんです。するとOKの返事をいただいて、うれしさと同時に驚きましたね。本当は前期型が欲しかったのですが、下取り予定の個体が後期型であること、また前期型の部品の調達が厳しいということで、前期型に比べて当時製造廃止部品が少なかった後期型を選びました」
レストアは、ベースの個体に複数の個体から部品を移植して行われたという。
「ボルトやナットを1本ずつサビ取りし、メッキを施したので本当に新車以上になりました。エンジンも、別の個体のオーバーホールしたエンジンを載せ、内装とシートも当時の状態の綺麗な個体から移植していただきました」
ベースとなった個体は石巻(宮城県)にあったという。東日本大震災が発生する約半年前の7月に、オーナーが購入した専門店に売却されていた。
「前オーナーさんのことは、ルーフバイザーのポケットに入っていた何かの会員証で知りました。 お宅は海沿いにあるとだけ聞いていましたので、ご無事であることを願っていました。もし、お会いできるなら『大切に乗っています』とお伝えしたいです」
東日本大震災の影響もあり、レストアは丸1年を要したという。塗装などの外装はもちろん、エンジンや駆動系なども徹底してリフレッシュされ、ついにオーナーのもとに届いた。R30型「鉄仮面」をお披露目したとき、周囲の反応はどうだったのだろうか?
「両親は最初、あまり良い反応ではなかったです(笑)。社会人とはいえ、当時はまだ20代前半でしたから。ただ、母親も若い頃、日産ブルーバードの6代目にあたる910型に乗っていたので、私の気持ちが“分からないでもない”のかもしれません。それと、このクルマを買うきっかけにもなった伯父に報告したら戸惑っていましたね。実際に乗っていた立場として、やはりトラブルも多かったので先行きを心配してくれました」
ついに自力でR30型スカイラインを手に入れたオーナー。喜びもひとしおだったにちがいない。ついに自身の愛車となったことではじめて気づいた点もあったと思うが、意外な発見もあったという。
「この時代のクルマにしては燃費が良いんです。高速道路で14km/Lくらいで、街乗でも10km/hは余裕で走ります。おそらく、当時は燃費が良いといわれていたのではないでしょうか」
20代から30代の現在にいたるまで、約12年間乗り続けてきたなかで、カーライフに変化はあったのだろうか。
「オーナーズクラブに入ったことで、さまざまな世代や職業のオーナーと知り合うことができました。私の所属する“PMC・S”は、日産がプリンス自動車だった頃から続く、歴史が長いクラブです。もともと日産車に乗っている方々が集まっていたんですが、モータースポーツをするなら車種は問わないということで、今はさまざまなメーカーのオーナーさんがメンバーになっています。クラブのメンバーで同じスカイラインに乗っている先輩方から、トラブル対処法なども学んでいます」
オーナーもR30型でサーキット走行を楽しんでいるのだろうか?
「はい、国内A級ライセンスも取得しました。きっかけは、R30型だけでサーキットを走るというイベントです。実際に走ってみると楽しくて、一緒に走る皆さんとの交流もありがたく、次第にもっと走りたいという気持ちになっていきました。エンジンに手を加えて、本当に安心して乗れるクルマを目指したいという気持ちになっていきましたね」
愛車のエンジンにも相当手を入れているという。詳しいモディファイを伺った。
「改造に強いこだわりはなく、普段も問題なく走れてサーキットもたまに走れればOKだったので、ショップにおまかせしました。ダイレクトイグニッション化したことで、とても乗りやすくなりましたね。スポーツ走行を想定し、冷却関連やクラッチ、ブレーキなども強化しています。モディファイはひとまず完成形として落ち着いていますが、イベントや走行会に行くと、参考にしたいと思う個体が多くて悩ましいですね(笑)」
乗りはじめて12年が経過した中で、故障や不具合の状況についても伺ってみた。
「納車から3~4年目で故障が出はじめました。エアコンはこれまで3回ガス漏れで効かなくなりましたし、パワステオイルが漏れてリビルド部品に交換したこともありました。エンジン自体はレストアしても、補機類は当時モノなので弱い部分はありますね。また、燃料を絞ってエンジンに送るモジュレーターが接触不良を起こし、基板の中にある部品が壊れてエンジンがまともに吹けなくなったというトラブルもありました。振り返ってみると、かなり修理を繰り返していますね」
レストアを含めてそれなりの出費を伴ったと思うが、これまで乗り換えようと考えたことはなかったのだろうか。しかし、オーナーはこう語る。
「そもそも、せっかくここまでレストアした愛車を手放してまで“次のクルマは何にしようか”という考えがありません(笑)。別のクルマを購入したところで、いちから知識を学び直さなくてはなりませんし。それに、R30型をきっかけに知り合った大切なクルマ仲間は、2度と作り直すことができないので…」
壊れたら、直す。オーナー自身にとっては自然なことなのかもしれないが、これを「本気」というのかもしれない。修理や不具合と付き合いつつ、カーライフをともにするオーナーとR30型。続いて、このクルマでもっとも気に入っている点・こだわっている点を尋ねた。
「こだわりというか、エンジンやエアロなどは同じオーナーさんの個体を参考にしながら、良い部分を取り入れていきました。そうした中で見えてきたものがこだわりとするならば、見た目はノーマルで、エンジンルームを見ると結構手が入っているという『見た目と相反するスタイル』である点でしょうか。もっとも気に入っている点といえば、子どもの頃から聞いているエンジン音です」
R30型を手に入れてから、オーナーのライフステージも大きく変化した。そしてさらに、人生をともに歩む大切なパートナーも得た。奥様とは、このクルマで一緒に出かける機会も多いという。そこで奥様へのメッセージを最後にお聞きした。
「普段からよく奥さんを乗せてドライブしています。彼女はクルマに興味があるわけでもないのに、文句ひとつ言わず、理解してくれて感謝しかありません。奥さんに出会う30歳まで、1人でドライブすることが多かったんです。“いつも一緒に乗ってくれてありがとう”と伝えたいですね」
理想のパートナーと理想の愛車、でも敢えて伺おう。R30型と今後どう接していきたいかを伺った。
「鉄仮面に乗り続けるため、健康でいたいですね。今後、子どもが生まれたら、このクルマを乗り継いでほしいという思いもあります。それと、R30型を通じて知り合った仲間とのご縁も大切にしたいです。最近は、私よりも若いオーナーさんも増えています。仲間内で部品も共有していて、部品や修理のことで相談をされるたびにどうにか力になりたいと思っています。メーカーさんには第2世代GT-Rのように、R30型のヘリテージパーツも生産してほしいですね」
カーライフにおいて、憧れが強すぎると手に入れた瞬間に気持ちが冷めてしまうことがある。また、理想と現実のギャップに直面し、トラブルをきっかけに冷めてしまうことも少なからずある。しかし、今回のオーナーからはそういった気配がまったく感じられなかった。憧れの「鉄仮面」を手に入れたことは、ゴールではなくスタートだったのだろう。それは幼少時の「原体験」が、ブレない軸を作っていたから……なのかもしれない。
無事に取材が終わり、現地解散となった。R30型スカイラインのエンジンに火が入る。エンジンの気筒数や型式を問わず、なぜスカイライン系のクルマは魅力的な音を発するのだろう。それはまさに「純内燃機関の鼓動」という表現がぴったりくるような澄んだ音色だ。
オーナー自身、「音」に想い入れがあることを象徴するかのように、中低音の音色が絶妙にブレンドされた排気音とともに走り去る「鉄仮面」を見送った。最後の方は目を閉じて音色を聴き入っていたように思う。「ぜったいに欲しい!!」と思うクルマがまた1台増えてしまったようだ。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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