同じクルマ6台目でたどり着いた“理想の1台”。2001年式ダイハツ ミゼットII ピックDタイプ(K100P型)とのカーライフ
「同じクルマを6台乗り継いできた」と聞けば、誰もが深い愛情や情熱を想像するのではないだろうか。
だが、今回紹介するオーナーの場合は少し違うようだ。熱狂やノスタルジーとは異なるが、「残しておきたい」と思わせる確かな理由がそこにある。
「このクルマは、2001年式のダイハツ ミゼットII ピック(K100P型/以下、ミゼットII)です。元は「Dタイプ」というベーシックなグレードですが、上級グレードの「カスタム」と呼ばれる仕様に仕上げています。6台目にしてやっと出会えた理想の個体です」
ダイハツ ミゼットIIは、1996年から2001年まで生産された1名~2名乗りの軽トラック(商用バン)だ。発売当初は1名乗りのMTモデルのみの設定で販売され、のちにATモデルや2名乗り仕様、後部を荷室としたカーゴバンタイプも追加された。
ボディタイプは大きく分けて「ピック(トラック)」と「カーゴ(箱バン)」の2タイプを設定。生産期間内には「前期」「中期」「後期」と仕様変更が行われており、設計変更や装備の追加が加えられている。そのため、細部を追っていくと驚くほど奥深さが味わえるというマニアックな魅力があるため、今も根強いファンが多い。
オーナーが所有する「ミゼットII ピック Dタイプ(最終型)」は、1999年のマイナーチェンジを経て登場したモデルだ。
フロントには保安基準の改正に合わせた大型バンパーが装着され、リヤは専用デザインのテールランプに変更。電子制御式のEF-SE型エンジン(EFI+DLI)へと進化し、始動性や燃費にも改善が加えられた。
ボディサイズは全長×全幅×全高:2895×1295×1650mm。駆動方式はFR。排気量659cc、水冷直列3気筒OHCエンジン「EF-SE型」の最高出力は33馬力を発揮する。
ミゼットIIの総生産台数は1万4399台とされており、そのうちピックが9407台、カーゴが4992台を占める。
オーナーが所有する「2001年6月登録のピック(後期型)」はピック全体の0.2%にあたる最終生産車36台のうちの1台という、極めて希少な個体だ。
ちなみに、ピックの前期型の生産台数は6575台、中期型が2325台、後期型になるとわずか507台のみとなる。いかにオーナーのミゼットIIがレアなクルマなのかがお分かりいただけるはずだ。
そんな希少なモデルを所有するオーナーに、まずはクルマ好きの原点から伺った。
「正直、きっかけはないんですよ。物心ついたときにはもうクルマ好きでした」
周囲の子どもたちが戦隊モノやゲームに夢中になるなかで、オーナーの興味はひたすらクルマに向かっていたようだ。
「小学校の授業で『好きなものを描きましょう』といわれたとき、まわりの子たちは電車やアニメのキャラを描いているんですが、自分だけはクルマ一択。私の父もクルマが好きなので、影響があったんだと思います。父はボディカラーにまで強くこだわっていた人でした。自分が色に対してこだわるのも、たぶんDNAなんでしょうね(笑)」
クルマ好きを自認するオーナーだが、これまでひとつのジャンルにとらわれることなく、スポーツカーからアメ車、キャンピングカーまで多彩なクルマを所有してきたという。そんなオーナーに「人生観を変えた1台」を伺ってみた。
「トヨタ セラですね。当時、家にあるクルマといえばセダンがあたりまえでしたし、そういうものなんだと認識していたなかで、突然、セラが現れた。あんなに丸っこくて、ドアの開き方も奇抜なクルマは衝撃的でしたね。いろんなクルマを経験したうえで“セラがいちばん好き”という気持ちは、今も変わらないんです」
セラが人生のときめきをくれる1台だとすれば、ミゼットIIはどんな魅力を持っているのだろうか。
「狭いし荷物も載らない、でもどこか憎めなくてかわいらしい。ある意味ペットみたいなクルマかもしれません。乗っていると自然と楽しくなってくるんです。子どもが喜んでくれたり、通りすがりの人が笑顔を向けてくれたりするクルマってそんなにないですし。後期になって総合的な安定感が大きな魅力ですね。エンジンは一発始動だし、ブレーキもタッチがしっかりしています」
普段は、お子さんの保育園の送迎で乗ることもあるそうだ。
「うちの子は『狭っ!』と笑いながら乗っていますし、振り向いてリアクションしてくれる子どもたちの反応に、なんともいえない幸せを感じます。大きくなった上の子も、前のミゼットIIに乗った記憶が今もしっかり残っていて『あれ狭すぎて笑えるやつね』というんですよ(笑)。先日もこのミゼットIIに乗ってくれました。たぶん家族にとってもいい思い出になっているんでしょうね」
クルマは道具であるいっぽうで、“感情のかたまり”でもある。ミゼットIIはそんな魅力を再認識させてくれるクルマかもしれない。
そんなオーナーが最初のミゼットIIに出会ったのは、今から10年ほど前のことだそうだ。といっても、当時はまだユニークなクルマという認識しかなかったという。
「若かったこともあって、スポーツカーに目がいっていた時期です。SNSで見かけても、不思議なクルマというくらいの印象でした。ある日突然“そういえば、ミゼットIIって安かったよな?”ということを思い出して、軽い気持ちで1台目を購入。エアコンもない1名乗りの前期型でした。寒いし暑いし、エンジン掛けるのも一苦労(笑)。キャブ車だから、冬場は何度もクランキングしてやっと始動することもありました。これは正直、毎日乗るには無理だなと」
しかし、そこからがはじまりだった。
「じゃあ、エアコン付きならどうなんだろうと 2台目のATカーゴを試してみたんです。すると、荷物が載って意外と便利。一度はMTにも乗ってみたいと 3台目にはMTのピックアップに。さらに、欲しいオプションが付いていたATピックアップを2台乗り継いで、6台目となる現在に至ります」
もはや実用性というより、どこまで違うのか試してみたいという好奇心がオーナーを駆り立てていたのかもしれない。
「2001年式の最終型を手に入れるとき、値段がネックであきらめそうになったんです。前期型の1名乗りモデルなどは、2025年時点でも中古市場は安価です。しかし後期型となると、希少性と人気の高さから、一気に7桁台に跳ね上がります。なので『後期=高い』が、自分の中では常識になっていました。5年近く探していましたが、なかなか条件の合う個体が出てこなかったんです」
そうした背景のなかで、オーナーの背中を押すことになったのは「25年ルール」の影響だったという。
「アメリカでは生産から25年以上経過したクルマが輸入可能となるため、2024年頃から後期型のミゼットIIが急速に流出しはじめたことを知ったんです。ただでさえ流通量が少ない後期型が、どんどん日本から姿を消していく……今しかないと、購入を決めました。条件としては、ボディカラーだけが希望と異なっていましたが、好みの色に塗り替えればいい話です。こうして、長年探し続けた理想に限りなく近い1台を迎えることができました」
これまで「ボディカラーにも強いこだわりがある」と語っていたオーナーが「塗れば済みますから」と、さらりといいきったあたりに本気度を感じた。クルマの理想像が見えているからこそ、迷いのない取捨選択ができるのだろう。
そんな姿勢は、モディファイにも表れている。この個体には、10年以上かけて集めてきた純正オプションパーツを、惜しみなく注ぎ込んでいるそうだ。
「手に入れた当初は、前オーナーがオーディオやスピーカー、社外ステアリングなどいろいろ取り付けていたんです。それらを取り外しながら20点以上の純正オプションを装着しています。
ストックしている部品は、前期型と後期型では仕様が異なるものも多く、コレクションと実用性を兼ね備えたモディファイとなっています。
ドラレコやETCなどの後付け装備は、できるだけ見えない場所に設置して、当時の雰囲気を大切にしています。外観上の変更点は、前期のオレンジからクリアタイプへと交換したフロントウインカーレンズのみ。中のバルブはアンバーのままなので、車検にも適合しています」
部品の調達で苦労している点は?
「日本ではすでに入手が難しくなっているパーツがあるので、海外のオークションサイトもまめにチェックしています。海外では再生産されたり、在庫を持っていたりするケースがあるんです。今すぐ使うわけではなくても、確保しておくべき部品は積極的にストックしています」
では今後、どんな部分にこだわっていきたいと考えているのか尋ねてみた。
「ミゼットIIは“カスタムの沼”が深いんです。6輪化・キャンピング仕様・トレーラー風…すごい人は本当にすごい。でも、自分は“見る専”でいいかなと(笑)。純正で整えられたスタイルが、自分としては気持ちがいいですね。
ミゼットIIの世界観を守りつつ、現代の使いやすさを加えるバランス感覚を大事に、自分の中の完成形を追求するスタイルでいきたいですね」
カスタムの世界は奥が深く、沼にハマればどこまでも行ける。自由な発想で楽しまれているミゼットIIだからこそ、あえて純正を尊重する判断にこだわりを感じる。
最後に、そんなミゼットIIと今後どう接していきたいかを伺った。
「必要な部品を確保して、運転できる間は自分で乗る。もし子どもが欲しいっていえば譲ってもいいし、本当に好きな人がいたら受け継いでもらってもいい。まずは、このコンディションを維持することが当面の目標です」
オーナーの愛車は、6台のミゼットIIを乗り継ぐなかでたどり着いた“完成形”に近い1台なのだろう。
今後、さらに状態の良い個体が現れれば、入れ替える可能性もあるという。しかし、それもまた「この車種とどう向き合っていくか」を見据えた選択になる。
もともとくたびれていたクルマが、オーナーのところに嫁いでくると美しく蘇る。その個体を受け継いだ次のオーナーも(価値を分かっているだけに)大切に乗る。現存数の全体のパイからすればわずかかもしれないが、それでも廃車になっていた(かもしれない)個体をオーナーが“レスキュー”していることは間違いない。
気持ちだけに突き動かされることなく、ほどよい距離感のなかで信頼して付き合う。それも、旧車・ネオクラシックカーと呼ばれる時代のクルマと長く付き合っていくための最適解といえるのではないだろうか。少なくとも、オーナーのところに嫁いで救われたクルマが存在することはたしかだ。
実はこの日、オーナーのところに嫁いできて「レスキューされた」もう1台のクルマを取材している。この模様は次回の記事でお届けする予定だ。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき / 取材協力:雪どうぶつ病院)
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