父から受け継ぎ親子で41年。人生をともに歩み続ける1983年式日産 スカイライン 2000ターボRS(DR30型)
クルマの好みや思い入れの度合いは人それぞれだ。1台のクルマからオーナー独自の価値観も生まれる。
今回の主人公は、35歳のオーナー。愛車は、生まれたときから一緒に育ってきた1台だ。
「このクルマは、1983年式の日産 スカイライン 2000ターボRS(DR30型/以下、スカイライン)です。私の父が所有していたクルマで、我が家に来て41年目です。今から12年前に私の愛車になりました。現在の走行距離は約20万キロ。父から譲り受けてからは約8万キロ走りました。今は大抵の整備は自分で行っています」
シリーズ6代目のスカイラインとして1981年に登場した「R30型」は、ポール・ニューマンをイメージキャラクターとして起用したことから「ニューマン・スカイライン」と呼ばれて親しまれた。
オーナーの愛車は、1983年2月に追加された「2000ターボRS」だ。ボディサイズは全長×全幅×全高:4620×1675×1360mm。駆動方式はFR。搭載される排気量1990cc、直列4気筒DOHCターボエンジンの「FJ20型」はターボチャージャーが装着され、最高出力は190馬力を誇る。トランスミッションは5速MTが採用されている。
マイナーチェンジ後にフロントマスクのデザインが変更された。グリルのないシャープな顔つきになり「鉄仮面」の愛称で人気となった。また、刑事ドラマ「西部警察」の劇用車としても広く知られ、今も熱狂的なファンが多い。
冒頭でもふれたが、このスカイラインはオーナーのお父様が21歳の頃に購入したそうだ。このクルマが好きになったきっかけをお聞きした。
「父がスカイラインを好きなことは知っていましたし、私もクルマやバイクが好きになりました。父が若い頃、ハコスカ(3代目/C10型スカイライン)でゼロヨン競技(ドラッグレース)もしていたという話を聞かされていたので、古いスカイラインに興味がありました。そんな中でR30、通称“鉄仮面”の存在も認識していたわけですが、身近な存在だったこともあり、子どもの頃の私、そしておそらく当時の父も“旧車”という意識はなかったんです」
何しろ、オーナーが生まれたときからそばにあったクルマだ。今でこそ“旧車”だが、現役だった時代を知る人、当時から今まで所有している人たちにとっては、「いつのまにか“旧車”という扱いになっていた」というのが率直な感想だろう。
お父様としては「いずれ息子に乗り継がせたい」という思いは当時からあったのだろうか。
「それが・・・正直いってそれほどではなかったと思います(笑)。あの頃は高値で売れないし『とりあえず置いておこうかな』くらいの気持ちだったのでしょう。クルマを頻繁に乗り替えていて、私とは違って古いものを一度買ったらそれをずっと使うとか、そういうタイプでもありませんでした」
思いのほか、愛車への接し方はあっさり(?)していたようだ。そんなスカイラインとの思い出を振り返っていただいた。
「小さい頃の私は車酔いしやすい子どもでした。遠足のバスはいつも酔っていましたし、新車独特の匂いも苦手でした。でも、スカイラインに乗ると不思議と酔わないんです。何が違うのかはよくわからないですが、時代によって接着剤やプラスチック、ゴムなど素材の違いで匂いも変わってくるのかもしれません。スカイラインの車内は少し脂っぽい匂いなんです」
経験がある人であれば想像できると思うが、車酔いは本当に辛い。何しろ、毎回「今回も酔ってしまうかもしれない・・・」と思いながらクルマに乗らなくてはならないのだ。幼少期のオーナーがスカイラインでは車酔いしなかったのがせめてもの救いだろう。一緒に暮らしてきたからこそのエピソードは他にもある。オーナーが中高生の頃、スカイラインは車検が切れていた時期があったという。
「このスカイラインは、父が1、2度復活させながら10年ほど寝かせていた時期がありました。私は中学生になった頃、このクルマを父から譲ってもらおうと決めていたんです。「ある日、スカイラインを保管しているガレージへ行ってみたときのことです。周辺の雑草から伸びた草のツルがガレージに入り込み、車体にまで巻き付いていて、慌てて解いたのも思い出です(笑)」
こうして社会人となり、当時、整備士としてディーラーに就職したオーナーはついにスカイラインを受け継いだ。いよいよ楽しいカーライフの幕開け…と思いきや、一筋縄ではいかなかったようだ。
「乗りはじめてまもなく、エンジンから異音が聞こえはじめました。最初はチェーンテンショナーやチェーンガイドを疑っていたんですが、どうも違うらしいのです。ある日、スカイラインのイベントに参加したときのことでした。若い頃はラリーをしていたと自称する年配の男性から『ウォーターポンプが原因だ』と指摘され、その場でウォーターポンプのベルトを外してエンジンをかけてみたら異音が止まったんです。当時は驚きました。
またあるときは、クラッチやエンジンマウントの純正品がなくて流用に苦労したこともあります。初めて経験するトラブルの連続でしたが、少しずつ経験を積んで対応できるようになっていきました。一晩中作業して、気づいたら明け方・・・ということもたびたびありましたね」
こうして試行錯誤を繰り返しながら愛車と向き合ってきたオーナー。そんな中でスカイラインに乗りはじめて感じたこと、変化したことを伺ってみた。
「現在はセカンドカーとして所有しているマツダ アクセラとの2台体制ですが、スカイラインと交互に乗っていて気づいたことがあります。アクセラはATで快適装備満載ですが、運転するとなぜか首から頭にかけての疲労感がありました。おそらく、アクセルを踏んで加速するまでのタイムラグや、ステアリングを切ったときに車体の動く範囲など『こう動いてほしい』『今ここで加速してほしい』という人間の感覚(期待)とクルマの動きのズレが、ストレスや疲労につながっているのではと推測しています。いっぽうでスカイラインは、例えば加速してくれないときはギアの選択と回転数が合っていないことがほとんどです。わかって対応できるのでストレスを感じません」
スカイラインの「クルマに人間が合わせる」乗りかたのほうが、オーナーに合っているということなのだろうか?
「優劣をつけるのではなく、設計思想そのものが、自分の求めている感覚と合わないだけなんだと。ずっと乗ってきたスカイラインが基準になっているだけなんですよね。そういう価値観を形成したという意味で、スカイラインは“人生観を変えたクルマ”といえるかもしれません。好きになる車種はスポーツカーやSUVなどのタイプではなく、その車種が自分の感覚に合っているかどうかで決めています」
良し悪しで比較するのではなく、あくまで「自分の中のクルマの立ち位置」を教えてくれた存在として、スカイラインの存在意義の大きさを実感しているのかもしれない。
では、このクルマでもっとも気に入っている点は?
「操作性というか、運転していて安心できるところがとにかく気に入っています。自然と肘を置けたり手が届いたりと、体をゆだねる位置にあるべきものがあるので、運転していて不自由を感じません。サイドブレーキの位置やシフトノブの位置も工夫されているので、手をのばすと自然に届きます。このような点も自分の感覚にすごく合っていると思います」
一見オリジナルを基本としているように見える愛車だが、所有12年を経てどのようにモディファイされてきたのだろうか。
「譲り受けた時点ではほとんど純正で、社外品のスポーツマフラーが交換してあるくらいでしたね。車高調を入れてサーキットにも行ったんですが、足回りの剛性がボディ剛性に勝ってしまっている気がしました。そこでボディ全体を補強しようと考えたんです。その頃、たまたま『湾岸ミッドナイト』を読む機会があって、ストーリーの中で高木優一が“ボディの逃し”や“凝縮”の話をしていました。それを見て固めるだけがボディじゃないな…と。強化ショックアブソーバーとローダウンサスペンションの組み合わせで十分なんじゃないかと思いました」
具体的な仕様については?
「KYB CLUBのSUPER SPECIAL FOR STREETとZOOMのダウンサスです。足回りも程よくしなやかで、ボディ剛性とのバランスもとれた気がします。マフラーはFUJITSUBOの Legalis Rに。エアクリーナーは、バイク時代にも使っていたK&Nです。つい最近、シートをRECAROのSR3に新調したのと、ステアリングをRS WatanabeのFalconに交換。遊び心としてGReddyの水中花シフトノブを取り付けています。水中花はどちらかといえばハコスカやケンメリに合うアイテムですが、イベントに行ったときたまたま見つけて“ハズし”のインテリアにいいなと思いまして」
モディファイのパーセンテージでいうと、完成度は?
「100%のうち、おそらく半分も満たしてないと思います。永遠に完成しないかもしれません。結局、何か加えても何かが壊れるというサイクルを繰り返すのではないでしょうか」
このスカイラインと今後どのように接していきたいと思っているのだろうか。率直な気持ちを伺った。
「基本的には、これまでと変わらず日常的に乗っていくと思います。特別扱いせず且つ愛着をもって接していきたいですね。もしこの先、自分が乗れなくなってしまったときは誰かに託すつもりです。走ってこそのクルマです。走らないまま置いて朽ちさせてしまうのだけは絶対に避けたいですね」
せっかくの機会だ。「オーナー兼主治医」だからこそ伺ってみたいことがある。今後、R30型スカイラインの購入を検討している方へのアドバイスをするとしたら、どんなことを伝えたいのだろうか。
「ボディは今の鉄と比べると腐食しやすくなっています。なかでもフレームが朽ちかけている個体はできるだけ避けたほうがいいでしょう。それから、モディファイしすぎた個体もショップでお手上げになる可能性があるのでおすすめしません。あとはやはり、自分の手でメンテナンスできるのが望ましいです。自分で脱着できる範囲なら、こまめに掃除だけでもしておけば維持が楽になると思います」
誰よりも(今となってはお父様よりも)このクルマのことを熟知しているからこその説得力がある。昭和という時代に造られたクルマに対する「憧れ」や「欲しい」という気持ちは大事だが、同時に「覚悟」が必要な段階にあるのかもしれない。では最後に、このクルマを購入したお父様に向けてメッセージを伺った。
「きっと声をわざわざ掛けなくてもこの記事を読んでくれると思います。良いクルマを残してくれてありがとうございます。そして、パワステとパワーウィンドウをつけないでくれてありがとうございます!でしょうか。その分、故障要因や部品点数が減るので、心配する箇所が減りますし(笑)」
今回のスカイラインもそうだが、年数が経過したクルマだけに、大切に乗りたいと思うオーナーは多いだろう。しかし、大切にするあまり、“腫れ物に触るように”接していてはやがて疲弊してしまう。そして「大切にする」真理の裏には、どこか「ブラックボックス」的な部分があるからではないだろうか。愛車のコンディションを把握していないからこそ、過剰に大切にしている可能性もあるように思う。走れば汚れるし、傷もつく。動かしても動かさなくても経年劣化は避けられない。それでいいと思える。クルマとして、機械として“至極あたりまえ” に接していればいいのだ。
オーナーであり、愛車の主治医となれることはカーライフとして理想的だろう。予算と時間が許す限り、徹底的に愛車と向き合うことができる。そして、自分好みにセッティングしていくことも可能だ。
オーナーの愛車(とコレクション。主治医でもあるオーナーにとって整備要領書は必須アイテムだろう)には『ミスタースカイライン」こと桜井眞一郎氏と、FJ20エンジンの設計を担当した村崎明氏のサインが記されている。「スカイラインファン」の枠を超え、このクルマの生みの親である開発陣への敬意を払いつつ、工業製品としてスカイラインというクルマを知ろうとする姿勢がひしひしと伝わってきた。
生まれたときから今日まで、一緒に暮らしてきたスカイラインとともに育まれた自分流のカーライフを、これからも深めていくのではと感じられた取材だった。
取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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