父親から愛娘へ。オーナーより年上のパートナー、平成元年式トヨタ・センチュリー
磨き上げられた漆黒のボディに、懐かしいフェンダーミラー。先代モデルのトヨタ・センチュリー。これほど重厚な雰囲気を放つクルマから思いもよらないキュートな若い女性が降りてきたら、誰もが目を疑ってしまうかもしれない。
しかし、このセンチュリーは紛れもなく彼女のクルマだ。
平成元年式のトヨタ・センチュリー。このクルマは元々、彼女の父親が新車で購入し、所有していた個体だった。彼女はクルマには興味がなかった。しかし、付き合って10年になるという彼氏が所有するスープラの存在が、クルマへの興味を持つきっかけとなった。実はこのスープラ、過去にGAZOOで紹介している個体でもある。このときにも彼女が同行してくれており、そこで父親から譲り受けたセンチュリーに乗っているという話を聞き、今回の取材が実現したというわけだ。そして今回も、スープラのオーナーである彼氏が取材に同行してくれた。
センチュリーは、1967年にトヨタの開祖である豊田佐吉の生誕1世紀を記念して発表された。以来、1997年にフルモデルチェンジが行われるまで30年もの間生産されてきた、トヨタが誇るフラッグシップモデルだ。今回のVG40型となるセンチュリーのボディサイズは、全長が5,120mm、全幅は1,890mm。1989年に発表された初代セルシオの全長が4,995mm、全幅は1,820mmであることからも、センチュリーの方が一回り大きいことが分かる。搭載される5V-EU型と呼ばれる4L V8OHVエンジンは、当時最新鋭の1UZ-FE型エンジンが搭載されたセルシオを比べても遜色ないほど静粛性に富んだものだ。余談だが、ガソリンタンクの容量も、センチュリーが95Lであるのに対し、初代セルシオは85Lである。同じ排気量のエンジンながら、こんなところにも違いがある。
オーナーである彼女は現在25才。平成元年式のセンチュリーの車齢は27才。つまり、クルマの方が「年上」だ。
彼氏が所有するスープラと同じモデルの購入を考えていたとき、狙っていた個体が売れてしまった。ショックを受けていたところに、父親が「俺のクルマに乗りな」と、所有していたセンチュリーを譲ってくれたのだという。彼女曰く「父親としては娘に乗って欲しいという思いもあったのではないか?」とのことだが、それでも愛娘同様に溺愛していたセンチュリーを譲ってくれたときはさすがに驚いたそうだ。彼女の名義となってからは、父親がこのセンチュリーのステアリングを握ったことはないという。父親曰く「もう娘のものだから」とのこと。父親なりの娘への気遣いなのかもしれない。
このセンチュリーは、彼女にとって家族同然の存在だ。父親と母親が結婚する以前、出逢った頃にはすでにセンチュリーを所有していたという。母親が成人式のときに撮った写真にもセンチュリーが写っていた。結婚して子どもが産まれ、現オーナーである彼女が幼少期のときには、このクルマで家族旅行へ出掛けている。まさに彼女の成長に寄り添ってきた、「単なるクルマ」を超えた特別な存在であることは間違いなさそうだ。
生産されてから27年、8万キロ近い距離を後にしたとは思えないほど、このセンチュリーのコンディションは素晴らしい。溺愛していた父親の意思を継ぎ、彼女自身が時間を掛けてていねいに洗車を行う。これまで機械洗車を行ったことなど1度もない。給油する際にガソリンスタンドで行う窓ガラスを拭くサービスでさえも丁重に断るほど徹底している。美しく磨き上げられた漆黒のボディは、板金工である彼氏が専用の工具で塗装表面を整えてくれた苦労の賜物だそうだ。
それにしても、このセンチュリーは昭和から平成に変わったあの頃のまま、時の流れが止まっているかのようである。電動で開閉するフロントとリアの三角窓の動きは現在でもスムーズだ。今ではタクシー以外ではすっかり見ることのなくなったシートカバーや、自動車電話、テレビモニター、冷蔵庫、ボディに据え付けられたアンテナ類など、いずれも純正品として設定されていた「当時モノ」だ。時代背景を感じさせるような、重厚かつ趣きある空間がそのままの雰囲気で残されていることに改めて驚かされる。分厚いシートも、革シートでは長く乗るにつれて傷みが目立つようになるからと、父親があえて布シートをチョイスしたそうだ。
センチュリーが彼女の名義となってから、唯一モディファイされた箇所がある。それはリアのトランクのキーホールカバーをスワロフスキーで装飾したことだ。これも、近づいて見なければ分からないほどさりげないモディファイだ。当時の取扱説明書もしっかりと保管してある。こういったアイテムが紛失せずに残っている点も、実質ワンオーナー車ならではといえるだろう。鳳凰が象られた重厚なキーにはいささかミスマッチなハート型のキーホルダーが、このクルマが女性オーナーであることを感じさせる数少ない識別ポイントかもしれない。
3姉妹の長女でもある彼女は、妹たちを駅や学校までこのセンチュリーで送迎することもあるという(さすがに周囲からは驚かれるようだ)。彼氏に内緒で運転免許を取得して、当時、通っていた学校までセンチュリーで乗り付けて驚かせたこともある。初心者でこれほど大柄なボディを運転するのは大変ではないかと想像するが、意外にもボディの見切りはいいという。往年のドライバーには懐かしいフェンダーミラーも、見やすくて気に入っている。
華やかな笑顔をたたえつつ「このセンチュリーのすべてが好きなんです」と語る彼女の表情から、心からこのセンチュリーを大切にしていることが伝わってきた。しかしそれは父親に喜んでもらうため、という気遣いのような類いではなく、彼女自身の意思のように感じられた。あくまでもオリジナルの状態を維持することを最優先とし「何も足さない。何も引かない」というスタンスも、彼女自ら、このクルマにとってベストと熟慮した末の結論だ。
あるとき、父親が「きれいに乗ってくれてありがとう」と言ってくれたそうだ。彼女も父親のことが大好きだという。愛情あふれる家族の一員として、この漆黒のセンチュリーはいつまでも大切に乗り継がれていくことだろう。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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