サンルーフと前期型にこだわって手に入れた奇跡のトヨタ・セリカXX(A60型)

トヨタ・セリカXXといえば、人気漫画「よろしくメカドック」で主人公の愛車だったことから、馴染み深い人が多いかもしれない。あるいは、シャープなデザインやスタイリングに惹かれ、カタログを収集したファンも多かったと思う。

今回紹介するのは、トヨタ・セリカXX 2000GTツインカム24(A60型、以下、セリカXX)のオーナーだ。話を伺った男性オーナーは39歳だという。彼が4歳の時に製造された、1983年式の個体である。セリカXXのボディサイズは、全長×全幅×全高:4660x1690x1320mm。「1G-GEU型」と呼ばれる、排気量1988cc 直列6気筒DOHCエンジンの最大出力は160馬力を誇る。

「セリカXX」の車名は、3代目のモデルチェンジの際に消滅し、北米仕様の車名だった「スープラ」に変更された。XXはスープラのルーツでもある。


さて、このセリカXXは1ヶ月前に納車されたばかり。ドアミラーから一見後期型に見えるが「ドアミラー仕様の前期型」となる。しかもサンルーフ付きという珍しい仕様で、走行距離もまだ6万5000キロしか走っていない。こうしたレアな個体は、あるところにはあるものだ。聞けば、この個体のオーナーは、セリカXXを3台所有し、うち1台は部品取り用だという。なぜ同じ車種を3台も所有しているのか、理由を尋ねてみた。

「前期型のスタイルは好きなのですが、サンルーフがないと妙に古っぽく見えてしまうので、ついこだわってしまうんです。1台目はサンルーフなしの個体でした。このときは『アガリの1台』のつもりで手に入れたものの、どうしても諦めきれずに探していたところ、前期型でルーフ付き、しかも青内装という条件が揃ったこの個体を見つけてしまい、即決しました。こうして、部品取り車を合わせて、セリカXXの3台体制となりました(笑)」。

オーナーによると、中古車市場で売られているセリカXXは、どれも保存前提とした個体が多いため、走行距離が少なく、コンディションも良好ということだ。中古車市場において、サンルーフ付きの個体は出回ってはいるものの、ほとんどが後期型だ。今回、オーナーが手に入れた前期型は、前オーナーの自宅倉庫で大切に保管されていた個体とのことだ。

話がひと区切りしたところで、ボンネットを開けてもらった。搭載される1G-GEU型エンジンは、ヤマハ発動機と共同で開発された名機だ。エンジンルームに目をやると、ストラットタワーバーが装着されたり、アーシングが施されるなど、まだ“前オーナーの色”が残っていることに気づく。

「ニッパチ(2800GT)も良かったんですが、この1G-GEU型が好きですね。クレスタ(GX71型)に乗っていたとき、このエンジンが気持ち良いことに気づきました。音や吹けがいいんです。そして何より、エンジンの置き方がカッコいいですよね」。

オーナーは現在、セリカXXの3台に加えて、トヨタ・ランドクルーザー、トヨタ・ソアラ(JZZ30型)のドリフト仕様、そしてマツダ・MPVを普段使いとして所有しているという。1台目のセリカXXとは、すでに7年を過ごしているそうだ。

意外にも、オーナーがクルマ好きになったのは、大人になってからだ。愛車遍歴はスポーツカーからミドルセダンまで幅広い。マツダ・RX-7(FC3S型)、トヨタ・クレスタ(GX71型)を2台、トヨタ・カムリ、三菱・ギャランと乗り継いでいる。彼がここまでセリカXXに惚れ込むきっかけは、何だったのだろうか。

「偶然、先輩がセリカXXに乗っていたのを見てからです。当時乗っていたクレスタと並べて写真撮影をしたとき、セリカXXのフォルムの虜になりました。直線的なデザインがいいですよね。車高を下げると低さが際立って、これがカッコいいんです。個人的には、スープラじゃなくてこっち!(セリカXX)という感じです」。

「それに、サンルーフを開けて走っているセダンやクーペってカッコいいイメージがあるんです。サンルーフはメーカーオプションですし、注文するときにしかオーダーできないという感覚も好きです。本来であれば、サンルーフを付けるために屋根を切ったり加工したりというのは、なるべくやりたくないんです」。

と話すオーナー。彼がサンルーフにこだわりを持つようになったきっかけは、米国のカスタム文化にあった。

「USDM(United States domestic marketの略称)好きが影響しているかもしれないですね。USDMにおいてサンルーフは必須装備です。ベース車にトヨタ・カムリ(XV20型/北米仕様)が多いのも、サンルーフが装備されているからです。日本では売れなかったですけど(笑)。サンルーフを開けて、車内に入ってくる空気の流れが変化していく様子を感じる時間が好きなんです。趣味でバイクにも乗るので、風の流れを自然と感じてしまうようですね。私がカムリに乗っていた頃は、やむを得ずサンルーフキットで屋根を加工して乗っていました」。

USDMとは本来、米国仕様に変更された輸出用の車体を指すが、ここではカスタムジャンルの呼称だ。米国で流通するカスタムパーツでドレスアップするスタイルといえる。オーナーは、本場のUSDMを感じようと、アメリカ本土で開催されているSEMA SHOWを見学するためにわざわざ渡米するほどの行動派だった。

「USDMの本場だけに、徹底的にカスタマイズしているなという印象を受けました。中でもピックアップトラックのカスタムが多かったです。そしてどのクルマも綺麗なんです!街中でも古いクルマが当然のようにたくさん走っていて、“時代感”がありません。最新型と並ぶ光景は本当におもしろいですね」。

街の風景や会場の熱気が、オーナーの話から見えてくるような気がした。しかし凄まじい行動力だ。思い立ったら日本を飛び出してしまうのだから。この後に伺った納車時のエピソードでも、オーナーの行動力に舌を巻くのだった。

「前のオーナーのところまで新幹線で向かい、このセリカXXを受け取り、そのまま東京まで自走してきました。その間、ほとんど休憩を取らず、ハイテンションのまま帰ってきてしまったんです(笑)」。

700キロを超える距離をほぼノンストップで走りきるほど、サンルーフ付きの前期型を手に入れた喜びは相当のものだったようだ。クルマが好きな人であれば、この気持ちに共感できるかもしれない。欲しかったクルマがついに自分のモノになった納車直後の高揚感と幸福感は、まさにレッドゾーン級だ。

このセリカXXは今後、どのように進化していくだろうか?めざす仕様を伺った。すると…、

「今後は純正に戻していきたいんです。今、少しだけ車高も下がっていますし、ホイールも社外品であり、エンジンルームも前のオーナーが手を入れたままの状態です。本当は車高をもっと下げたかったのですが、ホイールハウスのツメでさえ折る気にさえなれないほどキレイに乗りたいですね。部品は、他車種と共通していれば流用が効きますが、ゴム類やプラスチック類になるとほとんどありません。日本国内で純正部品を求めてしまうと見つかりにくくなるので、海外からの調達も考えています」。

話を伺っていて気がついた。セリカXXというクルマは、このオーナーを含めたファンに愛され、守られている“奇跡の”1台だった。中古市場に出回っている個体のコンディションがどれも良いこと、そして今回のオーナーのように、良い状態を維持していこうというファンが、みんなでクルマを守っているのだ。セリカXXのように幸せな車種が1車種でも多くあってくれますようにと、つい願ってしまう。

最後に「決意表明」として、今後このセリカXXにどう接していきたいか尋ねてみた。

「セリカXXは生きがいですね。このクルマのために働いているという気持ちは確かにあります。人から『譲って』と言われても断るでしょうね…。古いクルマで傷もありますが、きちんとコンディションを保って美しく維持していきたいです。そして、セリカXXの増車はもうしません。これ以上は持っていても手をつけられないですし、溺愛してくれるオーナーが乗ったほうがクルマにとっても幸せだと思いますから」。

白いボディカラーに黒い前期テール、そしてサンルーフを小粋に開けて気持ち良さそうにドライブしているセリカXXを見かけたら、それはきっとこの個体とオーナーだ。さらに、そのときにはフルオリジナルの状態に戻され、思わず息を飲むほど美しいコンディションを保っているに違いない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]