廃車にされるなら俺が乗る!と決意して早9年。1987年式トヨタ ・マークII グランデ ハードトップ(GX71型)
最新のクルマは果たして本当に最良なのか?そう考えてみたことはあるだろうか。
技術面において、日々進歩していることに異論の余地はないだろう。安全性、燃費、品質等々…。しかし「モノ」として見たときにはどうだろうか?
一般社団法人 日本レコード協会の統計によると、アナログレコードの生産実績は、ここ数年、右肩上がりで増加しているという。もちろん、ピーク時と比較したら少ない幅かもしれないが、デジタルオーディオプレーヤー全盛の現代において、意外に思われる方がいても不思議ではない。ただ、確実にレコードで聴く音に魅力を感じている人(あるいはその魅力を再認識した人)が増えていることは間違いない。
翻って、クルマはどうだろうか?春先から初夏、そして秋に掛けて、日本各地でクラシックカーイベントが目白押しだ。そして、天気の良い日曜日ともなれば、元気に走り回る「旧車」の姿を見掛けることも少なくない。人はなぜ、古いクルマに魅力を感じ、あらゆる苦労を乗り越えてでも所有するのだろうか?
今回は、「旧車」と呼ぶにはまだ早いかもしれないが、かつて一世を風靡したクルマを大切に所有しているオーナーを紹介したい。
「このクルマは、1987年式トヨタ・マークII グランデ ハードトップ(GX71型)です。手に入れてから約9年になります。現在、オドメーターは約12万キロ、そのうち私が乗ったのは約4万キロくらいでしょうか。実は、廃車にされる運命にあったこの個体に乗らないか?という話しがあり、それならば自分が乗ろうと決めて手に入れたクルマなんです」。
トヨタ・マークII(GX71型)(以下、マークII)は、兄弟車であるチェイサー・クレスタとともに1984年にデビューを果たした。ボディサイズは全長×全幅×全高:4690x1690x1385mm。オーナーの個体は「1G-E型」と呼ばれる、排気量1988cc、直列6気筒SOHCエンジンが搭載され、最高出力は130馬力を誇る。1968年にデビューした初代モデルから数えて5代目にあたり、1980年代の「ハイソカーブーム」を牽引したモデルといえる。この「ナナイチのマークII」といえば、オーナーが所有する個体と同じスーパーホワイトという名のボディカラーを連想する人も多いだろう。
ところで、本来であれば廃車にされる運命にあったこの個体を手に入れたということだが、どのような経緯でこのマークIIのオーナーとなったのか、詳しく伺ってみることにした。
「かつての勤め先がトヨタ系列のディーラーだったんです。その当時、先輩から『廃車依頼があるマークIIに乗ってみるか?』と声が掛かったんです。そのオーナーさんと面識があったこともあり、直接お会いして事情を伺ったところ、本当に廃車にされるおつもりだったようです。実は、半年前まで同じ型のマークII GTツインターボに乗っていたこともあり、多少はこのクルマの良さも分かっていたので、私に譲ってくださいとお願いしました。その際、ありがたいことに、取扱説明書や新車当時からの記録簿も譲ってくれたんです」。
廃車にするクルマである以上、取扱説明書や記録簿もセットで譲ってくれるのでは?と思われるかもしれない。しかし、やむを得ない事情で泣く泣く手放したオーナーであれば、思い出として手元に残しておくケースも少なくないし、モノによってはインターネットオークションに出品することもできる。これらの書類も含めて譲り受けることは、決して簡単にいかないケースがあることも、ここに記しておきたい。
さて、今回のマークIIのオーナーは、以前紹介したトヨタ スプリンター トレノ GT APEX(AE92型)をはじめとする複数のクルマを「保護」している。このように、不思議と一昔前のクルマを引き寄せる要因は何だろうか?
ワンオーナー車の貴重な個体を保護!FFエレガント・クーペ、トヨタ スプリンター トレノ GT APEX(AE92型)
https://gazoo.com/ilovecars/vehiclenavi/180505.html
「かつての職場の先輩から情報をいただいたり、人づてに『あなただったら何とかしてくれるじゃないか』と声が掛かることもあります(笑)。日産サニー(B12型)を最初に手に入れて以降、これまで何10台も乗り継いできましたが、新車はほとんど買ったことがないんです。現在、5台のクルマを所有(保護?)していますが、このマークIIの所有期間が一番長いですね。それほど気に入っています」。
さまざまなクルマを乗り継いできたオーナー。さまざまな理由で前オーナーが手放したクルマを「保護」して、大切に乗り継いでくれる新たなオーナーに引き継ぐこともあるようだ。そんな面倒見の良いオーナーが、どのようなきっかけでクルマが好きになったのか伺ってみた。
「中学校時代、部活の顧問だった先生の影響が大きいように思います。先生は、学校にセリカ リフトバック…いわゆる『ダルマセリカ』に乗ってきていたんです。現在、私は40歳になるので、このときは1990年代前半あたりだったと思います。その時点でもダルマセリカは20年以上前のクルマですから、既に旧車の部類に入りますよね。その先生は、排ガス規制前と規制後のダルマセリカを所有しているほどのマニアで…(笑)。驚くことに、このダルマセリカを現在でも所有されているそうです。さすがに通勤には他のクルマを使っているようですが…。ちなみに担任の先生(女性)は、日産エクサに乗っていました。今思うと、私が通っていた中学校の先生方は、なぜかクルマ好きが多かったように思います」。
この原体験がなければ、オーナーがマークIIやトレノを所有することもなかったかもしれない。数多くの愛車遍歴において、マークIIの気に入っているポイントを挙げてもらった。
「『直列6気筒エンジン + 5ナンバーサイズ + 角張ったボディ』でしょうか。現代のクルマに比べて動きが軽快ですし、構造がシンプルな分、壊れてもどうにか直せるんです。最近のクルマは電装品が多くなり、素人が手を出せるものではなくなってしまいましたから」。
所有するうえで、こだわっているポイントはどのあたりなのだろうか?
「当時のノーマルの雰囲気にこだわりたいですね。さすがにETCは取り付けましたが、カーナビは付けません。私が所有してからモディファイした箇所は、アルミホイールくらいです。これもGTツインターボやグランデ ツインカム24用の純正品です。私がインターネットオークションで手に入れた頃は安く落札できたのに、最近は高くなりましたよね…」。
最終モデルでも30年前になるナナイチのマークII、やはり部品の調達には苦労しているのだろうか?
「古いクルマばかり所有してきたからなのか、部品調達には独自の情報網やルートが自然とできあがっていきました(笑)。そのため『意外と何とかなっている』現状ですが、このマークII に関していえば、欠品している部品が多いです。この時代のマークIIは、既に解体されてしまっているか、現在所有しているオーナーが私のように手放さないので、一昔前のように中古部品でも探しにくくはなってきたように感じます。今、トランクのモールが落下して外れていますが、元の部品は手元にあるので修復して取り付ける予定です。手間とお金を惜しみなくつぎこんででも古いクルマを維持したいというオーナーのために、せめて、メーカーに受け皿というか、窓口を設けてもらえたら…と思いますね」。
最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。
「このマークIIは動く限り手放さないでしょうね。30年前のクルマですが、現代のクルマと遜色ない走りができますし、内装なんて、今のクルマよりも造りが豪華なんです。それと…、今装着されているナンバーに特別な思い入れがありまして。当時のナンバーのまま字光式に変更できるようなので、いつか替えてあげたいですね」。
ユーザーがクルマを買い替え続けなければ、自動車メーカーにとっては大打撃だ。立場上、常に魅力的なニューモデルを投入せざるを得ないだろう。これは当然だ。それであれば、細々とでも良いので、人々の記憶から忘れ去れていくクルマのことに意識を向けることはできないものだろうか?絶版車、そして旧車のコンディションを維持していくことは、いち個人やショップではどうしても限界がある。決して大きな利益にはならないかもしれないが、自動車メーカーだからこそ実現できることがあるように思えてならないのだ。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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