3年間探し続けてようやく出会えた運命の極上トレノを、10代から憧れたドリキン土屋のレプリカ仕様に!
デビュー40周年という大きな節目まであと2年となったトヨタ・AE86型スプリンタートレノ。奥村智志さん(52才)が所有するこちらのトレノは、ノーマルの車体を維持しつつボディや内装のヤレを一切感じさせない極上モノだ。
『頭文字D』の聖地として知られる榛名山の麓にある群馬県の渋川スカイランドパークで開催された『ディーズガレージオータムフェスティバル2021』。
AE86乗りの"ドリフトキング"土屋圭市氏をゲストに迎え、頭文字Dに登場する車種をはじめとする数多くのユーザーカーが集まったこのイベントに、愛車のAE86で愛知県から参加していた奥村さん。
そんな奥村さんとAE86との出会いは10代のころにさかのぼる。
「自分が18才で初めて手に入れたクルマがAE86だったんです。そのときはトレノじゃなくてレビンのほうでしたが、おなじ3ドアハッチバックタイプでしたね」
当時、AE86が世間から抱かれていた印象とは、安い中古車が出回り、パワーこそ少ないが軽いボディを活かして、自分好みにイジり倒せる遊びのための“走り屋グルマ"といったものだったという。
「ちょうどそのころ短大に通っていたのですが、同級生のお兄さんがAE86を持っているということで横に乗せてもらったんですね。そしたら、なんて乗っていて楽しいクルマなんだ! と感動して、自分で選んだのが当時のレビンでした」
また、そのころのクルマ好きの間で流行っていたのがVHSで毎月出版されるレース系ビデオの存在だ。そこにメインドライバーとして登場するドリキンこと土屋圭市氏の華麗な走りやトークを見聞きするうちに、自分にとって馴染みのあるストリート出身ドライバーながらもすでにレーサーとして頭角を表しつつあった姿に憧れを抱くようになっていったという。
しかし、そんな奥村さんだったが、自動車ディーラーへの就職を機に当時3年ほど乗っていたレビンを手放し、系列店で取り扱いのあるクルマへ乗り換えることに。そして、ディーラーにおける様々な経験を経て、30代になると思い切って独立を決意。空調関係の業務に携わる自営業者としての人生をスタートしたという。
「最初はもちろん仕事のことでいっぱいいっぱい。遊ぶ暇なんてとてもない状況だったんですが、少しずつ余裕ができるようになって、また10代20代のころに楽しんだクルマ遊びを再開しよう、と思ってAE86を探し始めたんです」
こうして車体を探し始めたのはおよそ18年前のこと。最初に買ったクルマがAE86だったことからの思い入れの深さ、そして当時さまざまなスポットを走っていたときに感じていたAE86ならではの特徴的な乗り味。それをもう一度味わいたいと思って探し始めたAE86だったが、ここで奥村さんにとってまったく予想外なことが。
「当時でも古いクルマだし、程度の良い車体が少ないのは予想していたんですが、それでもタマ数が少ない上に、価格が想像していたよりはるかに高かったんです。なんでだろう?と事情を調べていくうちに、頭文字Dの影響でとてつもない人気車種になっていることを知りました。私はAE86を探し始めて、それをきっかけに頭文字Dのことを知ったんですが、当時同じようなオジサンが多かったみたいですね(笑)」
そこから現在のトレノを探し当てるまでに要した期間はおよそ3年間。頻繁に中古車サイトやネットオークションをチェックし、気になる車体が見つかれば住まいのある愛知県から関西、東北まで足を伸ばして現車確認に行くほどの気の入れようだった。
「イマイチな状態のクルマを買ってそこから修理をしたり維持に苦労するよりは、最初にいい状態のクルマを買ったほうが絶対にいいと思ったんです」と奥村さん。じつは車体を探している3年の間に頭文字Dのアニメもしっかりチェックするようになり、主人公が乗るのと同色の“パンダトレノ”が欲しいと思うようになっていたそうだ。そして、ついにこの車体との出会いが訪れる。
「インターネットオークションに出品されていたんですが、結局入札がなかったクルマでした。それでも気になってオーナーと直接やり取りを始めました。すると走行距離は9万kmで保管は屋根下。雨の日は絶対に乗らないし、街中でも水たまりを避けて走る、といった乗り方をされていた完全ノーマル状態のクルマということがわかり、これなら大丈夫だと購入を決意しました」
それだけこだわって手に入れた車体の美しさはご覧の通り。とくにボディの状態が素晴らしく、エアロパーツを取り付ける際の部分塗装以外は、すべて新車当時の塗装がピカピカの状態で維持されている。
「維持に苦労したのはリヤハッチくらいですね。どうしても雨漏りするようになってきてしまい、そこは窓とウイング一体型の社外品に替えたんですが、ボディパーツを純正からまったく別物に換えることについてはとても葛藤があって半年くらい悩みました(笑)」
現在はこういったイベントなどで乗る機会に限定されているそうだが、それまでは日常使いからサーキット走行まで様々な用途に活躍していたそうで、快適に乗れるための工夫も様々な部分に施されている。
エンジンはガスケットまわりのオイル漏れを機に、カムシャフトなどの部品も新品に交換してオーバーホール。
エアコンはレトロフィット化キットにより現行のR134aガスを使用できるようになり、旧車ながらも好調をキープしている。
GTVグレードで購入時はパワステレスだったが、さすがに不便さを感じたためスイフト用の電動パワステを流用できるキットを使用して後付けで追加したそうだ。
もちろんインテリアも屋根下保管のおかげでインテリアの日焼けも全くないといえるほどの状態だ。
そのうえでシート、ステアリング、フロアマットなどのパーツは10代のころに走り屋として過ごした自分好みのアレンジを加えた仕様に仕上がっている。
そして、奥村さんのトレノの外見のもう一つの特徴が、10代からの憧れだった土屋圭市氏が所有する『土屋圭市AE86ストリート号』(上の写真が本物)をモチーフにしたレプリカ風の仕上がりとなっていることだ。
特徴的なボンネットのカラーリングは、インパルス製のカーボンボンネットに緑がかったクリア塗装で実現。
ホイールはこれまた土屋圭市ストリート号と同じくワークのマイスターCR01をチョイス。じつはこのホイールに換える以前は、過去に土屋氏本人がデザインして現在は廃盤となっているSSRのドリドリメッシュを履いていたという。
以前、富士スピードウェイのイベントに参加した際に書いてもらったという直筆サイン入りサンバイザーも装着している。
今回、奥村さんにとって記念だったといえるのが、こちらの土屋圭市ストリート号レプリカ仕様に仕上げてから、初めて土屋氏本人が来場するイベントへの参加となったということ。
そして、特徴的なボンネットのおかげか、土屋氏が参加者のクルマの中から賞典を決めるために会場内を散策するタイミングで、奥村さんのクルマの前に止まって話し込む場面も!
さらになんと、数多くの参加者がいるなかで、本人によって選ばれる土屋圭市賞の3台のうち1台にみごと選出され、記念のトロフィーまでもらうことができたのだ。
ちなみに、今回のイベントにはナビシートに19才の息子さんを乗せての参加。彼も父の影響が大きく、着々とクルマ好きに育っていて「お前にはまだハチロクは早い!」と奥村さんに言われながらも、愛車のフィットで運転技術を学び、AE86のドライバーシートを虎視眈々と狙う日々を過ごしているという。
いっぽう奥村さんにとっても、このトレノはまだまだ現役。いずれ、より土屋圭市ストリート号に近づくためにもエキマニの交換やエンジン本体のステップアップなど、車両を大事に維持するかたわらやりたいことがたくさん残っているとのこと。まだまだ息子さんの出番がやってくるのは遠い未来となりそうだ。
取材協力:ディーズガレージ
(⽂: 長谷川実路 / 撮影: 市 健治)
[ガズー編集部]
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