20代の青年があえて逆輸入車のアキュラ・NSXを愛車として選んだ理由

まもなく日本でもデビューを果たすであろう、2代目ホンダ・NSX。日本の路上でテストカーが目撃され、その模様を撮影した画像がネット上を賑わせている。

しかし、初代ホンダ・NSXが発売された当時の反響はより凄まじいものであった。NSXが登場したことで、フェラーリがこれを凌駕するべくフェラーリ・348をわずか5年の短命で終わらせ、文字通り「対抗馬」としてフェラーリ・F355をデビューさせたという説もあるほどだ。

初代ホンダ・NSXがデビューした1990年といえば、日本はまさにバブル景気真っ盛り。当時人気絶頂だった、日産・R32型スカイライン GT-Rの倍近い価格にも関わらず注文が殺到。納車まで2年待ちと言われた。このとき、ほぼ同時期にデビューしたトヨタ・セルシオの人気も同様で、やはり納車まで2年待ちと言われた。

いわゆるエンスージアストと呼ばれる人たちであれば、カレンダー2冊分の納車までの待ち時間を許容できるおおらかさを持ち合わせているかもしれない。なぜなら、注文さえすればいつかは確実に自分の手元にやってくるからだ。かつて、ポルシェ・ 959が販売されたとき、ファーストオーナーとなった人たちは納車まで4年待ったケースもあったという。しかし、多くの人はそれほど待ちきれるものではない。その前に気持ちが冷めてしまうかもしれないのだ。さらに魅力的なクルマが現れる可能性も否定できない。

そんな待ちきれない人たちのために、アメリカから逆輸入車が日本にやってきた。左ハンドル仕様のNSXやセルシオだ。興味がない人からすれば、日本仕様とそれほど差異のない外観だが、ハンドルは左。つまり「外車」だ。ステータス性を求める人にとっても、目立つことこの上ない。新車価格に加えてエクストラチャージを払えば、左ハンドル仕様のNSXやセルシオが即納できる。まさに一石二鳥なわけだ。

今回のアキュラ・NSXも、そんななかの1台ではないかとオーナー氏は語る。”HONDA”のエンブレムをあえて”ACURA”に交換するユーザーもいるが、このNSXは正真正銘、アキュラ・NSXだ。

手に入れてから3年ということだが、実はオーナー氏は20代半ばの若者だ。ということは、20代前半でアキュラ・NSXを購入したことになる。多少なりとも、背伸びをして手に入れたのだろう。とはいえ、生半可な努力で買えるものではない。

別のクルマを所有していたオーナー氏だったが、ある理由から車検を通せない状況にあった。そんな鬱屈とした日々を送っていたとき、フェラーリ・テスタロッサかフェラーリ・348、NSXの購入を思い立ったという。そして、NSXにターゲットを絞った。しかも、オーナー氏の求める仕様は極めてレアな「ホワイトのアキュラ・NSX」というものだった。やがて運命の出逢いが訪れる。懇意にしていた自動車販売店からまさに求める仕様のNSXがあると聞き、即決したという。それが今の愛車なのだ。

ホワイトといっても正確にはパールホワイトのボディカラーを纏ったこのNSXだが、元の色はシルバーで、前オーナーがオールペイントしたものではないかという。人目を惹くエアロパーツも前オーナーがモディファイしたようだ。既に絶版となっているアドバンス製の前後バンパー、ケーニッヒ製と思われるリアスポイラー。そして、ホンダ・シビック タイプRユーロ用のホイールをさりげなくチョイスしている。マフラーはワンオフ製。エンジンはノーマルのままだ。

車内はオリジナルのNSXのそのもの。しかし、左ハンドルになるだけでも雰囲気が異なって見えるから不思議なものだ。厚みのあるブラックのレザーシートも、今となってはクラシカルな雰囲気漂うデザインが魅力的だ。メーター類は輸出仕様。ステアリングはMOMO製に交換されている。

オーナー氏にとってこのNSXは、サーキットや高速道路を「スポーツカーらしく」走らせるためのものではないという。このNSXは、あくまでドライブを楽しむもの。この個体はAT仕様だが、NSXを購入するときにトランスミッションに対するこだわりはなかったそうだ。クルマそのものに対しての考え方に、新たな選択肢を増やしてくれたのもこのNSXだとオーナー氏は語る。「NSXを所有している、走らせている」という、オトコとしてのプライドとステータス性を満たしてくれる側面もあるのだろう。

社会人になって、あるいは学生時代から家を購入するためにコツコツ貯金をしている若者も珍しくないという。親世代からすれば堅実な選択だと思えるだろう。しかし、若いときに無茶をせず、いつするというのだ。家庭を持ってからこのオーナー氏と同じことをするには、突破しなければならないハードルが無数に増えている。事実上、不可能に近いことかもしれない。

オトコとしてのプライドとステータスを満たしてくれる存在。オーナー氏にとって、それがこのNSXだったのだ。人として、社会人として一人前の大人になっていく。後になって考えれば無駄遣いかもしれないし、遠回りをしている側面もあるだろう。それは仕事でがっちり稼いで取り返せばいいのだ。欲しいクルマを手に入れ、無駄遣いをし、さらに仕事に精進して自分を高めていく。若者にとってクルマとは、そんなオーナーの秘めたエネルギーを引き出してくれるためのマストアイテムであり続けて欲しいというのは、もう少し上の世代のエゴなのだろうか。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]