ニューヨーク市警で活躍した本物のパトカーを改造し公認車へ、フォード・クラウンビクトリア ポリスインターセプター

クルマ好きにはさまざまなジャンルがある。最新のスーパースポーツカーを乗り継ぐ人、クラシックカーを所有してレースに参加する人、愛車にお気に入りのアニメのキャラクターをラッピングしてイベントに参加する人、プライベートでクルマを改造し、サーキットを攻めている人…。細分化していったらキリがないだろう。

今回のオーナーが所有するクルマは、その中でも極めつけの1台かもしれない。何しろ「ニューヨーク市警で実際に使われていた本物のパトカー」、それがこのフォード・クラウンビクトリア ポリスインターセプター(以下、クラウンビクトリア)である。このクルマがかつてはニューヨークの街中を駆け回り、街の安全を守っていたのだ。

とはいえ、警察車両のままでは日本の公道を走らせることができないはずだと突っ込みを入れたくなると思う。その点はオーナーも心得ており、きちんと日本の路上を走れるように仕様変更を行った「公認車」であることを確認している。

幼少期から特殊車両が好きだったこのクルマのオーナーは、現在は自動車業界に従事している。このクラウンビクトリアは、ある日本人オーナーが所有していたものを譲り受けた。トヨタ・ハイラックスとしては3代目にあたるRN36型からスタートを切ったオーナーの愛車遍歴はおよそ50台。沖縄からやってきたという、左ハンドルの日産・セドリック(230型)や三菱・ジープ、ジープ グランドワゴニアなど、珍しいセダンやRV車が多いようだ。

オーナーのところにやってきて1年になるというこのクラウンビクトリアは、街中に出れば注目の的だ。平日は、お子さんの幼稚園への送迎に大活躍しているという。初めて送って行ったときは、園児たちはもちろんのこと、親御さんたちもびっくり仰天。幼稚園がちょっとしたパニック状態になったそうだ。そんな経緯もあり、幼稚園や小学校などにクラウンビクトリアを貸し出すことも多いという。子どもたちが目を輝かせてこのクルマを眺めている姿が容易に想像できる。きっと大人になっても「小さいとき、アメリカのパトカーを観たよな」と友人たちと懐かしむに違いない。

このクラウンビクトリアは、イベントでも引っ張りだこだ。毎年春に開催されるクラシックカーパレードでは先導車の役を担っているし、日本で公開された映画のジャパンプレミアイベントにも登場した。また、ある県警とは交通遺児育英基金のイベントを主催して人々の目を楽しませている。ニューヨーク市警を退役し、遠く離れた日本の地でこのような余生を送ることになろうとは、このクルマは夢にも思わなかっただろう。

異国の地で第2の人生を送っているクラウンビクトリアだが、毎週金曜日と土曜日の夜に東京・丸の内仲通りのイルミネーションが点灯する時期に合わせて「出動」している(2017年2月19日まで)。今回は、その場に駆けつけて取材を試みたというわけだ。丸の内の美しいイルミネーションの一画に、クラウンビクトリア他、数台のアメリカ車が1列に並んでいる。1950年代のキャデラックやピックアップトラック、珍しいクーペ、そして本物の軍用車まで。実に多彩な顔ぶれだ。

オーナーのクラウンビクトリアを含めて、この日は6台のアメリカ車が集まっていた。その勇姿をご覧いただきたい。

1955年式 キャデラック・フリートウッド60 スペシャル。所有して6年になるという
1959年式 キャデラック・クーペデビル シリーズ62。所有して8年になるという
1956年 フォード・F100。所有して6年になるという
1977年式 ポンティアック・ファイヤーバード エスプリ。当時、日本に正規輸入車として持ち込まれた貴重な1台だ
H1ハマーかと思いきや、米軍車両「HMMWV(ハンヴィー)」。軍用の払い下げ品で、屋根には機銃を置くための砲座がある

これだけバラエティに富んだクルマが集まっているのだから、自ずと注目される。老若男女を問わず、スマートフォンや携帯電話で記念写真を撮る人が後を絶たない。すると、記念写真を撮っていたり、興味深そうに車内を覗いている人々に各車のオーナーが声を掛け、カメラマン役を買って出たり、運転席に座るよう促しているのだ。昨年のクリスマスシーズンには、なんと数十人の行列ができるほどの人気だったという。

ちなみに、クルマを撮影している人々はマニアではない。丸の内のイルミネーションを楽しんでいる「偶然居合わせた人々」だ。若いカップルや家族連れ、お年寄りまで、実にさまざまな人々が集まってくる。サービス精神旺盛なオーナーたちの粋な計らいがフレンドリーな雰囲気を作り出し、自然と人々を惹きつけているのだろう。フォード・F100の荷台には若い女性3人が乗り、満面の笑みでポーズを撮っている。もちろんカメラマンはこのクルマのオーナーだ。

全国各地でさまざまなオフ会が開催されているが、その多くは参加者たちだけが楽しめるものばかりだろう。一般の人たちがおいそれと近寄れない空気を発していることも少なくない。スピーカーから大音量で音楽を流したり、タイヤのスキール音やマフラーの排気音で周囲を威圧するような行為を繰り返していたら、自らの手で肩身を狭くしているようなもの。結果として自分たちの居場所がなくなってしまいかねないことに早く気づいて欲しい。

「繁華街にクルマを停めるなんて、結局は自慢大会ではないのか」と思う人がいるかもしれないが、それは大きな間違いだ。自分のクルマを見せびらかせたり自慢したいような人たちが、積極的に愛車に触れさせたり、運転席に座ることを促せるだろうか。クラウンビクトリアのオーナーも「常にきれいな状態で撮影してもらいたいから」と、必ず2日に1度の洗車を欠かしたことはない。この寒空の下でも、忙しい時間の合間を縫って愛車を磨いているのだ。

今回のオーナーやアメリカ車のオーナーたちと街行く人たちとの交流は、日本の自動車文化の、理想型のひとつではないだろうか。自分たちだけが楽しむのもいいが、周囲の人に配慮した共存共栄こそが必要だと痛感した。ニューヨークの人々の平和な暮らしを守るためのパトカーが、今は日本の人々の目を楽しませている。まるで遊園地の施設の一角が現れたかのような、ハッピーで暖かな空気が真冬の丸の内を彩っているようで印象的だった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]