英国車に魅了されたオーナーに嫁いできた、ケータハム・スーパーセブン
このクルマの車名を知らないという人でも、快音を響かせて駆け抜けて行く姿を見たことがあるというクルマ好きな人は、案外多いのではないだろうか。
ケータハム・スーパーセブン。普段はセダンやステーションワゴンなどに乗り、天気の良い休日の早朝には、趣味用としてこのクルマでドライブしたら、どれほど楽しいだろう。ふと、そんなカーライフを想像したくなる1台だ。
今年で58歳になるというオーナーが所有するクルマには驚く。この1993年式ケータハム・スーパーセブン以外にも、1959年式トライアンフ・TR3A(オーナーと同年代だ!)、1981年式MG-Bという、イギリス製オープンカー3台をガレージに収めているのだ!
とはいえ、断固としてイギリス製オープンカーしか乗らないというわけではない。初めて所有したクルマはホンダ・プレリュード(初代)。その後、現在も所有しているトライアンフ・TR3A(以下、トライアンフ)や、プジョー・504、ホンダ・シビックなど、愛車遍歴の台数に限っていえば決して多い方ではない。オーナーは1台のクルマと長く付き合うタイプなのだ。中でも、トライアンフとの付き合いは30年になるという。自検協(一般財団法人 自動車検査登録情報協会)が発表している統計によると、2016年3月末時点で自動車の平均使用年数は12.76年だ(軽自動車は除く)。2006年3月末時点では11.10年、1996年3月末時点では9.27年と、年々、使用年数は長くなる傾向にあるようだが、それをはるかに超えている。こうなると、もう家族同然の存在といえるだろう。
現在所有しているケータハム・スーパーセブン 1700スプリントSS(以下、スーパーセブン)は、手に入れてから1年弱とのことだ。しかし、オーナーのガレージには数年前から住みついていたという。それはどういうことなのだろうか?
「20代の頃はシェルビー・コブラ(427)が憧れの存在でした。MG-Bを手に入れたのはコブラの影響が大きいと思います。私のトライアンフやMG-Bをメンテナンスしてくれている主治医が、このスーパーセブンの前オーナーなんです。しかも共同所有という形だったので、もう1人オーナーがいました。過去に1度、譲って欲しいと頼んだのですが、共同オーナーである2人から了承が得られずに断念。その後、ある事情から数年ほど自宅ガレージで預かっていました。その間は乗るわけでもなく、ずっと眠らせていました。そのうち、片方のオーナーが太ってスーパーセブンに乗れなくなってしまったそうなんです。このクルマのコクピットは窮屈ですからね(笑)。そこで私に買わないかという話がきた、というわけです」。
一度は諦めたスーパーセブンが、ふとしたきっかけでオーナーになれる話が、向こうから舞い込んできた。即決で購入したのかと思いきや、そうではなかったようだ。「すでにトライアンフとMG-Bを所有していましたし、3台ともキャラクターが被っていますからね。自分の年齢のこともあり、エアコンが効いて移動が楽なクルマに乗ることも考えました。何しろ、30年間所有しているトライアンフをそろそろ手放そうかと思っていたくらいですから。1週間悩みました…。それでも結論が出ず、結局10日ほど考えた末、購入することにしたんです」。
こうして、居候状態のまま自宅ガレージで眠っていたスーパーセブンは晴れてオーナーのクルマとなった。果たしてどんなシーンでドライブを楽しんでいるのだろうか。「主に走るのは首都高ですね。天気の良い日中が多いですよ。このクルマ、フロントウインドウが備えつけられてはいるんですが、ほとんど役に立ちません(苦笑)。飛ばすとコクピットに風が巻き込んでくるので、ハイスピードだと疲れてしまいます。空いている首都高は適度な速度で流れていて、3〜4速を多用できる。スーパーセブンで走るには、ちょうど良いステージなんですね」。確かに、天気の良い日中にスーパーセブンで首都高を走らせたら、さぞかし気持ちがいいだろう。オーナーは主に昼間のドライブを楽しんでいるようだが、東京の夜景の中を走らせても気持ち良さそうだ。
「このスーパーセブン、最初のオーナーが慣らし運転の段階で、エンジンを回しすぎて壊してしまったらしいんですね。新たに組み直す際、ピストンの交換やオイルクーラーを追加、排気系のタコ足化などのモディファイを加えたそうです。その恩恵なのか、ノーマルの1700スプリントSSよりもパワーがあるみたいですよ。このエンジンの特性を考慮して、なるべく3000rpm以下では走らせないようにしています」。車体の軽さと適度にチューニングされたエンジンの恩恵で、スタートダッシュの速さはかなりのもののようだ。
オーナーより、スーパーセブンの購入を考えている方には知っておいていただきたいことがあるという。このクルマに乗るということは、リスクと隣り合わせだという点だ。「スーパーセブンは、アルミボディーなので車体が軽いんです。さらに軽さを求めてスペアタイヤを外してしまう方がいるんですね。それは絶対にお勧めしません。このタイヤがクッション代わりとなり、追突されたときの衝撃を和らげてくれるんです。万一、事故に巻き込まれたら、ドライバーへの影響が大きいクルマでもあるんです。スーパーセブンに乗るということは、そういう緊張感と隣り合わせだということをお伝えしておきたいと思います」。確かに、インプレッション記事でそこまで語ることは困難だ。まさにオーナーならではの視点であり、気遣いといえるだろう。
「主治医との付き合いも長くなりましたね。ガレージとクルマの鍵も渡してあります。『私がいないときでも勝手に持っていってください、という感覚です(笑)』」。主治医の工場が、自宅から近いところにあり、合い鍵を渡せるような信頼関係を築いている。こんなところにもイギリス製オープンカーを3台所有している理由がありそうだ。
「イギリス車に乗っているので、それなりにこだわりがあると思われがちですが、実は『ない』んです(笑)。自然体で乗っていますし、年を取ってきたので雨の日は乗りません。強いて言えば洗車をしないことくらいでしょうか」。端から見れば3台のイギリス製オープンカー、しかもクラシカルなモデルばかりを所有しているとなれば「なぜ同じようなクルマばかり所有しているんだろう?」と不思議に思われるかもしれない。しかし、イギリス製とはいえメーカーが異なるわけだし、人によってはわずかな差にしか思えないことでも、実はまったくフィーリングが異なるということは、所有してみなければ分からない。事実、トライアンフはSUキャブのチョーク、MG-Bはホーリーキャブのセミチョーク、そしてスーパーセブンはチョーク無しのウェーバーキャブと、キャブレターひとつ取っても差異がある。この違いを口で説明するのは困難だろうし、そんな必要もない。オーナー自身が楽しめていればそれでいいのだ。
「60代半ばくらいまで、身体がキツくならない限りは乗り続けたいですね」と語るオーナーは実に自然体で、自分の好きなクルマに囲まれて暮らしている姿は本当に格好良かった。オトコに生まれたからには、こんな風に年齢を重ねて趣味であるクルマを極めたい、そんな理想像を垣間見た取材となった。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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