休日を非日常に!1992年式ロータス・エランターボSE(M100型)と暮らす、ベテランオーナーのカーライフ

あの頃は手の届かなかった存在。そう思っていたクルマが、縁あって自分のもとへ来てくれたなら…。

今回登場するオーナーは、憧れだった1992年式のロータス・エランターボSE(M100型/以下、エラン)を手に入れた、48歳の男性オーナーだ。根っからのクルマ好きで、さまざまな車種を乗り継いできた「カーライフのベテランの域に達した人」でもある。そこで、まずは愛車遍歴から伺ってみた。

「通勤用のクルマを含めて同時所有することが多かったので、覚えている範囲ですが、日産・ブルーバード、日産・パルサーGTI-R、ホンダ・トゥディ、トヨタ・スターレット(EP71型)、トヨタ・カローラGT、マツダ・クレフ、スズキ・スイフトスポーツ、トヨタ・ランドクルーザー60、トヨタ・クラウンロイヤルサルーンスーパーチャージャー、トヨタ・クラウン(15系)、スズキ・ジムニー、ポルシェ・914、トヨタ・プリウスα、VW・パサートヴァリアントなど、さまざまなクルマを乗り継いできました。振り返ってみると、比較的マニアックな車種や、スーパーカーが好みのようです。クルマが好きになったのは兄の影響だと思います。小学校1年生の頃、『サーキットの狼』を読んだり、近所にあった百貨店に展示されていたフェラーリ512BBやランボルギーニ・カウンタックを見に行ったのが原体験かもしれません」

そんなオーナーのクルマ好きに対して、家族の反応は?

「家計は妻にまかせてあるので、乗りたいクルマがあれば概算の見積りを提出して、許可を得ています。だいたい難色を示されますが(笑)。とはいえ、妻の理解があるからこそ、現在のようなカーライフを楽しめていることはまぎれもない事実なので、とても感謝しています」

目の前に佇む真紅のエランは、友人から譲り受けた個体だそうだ。所有してから約2年半。現在の走行距離は6万5000キロ。オーナーの元に来てからは約5000キロを走破したという。

「このエランは発売当時から欲しいと思っていた1台でしたが、新車の価格が650万円と高額で、とても手の届く存在ではありませんでした。総生産台数は3800台くらいだったと記憶しています。当時の正規輸入車は200台ほどで、並行輸入もあったみたいですね。スーパーカーを連想させるスタイリングが好きなので、このリトラクタブルヘッドライトはたまらないですね」

オーナーがこよなく愛するシリーズ2代目のエランは、GM(ゼネラルモーターズ)の傘下入りから3年後の1989年に発表された。「エラン」としては15年ぶりの復活。ボディサイズは全長×全幅×全高3880×1730×1270mmで、駆動方式はFF。エンジンは当時GM傘下だった、いすゞの直列4気筒DOHC16バルブICターボを搭載し、最高出力は165馬力を発生した。ちなみに、エランには1600ccの直列4気筒NAエンジンとターボモデルの2タイプがラインナップされていたが、日本へ導入されたのはターボモデルのみだった。オーナーは発売当時を振り返る。

「あの頃は、ちょうど初代エランをリスペクトしたと言われていたユーノス・ロードスター(NA型)が発売されたときでした。同じライトウエイトオープンカー同士、よく比較されていましたよね。ロードスターの駆動方式はFRで、価格は良心的な200万円台。対してエランは何倍も高額ですし、なぜFFになってしまったのかと思ったことは事実でしたね(笑)」

オーナーのエランは、ロータスとしては「ほぼ」最終型にあたる。実は、ロータスとして1992年に生産終了した後、1996年に韓国の起亜自動車より「キア・ビガート」として発売され、日本にも少数が輸入されたようだ。しかし、1997年にはその短い生涯を終えるという、数奇な運命をたどったスポーツカーでもあるのだ。

まさに、運命に翻弄された感もある2代目エラン。オーナーは友人から譲り受けたそうだが、購入の決め手となったもの何だったのだろうか?

「赤いボディカラーに一目惚れでした。これがシルバーやグリーンだったら、また印象が違っていたと思います。それから、リアビューに惹かれましたね。昔でいう『バックシャン』です。スーパーカーの持つグラマラスさやワイド感のあるスタイルが気に入っています」

実際に所有してみて、変化したことや気づきはあったのだろうか?

「FFらしい走りで、コーナリングが気持ちいいです。かつてのホンダ車のような、例えばグランドシビックやワンダーシビック、サイバーCR-Xを思わせる操舵性があります。それから、オープンの爽快感を知ったことも大きいですね。エランに乗るときはほぼ休日なので、特別感を味わうために基本的にはオープンの状態で乗っています。走っているとカメラやスマートフォンを向けられることも増えましたし、信号待ちのときには、その場にいる子どもたちが大騒ぎです(笑)」

実は、オープンでのドライブは、季節を問わず楽しめる。冬はヒーターを効かせて(外気を取り込めばエンジンの熱でも暖かい)「露天風呂」の感覚で楽しめるし、夏は涼しくなった夕暮れに走るのも格別だ。

このエランには、本来であればシンプルな本革シートが装着されているはずだが、オーナーの車内には二脚のRECAROシートが鎮座していた。これは「ホーネット」という名の限定モデルだ。1990年代前半に発売されたシートだけに、現存しているものは極めて少ないだろう。シートを交換しているならば、他にもこだわりがあるだろうと思い、他にもモディファイが施されているのか尋ねてみた。

「テクノマグネシオ製のホイールは購入時から装着されていましたが、RECAROシートは、当時行きつけのショップで手に入れたシートなんです。高価だったので1脚だけ買うつもりでしたが『この種のシートは2脚装着していないと違和感がある』と、ショップの方にそそのかされて(?)、セットで購入してしまいました。昔から、クルマを購入するとすぐ、ホイールやマフラーを交換する派なんですよ。妻の愛車にもBBSを履かせていますし(笑)」

ボディカラーとコーディネートされたような赤いMOMOのステアリングは、エランに合わせたのだろうか?

「MOMOのCOMMANDOはたまたま、前に乗っていたポルシェ・914に取り付けていたものなんです。実は車高も下げているんですけど、車高調は仲間が使っているのを見て購入しました。確か、イギリスのメーカーだったと思います」

車高が程よく落とされていることで、エランのグラマラスなスタイルが引き立っている。お気に入りだという「バックシャン」からの眺めも一層魅力的だ。

最後に、この愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「人と同じクルマには乗りたくない性分なんです。そのため、他の人とは被らないクルマにこだわってしまいます。その性格がエランを引き寄せてくれたのかもしれません。古いクルマですが、キーを捻ればすぐ走り出せる『気兼ねないスーパーカー』であるところが気に入っています。きっと、余程のことが起きないかぎり、手放さないでしょう。幸い、周囲は根っからのクルマ好きの仲間たちばかりですし(笑)。 そんな仲間と一緒にエランとの暮らしを楽しんでいけたらいいですね」

2代目ロータス・エランは、自動車史上では「不遇のモデル」だったのかもしれない。しかし、このように年月を経てクルマ好きのオーナーに愛されている姿を目にすると、そんな評価などはどうでもよくなってしまう。人に愛されるクルマであれば市場の価値は関係ない、と感じずにはいられないのだ。魅力的な1台とオーナーに出会うことができ、実に清々しい取材となった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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