25年をともに過ごした、82歳のオーナーが所有するワンオーナー車のユーノス・ロードスター Vスペシャル(NA6CE型)

この取材を続けていると、不思議と新車で手に入れたクルマと、長きに渡り暮らしているオーナーに出会う機会が多いように思う。しかも、所有歴が20年を超えているケースも少なくないのだ。長い時間をともにすることで、もはや手放すことができない、家族同然のような存在となっているのだろうか…。

今回は、以前、トヨタ・マークII グランデ レガリアを取材させていただいたオーナーが所有する、もう1台の愛車であるワンオーナー車をご紹介したい。

「このクルマは、1993年式ユーノス・ロードスター Vスペシャル(以下、ユーノス・ロードスター)です。新車で手に入れて、現在まで8.7万キロほど走りました。当時、街中で白いユーノス・ロードスターを見掛けて、リトラクタブルヘッドライトが印象に残っていたんです。その後、グリーンに塗られたVスペシャルというグレードがあることを知り、買うならこれだろうと心に決めてから数年後、ようやく手に入れることができました。ちょうど、購入したタイミングが。1.6リッターモデルの最終型が売られていた時期だったと思います」。

ユーノス・ロードスターがデビューした1989年は、日本車にとってまさに当たり年。ビンテージイヤーだった。その中でも、このクルマは特に印象的だったのではないだろうか。「ライトウェイトスポーツカー」という古典的なパッケージは、当時、多くのクルマが大排気量とパワーを競い合っていた時代に一石を投じた存在だったと言えるかもしれない。

その後、マツダ・ロードスターと名前を変え、現行モデルでは4代目となった。1989年にデビューしてから今日に至るまで生産が続けられているロードスターは、2016年4 月には累計生産台数が100万台を突破し、「2人乗り小型オープンスポーツカー」としての生産累計世界一のギネス世界記録を更新している。ロードスターは、今や日本を代表するクルマの1つであり、歴代すべてのモデルが世界中のクルマ好きに愛されていることは間違いない。

ユーノス・ロードスターのボディサイズは全長×全幅×全高:3970x1675x1235mm。オーナーの個体は「B6-ZE型」と呼ばれる、排気量1597cc、直列4気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は120馬力を誇る。なお、オーナーがこの個体を手に入れた直後に行われた1回目のマイナーチェンジで、エンジンの排気量が1839ccに拡大され、最高出力は130馬力となった。その後、2回目のマイナーチェンジでは、コンピューター制御の性能向上などが行われ、さらなるフィーリングの向上が図られた。

こうして、念願だったユーノス・ロードスターを手に入れたオーナー。どのような仕様を注文したのだろうか?

「ネオグリーンというボディカラーが気に入っていたので、Vスペシャルを購入しました。主なオプション装備は、純正リップスポイラー・スカッフプレート・キックプレート・ウッドパネル・トノカバーです。また、その当時、純正オプションだったマツダスピード製のシフトノブやサスペンションキットを組み込み、CIBIE製のイエローフォグランプも装着しました。購入後に、エスハチミラーやロールバー、アルミ製フューエルリッドなどを取り付けました。特にお気に入りなのは、VR LIMITED コンビネーション B用に設定されたものと同じグリーンの幌と、純正オプションのワイヤーホイールです。このワイヤーホイールは、若いときに乗っていたMG-Aを思い起こさせてくれるんです」。

若きオーナーがMG-Aに乗っている写真を見せてもらった。ユーノス・ロードスターは、懐かしい青春の思い出を振り返るうえで欠かせない存在なのかもしれない。

「当時、純正オプションでワイヤーホイールの設定があると知り、懐かしくなって思わず購入してしまいました。MG-Aはとにかく運転していてガタガタしていた記憶があります。その点、ユーノス・ロードスターは故障もないし、維持費も掛からず、しかも乗りやすい。シフトチェンジが楽しいことも魅力ですね。このクルマを手に入れたときは、オープンにして湘南あたりをよく走ったものです」。

とはいえ、四半世紀前に造られたクルマだ。維持するうえで気をつけていることはないのだろうか?

「特にありませんが、雨の日にはもう1台所有しているマークIIに乗るようにしています。あとは、ディーラーでメンテナンスしてもらうことくらいでしょうか。先日も、ガレージの床にエンジンオイルのにじみが見つかり、相談したところ、『車検時期が近いので、そのときに修理しましょう』ということになりました」。

20年前に造られたクルマとともに今も現役!82歳のオーナーの愛車はトヨタ・マークII グランデ レガリア(JZX100)
https://gazoo.com/ilovecars/vehiclenavi/180331.html

ワンオーナー車ならではの、ていねいに使い込まれた印象があるオーナーのユーノス・ロードスターだが、もっとも気に入っている点を伺ってみた。

「正面から見たときのアングルですね。リトラクタブルヘッドライトと、CIBIE製のイエローフォグランプのレイアウト、そして純正リップスポイラーが装着されることで全体が低く見えるところが特にお気に入りなんです。25年間所有していても、いまだにいいデザインだなあと思います」。

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「マークIIのときもお話ししましたが、どんなに運転できるとしても、あと3年が限度でしょう。そのときは、このクルマを大切に乗ってくださる方に譲りたいと思います。先日発表されたレストアサービスも気になっていますし、ひとまず、可能な限り現在のコンディションを維持していきたいです」。

ユーノス・ロードスターは、1997年に生産終了となるまで2度のマイナーチェンジが行われ、その間にさまざまな限定車が発売された。それぞれのモデルが熱狂的なファンの手によって現存している個体も多い。また、海外にも輸出されたユーノス・ロードスター(輸出仕様ではミアータ・MX-5と呼称されていたが)は、世界中のクルマ好きに愛される、2シーターオープンスポーツカーの代名詞となったと言って良いだろう。

2017年に開始されたユーノス・ロードスターのレストアサービスは、マツダにとっても大英断だったのではないかと思う。クルマ好きとしてはぜひ実現したいという気持ちがあっても、社員という立場で考えたときには一筋縄ではいかないことは容易に想像がつく。メーカーとしては半端なことはできないだろうし、ましてやボランティアというわけにもいかない。そして、このプロジェクトを支えるサプライヤーの理解・協力・努力がなければ実現しないからだ。もしかしたら、当時の部品とは多少質感が異なるかもしれないし、割高と感じることもあるだろう。しかし、日本の自動車メーカーがいち事業としてレストアサービスを始めたという「心意気」に対する嬉しさと、新しい時代の訪れを感じた人も多いだろう。

多くの旧車・絶版車のオーナーたちが、部品の入手・確保に奔走している現実がある。自動車メーカーとしては非常に手間の掛かる事業かもしれないが、オーナーの個体を含めた1台でも多くのユーノス・ロードスター、そして旧車・絶版車を後世に残すことをそろそろ本気で考える時期に差し掛かっているのではないかと思えてならないのだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]